昭和21年9月 鶴子と小鶴
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
岡田鶴子(小鶴) 幸子の母親 18歳
もみじ 先斗町の芸妓 23歳
松本好江 先斗町 置屋「松本」の女将 55歳
もみ春 先斗町の芸妓 22歳
豆千代 先斗町の舞妓 16歳
芸妓A 10代後半~20代前半
芸妓B 10代後半~20代前半
芸妓C 10代後半~20代前半
エマ(声) 昭和39年の人物 場末のキャバレーのホステス
通行人
38鴨川の河原(昭和21年 長月 夕)
夕焼け空に 赤トンボが舞っている
テロップ 昭和21年 神無月
通行人 不思議そうな顔をして 置屋松本の物
干し台を見上げる
物干し台には 一列に並んだ数枚の白いオムツ
が風になびいている
39置屋 松本の二階の座敷(夕)
窓の外には 鴨川が流れ遠くには夕陽に照らさ
れた東山の峰々が見える
もみ春 豆千代 芸妓A B C 団扇で布団
に寝ている赤ん坊(幸子)を扇いでい
る
もみ春「こんな 四方八方から 扇いだら 寒む
ないやろか?」
豆千代 芸妓A B C 首をかしげる
鶴子 窓際に立って外を眺めている
好江(声)「あんた これから どないするつも
り?」
鶴子 振り向くと好江がいる
好江 「もの言われへんようになるぐらいやさか
い よっぽど辛い事が あったんやろ
な?」
鶴子 うつむく
好江 「でも 今の世の中 あんた見たいに
戦争で 人生狂わされた人 ばっかりや
(豆千代 芸妓 A B Cを見て) こ
こにいる子も そんな子ばっかり あん
ただけとちゃうし みーんな 可哀そう
な子ばっかしやし」
鶴子 うつむく
遠くから鐘の音がする
好江 「何があったか知らんけど もっと 元気
出さな! お母さんが そんなんやった
ら ポンチャン 可哀そうやないの!」
鶴子 「・・・」
好江 「(遠くを見つめて)あんた・・・ あん
た 芸妓はんに なるつもりないかぁ
ー?」
鶴子 驚いて 好江を見る
もみじ(声)「ほんまや! それ 名案やわ!」
鶴子 右に振り向くと もみじがいる
もみじ「あんた べっぴんさんやし 芸妓はん
向いてると思うわぁー」
もみ春(声)「ポンチャンの為にも 働かん
と!」
鶴子 左に振り向くと もみ春がいる
もみ春「ポンチャンの世話は(赤ん坊をうちわで
扇いでる豆千代を見て) あの子がする
し 心配いらへんで」
豆千代 鶴子を見て微笑む
好江 「そやけど 喋ってくれへんかったら 商
売にならへんしなぁー」
もみ春「そうどすなぁー 喋らん 芸妓はんでは
あきまへんなぁー」
もみじ「(鶴子に)ポンチャンのほんまの名前
何ちゅうの?(と 鶴子を見つめる)」
好江 もみ春 鶴子を見つめる
鶴子 「(眉間にしわを寄せて)・・・さ・・・
さ・・・ 幸子・・・」
もみじ「しゃ・・・ しゃべった・・・」
好江 もみ春 顔を見合わせる
もみじ「で あんたの名前は?」
鶴子 「(眉間にしわを寄せて)・・・つ・・・
つ・・・ 鶴子・・・」
もみ春「(大声で)喋った!」
豆千代 芸妓A B C 驚いて 近寄って来る
好江 「鶴子・・・ そやったら 今日から
あんたは 小鶴や!」
もみじ「小鶴・・・ ええ 名前どすな!」
もみじ もみ春 豆千代 芸妓A B C 声を
揃えて「小鶴はん よろしゅー
おたのもうしますー」
鶴子 困った顔をして頭を下げる
エマの声「リリー リリー・・・」
つづく




