最終話 人生が変わった日
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
三浦幸子 18歳 場末のキャバレーのホステス
73歳 鎌倉に住んでいる老婆
木村雅幸 18歳 幸子の幼馴染
キャバレー「ラッキー」のボーイ
エマ 17歳 場末のキャバレーのホステス
黒人とのハーフ
キャバレーラッキーの支配人 50代
司会者 30~40代
ヤクザ風の男 30~40代
優也 18歳 令和の幸子の家の近所に住んでいる
大学生
109木屋町通りの高瀬川の畔(昭和39年7月 夜)
当時のヒットソングが流れて賑やかな
雰囲気である
110キャバレー ラッキーのネオンサイン
111キャバレー ラッキーのホール
客 ホステス達が談笑している
112キャバレー ラッキーの楽屋
雅幸 鏡の前に座って髪を整えている
と ドアが開いて支配人が顔を出して
支配人「マーボー そろそろやで」
雅幸 「(緊張して)あ はい・・・」
支配人「(微笑んで)将来の大スターが
これぐらいで緊張して どない
すんねん!リラックス リラッ
クス!」
雅幸 「(立って)あ はい!」
113キャバレー ラッキーのホール
楽団がジャズを演奏している
ステージに司会者が現れて演奏が止まる
司会者「今宵は 当 ラッキーにお越し下さいま
して 誠にありがとうございます アキ
ラさんのステージの前に 今日 デビュ
ーのニュースターを ご紹介します!」
客達 しらけた様子で談笑している
司会者 ステージの袖に立っている支配人と
雅幸を見る
支配人「(雅幸に)アーユー レディ?」
雅幸 緊張した表情で うなずく
と 支配人 司会者に目で合図を送る
司会者「レディースアンドジェントルマン!
ラッキーが生んだニュースターマーボー
こと 三浦雅幸 カモン!」
支配人「(雅幸の背中を押して)レッツゴー!」
雅幸 ステージへと駆けて行く
雅幸 ステージでエルビス・プレスリーの
「監獄ロック」を熱唱する
その歌声にしらけていた客達が雅幸に注目する
と 幸子とヤクザ風の男が入って来て席に着く
雅幸が歌い終わると大きな拍手が巻き起こる
放心状態で客席を見渡す雅幸の視線に幸子が
入る
と 司会者がステージに上がって
司会者「(雅幸に耳打ちする)支配人が もう一
曲 行けるかって ゆうたはるけど
どや 行けるか?」
雅幸 ステージの袖に立っている支配人を見る
支配人 うなずく
雅幸 司会者にうなずく
司会者「(雅幸に)何 歌う?」
雅幸 司会者に耳打ちする
司会者 バンドに近寄って 曲名を告げる
司会者「(客席に)それでは スローナンバーを
もう一曲!」
ホールが暗くなって ミラーボールが回る
楽団 ポール・アンカの「あなたの肩に頬を
うめて」を 演奏して 雅幸が歌う
ホステス達が客を誘って ホールでチークダンス
を 踊り出す
ヤクザ風の男 無理矢理に幸子をホールに連れ
出してチークダンスを踊る
雅幸 それを見て熱唱する
幸子 ヤクザ風の男の胸で 涙を浮かべて雅幸
を見つめる
ヤクザ風の男 無理矢理 幸子にキスをする
それを見かねた雅幸 思い切ってステージから
駆け下りて強引にヤクザ風の男から
幸子を奪ってホールから出て行く
ホールは騒然となる
楽団 オッフェンバック作曲「天国と地獄」を
演奏する
114木屋町通り(夜)
人混みの中を手を繋いだ雅幸と幸子が走る
後ろからヤクザ風の男が追って来る
通りがかったエマ 走っている雅幸と幸子を
見る
× ×
手を繋いで走る雅幸と幸子
と エマが自転車に乗って来て
エマ 「(幸子に)これ乗って行き!」
幸子 「(驚いて)エ エマちゃん!」
エマ 「ええから! 何があったか知らんけど
後はうちが何とかするさかい リリーは
もっと 他に命の使い方あんねんから!」
幸子 「でも・・・」
エマ 「早よ!」
幸子 頭を下げる
エマ 「(雅幸に)リリーの事 頼むで!」
雅幸 うなづいて 自転車にまたがる
雅幸 「(幸子に)行こ?」
