昭和21年8月 京都先斗町
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
岡田鶴子(小鶴) 幸子の母親 17歳
もみじ 先斗町の芸妓 23歳
松本好江 先斗町の置屋「松本」の女将 55歳
もみ春 先斗町の芸妓 22歳
豆千代 先斗町の舞妓 16歳
芸妓A 先斗町の芸妓 10代後半
芸妓B 先斗町の芸妓 10代後半
芸妓C 先斗町の芸妓 10代後半
岡田幸子 0歳
26ギラギラと輝く真夏の太陽
27先斗町歌舞練場前(昭和21年8月 朝)
騒がしく蝉が鳴いている
陽炎の先に 鶴子(小鶴)が汚れた服を着て
赤ん坊を背負ってふらふらと歩いている
テロップ 昭和21年 葉月
通りかかった もみじ それを見る
鶴子 道路に倒れかかる
もみじ「(鶴子を支えて)だ 大丈夫?」
鶴子 虚ろな眼でもみじを見て もみじに寄り
かかる
28置屋 松本の玄関
もみじ 小鶴を支えて入って来て
もみじ「お母ーさーん! お母ーさーん! お母
ーさーん!」
奥から 好江の声がする
好江(声)「なんえー!」
もみじ「えらいことどすー! えらいことどすね
ん!」
好江 「(慌てて奥から来て)えらいことって
朝から そんな 大きい声出して何事ど
す?」
もみじ 鶴子を支えて立っている
好江 「(驚いて)その子 どないしたん!?」
もみじ「歌舞練場の前で倒れかけてはったんど
す」
好江 「そおかぁー ええさかいに ちょっと
そこに寝かしてあげよし!」
もみじ「せ 背中に 赤ちゃんが・・・」
鶴子の背中で寝ている 赤ん坊の顔
29同 二階の座敷
窓の外は鴨川が流れ遠くには東山の峰が連なっ
ている
布団に寝ている赤ん坊を もみ春 豆千代
他 数人の芸妓が覗き込んでいる
もみ春 「可愛い顔したはんなぁー」
一同 うなずく
芸妓A 「あの子 どこから 来はったんやろ
な?」
芸妓B 「あの子 やっぱり 浮浪児やろか?」
芸妓C 「どっかから 逃げて 来はったたんち
ゃう?」
芸妓A 「逃げて来たって?」
芸妓C 「姑さんに いじめらたとか・・・」
芸妓B 「京都の姑はんは 怖わおすもんなぁ
ー」
一同 笑う
と 突然 赤ん坊が泣き出す
もみ春 「いや! どないしょ?!」
芸妓A 「おしめ やろか?」
芸妓B 「この泣き方は お乳 ちゃう?」
もみ春 「あんた 赤ちゃん 産んだ事あん
の?」
芸妓B 首を横に振る
もみ春 「(豆千代に)豆ちゃん あの子は?」
豆千代 「まだ お風呂やと思います」
もみ春 「そうかぁー あんた お乳 出る?」
豆千代 激しく首を横に振る
30浴場
脱衣場で もみじが浴衣の用意をしている
戸の向こうでは 鶴子が湯船に浸かっている
もみじ 「大丈夫?」
返事が無い
もみじ 心配そうに 風呂場を覗く
鶴子 湯船に顔を浸ける
もみじ 首をかしげる
× ×
鶴子 脱衣場で浴衣を着ている
もみじ 「(鶴子の裸を見て)えらい 焼けて
痛とない?」
鶴子 うなずく
もみじ 「どこから 来はったん?」
鶴子 「・・・」
もみじ 「お名前は 何てゆうの?」
鶴子 「・・・」
もみじ 「(鶴子が着ていた服を見て)着てたも
ん 洗濯するし このお守り取っとく
ね(と 服からお守りを外して鶴子に
渡して)はい!」
鶴子 受け取って頭を下げる
31二階の座敷
襖が開いて もみじ 入って来る
鶴子 戸の外で下を向いて立っている
もみじ 「そんな 怖がらんでも・・・ 赤ちゃ
ん ここにいはるよ」
鶴子 恐る恐る入って来る
豆千代 窓際で赤ん坊を抱いている
鶴子 慌てて 豆千代に近寄る
もみじ もみ春 それを見ている
赤ん坊 すやすやと寝ている
豆千代 「(鶴子に)よう 寝たはります」
鶴子 赤ん坊の顔を見る
豆千代 「この子 名前 何て言わはるんです
か?」
鶴子 首を横に振る
豆千代 「なんや まだ 名無しの権兵衛はんど
すか?」
鶴子 「・・・」
豆千代 「そやなぁー(少し考えて)先斗町やさ
かい ポンチャンかな?」
鶴子 「・・・」
豆千代 「でも ポンチャンって なんや おタ
ヌキさん見たいですね!」
鶴子 「・・・」
もみ春 「(もみじに)さっき 赤ちゃん えら
い 泣かはって」
もみじ 「そうかいな それでどないしたん?」
もみ春 「(豆千代を見て)豆ちゃん 舞妓はん
より こっちの方が ええみたいどす
わ」
もみじ 「(豆千代に抱かれた赤ん坊を覗き込ん
でいる鶴子を見て)それはそうと
あの子 何にもしゃべらへんの 何か
辛い事でも あったんやろか・・・」
と プロペラ飛行機が飛ぶ大きな音がする
豆千代 「(空を見上げて)ポンチャン ほら
飛行機!」
鶴子も空を見上げる
つづく