昭和20年8月14日 終戦前日 陸軍飛行場
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
岡田鶴子(小鶴) 幸子の母親 関西のとある陸軍飛行場で勤労奉仕をしている 17歳
石田幸夫 陸軍少尉(特攻隊員 学徒) 幸子の鎌倉の家の隣人の優也と二役 21歳
32関西のとある陸軍飛行場(昭和20年8月14日
終戦の前日 昼下がり)
青空に 日の丸を付けた戦闘機が爆音を立てて
飛んで行く
テロップ 昭和20年葉月 終戦前日
爆音が遠ざかると蝉の鳴き声へと変わる
鶴子(17) お下げ髪で白いブラウス モン
ペ姿)と陸軍少尉の石田幸夫(21 飛行服)
が 草むらに並んで座っている
幸夫 「やっと 明日 部品が届くみたいなん
だ」
鶴子 「そうなんですか よかったですね!」
幸夫 「これで やっと みんなの所へ戻れる
短い間だったけど 鶴子ちゃんには
いろいろと お世話になったね ありが
とう!」
鶴子 「こちらこそ ボタンの付け方 教えても
ろて おおきに」
幸夫 「僕んちは親一人子一人の家だから 何で
も自分でしなきゃダメだったから裁縫は
得意なんだ」
鶴子 「へー」
幸夫 「母が病気がちでね それで・・・ もっ
と教えてあげたいんだけど もう 時間
がないや」
鶴子 「お母さん 東京に いはるんですか?」
幸夫 「(首を横に振って空を見上げて)この間
の空襲で やられちゃったよ 大学出た
ら一生懸命 働いて 楽させてあげたか
ったんだけど・・・」
鶴子 「そ そやったんですか・・・ ごめんな
さい・・・」
幸夫 首を横に振る
鶴子 「でも そやったら 私と 一緒や!(と
空を見上げる)」
幸夫 「一緒って?」
鶴子 「うちも空襲で お父ちゃん お母ちゃん
それから お姉ちゃんも 全部やられて
しもたんです」
幸夫 「そうだったの・・・」
鶴子 「おまけに お兄ちゃんも 特攻
で・・・」
幸夫 「へー お兄様も パイロットだったん
だ」
鶴子 「はい! 海軍兵学校出たんですよ!それ
に大尉さんまでになったんですよ! 凄
いでしょう!」
幸夫 「それは 凄い! 学徒の僕とは 月とス
ッポンだ!」
鶴子 「将来は大きな軍艦の艦長さんになるはず
やったのに・・・」
小鶴 「(空を見上げて)一家全滅ですわぁ」
幸夫 「そうだったんだ・・・ 辛い事 思い出
せちゃたね ごめんなさい」
鶴子 「(首を横に振って)いいんです これか
ら一人で生きていかなあかんし もっと
強よなって お父ちゃん お母ちゃん
お姉ちゃん それとお兄ちゃんの分まで
頑張って生きて行かな あかんしね
めそめそ なんて してられません!」
幸夫 「そう・・・ 鶴子ちゃんは 凄いなぁ
ー」
鶴子 「凄いって?」
幸夫 「だって 死にに行く人間に生きて行くこ
とを言うんだもん」
鶴子 「死にって・・・ ご ごめんなさ
い・・・」
幸夫 「謝らなくったっていいよ 負けると判っ
てるのに死にに行く者の方が どうかし
てるんだから」
鶴子 「えっ!? 日本 負けるんですか?」
幸夫 「う うん たぶん・・・」
鶴子 「そやったら 何んで 負けると判ってる
のに石田さんは行かはるんですか?」
幸夫 「同期の奴らは もう 半分以上も逝って
しまったんだ 僕も逝かないと あの世
で奴らに合わせる顔がないんだよ」
鶴子 「そ そんなん・・・」
幸夫 「もう これは 戦争なんかじゃない
ただの意地の張り合さ」
鶴子 「石田さん! 絶対 死んだらあかんよ!
生きて帰って来てくださいね また お
裁縫教えて下さいね ぜったいです
よ!」
幸夫 「(空を見上げて)もし もし 生まれ変
わる事が出来たら・・・」
鶴子 幸夫の顔を見る
幸夫 「今度は 旅客機に 乗りたいな・・・」
鶴子 「旅客機?」
幸夫 「うん それで 世界中の空を飛ぶんだ」
鶴子 「世界中の?」
幸夫 「鶴子ちゃん 今にね 飛行機でブーンて
世界中を旅行 出来る日が必ず来よ!」
鶴子 「世界中を? 飛行機で ブーンて?」
幸夫 軽くうなずき 空を見上げると 鶴子も
空を見上げる
青空に白い雲が流れて行く
つづく