幸子 うなずいて 自転車の後ろに またがる
エマ 「リリー!?」
幸子 エマを見る
エマ 「(微笑んで)元気で!」
幸子 目に涙を溜めて微笑む
二人乗りの自転車 人混みの中を入って行く
と 遠くから男の叫ぶ声がする
男の声「自転車 泥棒!」
エマ 走って行く二人乗りの自転車を見て微笑む
115暗がりの道(夜)
雅幸と幸子 自転車に乗って走っている
幸子 「大丈夫?」
雅幸 「何が?」
幸子 「歌手になる夢・・・」
雅幸 「そんな事より さっちゃんの方が
僕の夢や!」
幸子 目に涙を浮かべて雅幸の背中を抱き
締める
と 突然 自転車がパンクして 異変を感じて
二人は降りる
雅幸 「(タイヤを見て)ペチャンコ・・・
仕方がない 走ろう!」
幸子 「(微笑んで)う うん!」
二人 手を繋いで暗い道を走って行く
116先斗町の小さな公園(令和 昼)
幸子 ベンチに座って目を閉じている
と 目を開いて不思議そうに辺りを眺めて
ふと ショルダーバッグに目を落とす
お守りが無い
幸子 微笑んで ショルダーバッグから
一枚の写真を出して見つめる
117鎌倉の坂道のある住宅街(数日後 夕)
幸子 夕陽に照らされてエコバッグを下げて
坂道の下から頂上を見上げている
と 後ろから優也が来て
優也 「おばあちゃん!」
幸子 「(振り向いて)あら ユウちゃん!」
優也 「(エコバッグを見て)持つよ(と
幸子の手からエコバッグを取る)」
幸子 「ありがとう もう 足 大丈夫だか
ら・・・」
優也 「足って?(幸子のエコバッグを見て)また
随分 買ったね」
幸子 「う うん・・・その袋 見て何かに
気づかない?」
優也 「何かって?(と エコバッグを見る)」
幸子 「お守り・・・」
優也 「お守り?」
幸子 「お守り 無いでしょ」
優也 「お守りって そんな物 付けてたっけ?
それから おじいちゃんの風邪 治った?」
幸子 「おじいちゃんって?」
優也 「何 言ってるの? おばあちゃんの旦那さ
ん じゃない」
幸子 「そ そうだったね」
優也 「変なの・・・ でも コロナでなくて良かっ
たね」
幸子 「(うなずいて)おじいちゃん ああ見えて
若い頃 歌手 だったんだよ」
優也 「へー あの頑固 爺さんが?」
幸子 「びっくりでしょ」
優也 うなずく
幸子 「ちょっと 手 貸して?」
優也 「う うん・・・(と 手を差し出す)」
幸子 「(微笑んで 優也の手を 握って)
走ろう!」
優也 「(驚いて)えっ!?」
夕陽に照らされて手を繋いで坂道を上って行く
二人の後姿
幸子(N)「あれは幻だったのでしょうか いいえ
確かに あの少女達は この日本で必
死に生きていました 強すぎるほどの
生きると言う執着心を持って逞しくあ
の時代を生きていました お父さん
お母さん 私を産んでくれてありがと
う 本当に ありがとう 私は 残さ
れた命を大切に使って行きます」
夕陽に照らされて手を繋いで坂道を上って行く
二人の後姿
幸子(声)「何か 人生が変わったみたい・・・」
優也(声)「人生が変わったって?」
幸子(声)「何でも・・・」
優也(声)「変なの ところで おばあちゃんの
名前 何て言うの?」
幸子(声)「三浦だけど・・・」
優也(声)「じぁなくって 下の名前」
幸子(声)「リリー またの名を ポンチャン!」
優也(声)「何それ!」
少女たちのモノクロ写真をバックにエンドロール
〇 陸軍飛行場での 鶴子 トキ ヒサエ
ヨシコが並で 微笑んでいる写真
〇 大阪の瓦礫をバックに 鶴子とトクコが
微笑んでいる写真
〇 大阪の瓦礫をバックに自転車にまたがって
微笑んでいるマチコの写真
〇 陸軍飛行場の土手で幸夫と鶴子が微笑んで
いる写真
〇 京都高瀬川の畔のベンチで 鶴子と幸子
(4歳)が微笑んでいる写真
118 幸子の家のリビング
幸子 数枚の郵便物の中から一通のエアメールを
手に取ってハサミで開封すと 中から
古いお守りが出て来る
終わり
お読み頂き、ありがとうございました。