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脚本 少女たち  作者: 日尾昌之
17/18

昭和25年 秋 再会

ここでの登場人物


岡田鶴子(小鶴)23歳 

        幸子の母親 京都先斗町の芸者


幸子       4歳 

        1歳の時 養女に出されて 

        母親(鶴子)の顔を知らない


山田一郎    30代 従軍記者


ミチコ     18歳 戦災孤児のリーダー 

            パンパン(娼婦)


和代      30代 幸子の義母


警官      50代


GI(進駐軍将校) 30~40代




104木屋町通り (昭和25年10月 夕)

   小鶴 酒に酔って時折 咳をしながら

「ダンチョネ節」を 口ずさんで 

   ふらふらと歩いている

   テロップ 昭和25年 神無月 

   警官 自転車に乗って来て小鶴の横に

      止まる

  警官 「小鶴はん 早い時間に もう 酔ー

      てるか?」

  小鶴 「ほっといて!(と 咳をする)」

  警官 「今日は 何にもしてへんやろなぁー?」

  小鶴 「まだ 今日は なーんにも してまへ

      ん!」

  警官 「また 四条の橋の欄干 歩いたら 

今度こそ逮捕するぞ!」

  小鶴 「ええやんか うちのサーカス 皆 

拍手して見てたやんかぁー!」

  警官 「あんなとこから 落ちたら死んでしま

うぞ!」

  小鶴 「もう うち 何時 死んでもええわぁー」

  警官 「あんたは死んでも ええかも知れへんけ

      どな わしの仕事が増えてしまうんや!」

  小鶴 「なんやの! いつも 交番で いねむっ

      てるくせに よおゆうわぁー 今度は

      三条にしょうかなぁー 五条にしょうか

      なぁー 五条やったら牛若丸やー

      (と 激しく咳をしてしゃがみ込む)」

  警官 「こら! 小鶴! そやけど あんた 

      そんな身体で 大丈夫なんかいな?」

  小鶴 「(立って)お酒が うちの薬どすぅー!」

  警官 「あんた 初めここに来た時は もの言え

      んかったのになぁー 今度は ちょっと 

      喋り過ぎとちゃいまっかぁー」

  小鶴 「うちを こない したんは この

      色町やし」

   と 遠くから男の声がする

  男(声)「喧嘩やー! 誰か 来てくれー!」

   警官 慌てて

  警官 「喧嘩? あー これから ゆっくり 

      茶ー 飲もと思てたのにー」

  小鶴 「本官さん 早よ 行かな ほら ほら 

      お仕事どっせー」

  警官 「あー 判ってるわい! ほんまに 

      今日は おとなしい 帰れよ!」

   警官 慌てて 自転車に乗り 走って行く 

  小鶴 「(大きな声で)お仕事 おきばり

      やっしゃー!」

   小鶴 笑顔で警官に手を振る


105木屋町通りの高瀬川の畔

   夕陽で水面がオレンジ色にキラキラと

   光っている

   小鶴 ベンチに座って「ダンチョネ節」を

      唄いながら 水面を見つめている

   と 幸子 小鶴の隣に座る

   小鶴 驚いて幸子を見る

   幸子 小鶴を見てにっこりと微笑む

   小鶴 思わず微笑む

   暫く沈黙

  小鶴 「アメちゃん 舐める?」

   小鶴 袖から飴を出して幸子に

      差し出す

  小鶴 「はい!」

   幸子 微笑んで受け取って 飴を口に

      入れる

   小鶴 微笑む

   幸子 美味しそうに飴を舐める

  小鶴 「お母さんは?」

   幸子 飴を舐めながら 微笑む 

   小鶴 思わず微笑む

   暫く 沈黙

   と 山田 GIと会話をしながら歩い来て 

     小鶴を見て

  山田 「(驚いて)ま 間違っていたらごめんなさい

      ひょっとして あなた あの時の・・・」

   小鶴 驚く

  山田 「(GIに英語で)先に行って下さい」

   GI 笑顔で去って行く

   ×   ×

   小鶴、幸子 山田 ベンチに座っている 

  山田 「それにしても驚いたなぁー 君と こんな

      所で会うなんて そんなかっこしてるから 

      まさかと 思ったんだけど やっぱり」

   小鶴 うなずく

  山田 「今 ここで 芸者さん してるの?」

   小鶴 うなずく

  山田 「そう・・・ あの日 君が来なかったんで

      心配したよ」

  小鶴 「ごめんなさい」

  山田 「でも 元気そうで 安心したよ

     (と 幸子を見て)幸子ちゃん?」

  小鶴 「(驚いて)えっ?」

   幸子 山田を見て 微笑む

   山田 思わず 微笑む

  小鶴 「何で それを?」

  山田 「あー そうか 君は知らないんだ・・・」

  小鶴 「何を?」

   と 小鶴 不思議そうな顔で山田を見る

   ×   ×

   小鶴 幸子 山田 ベンチに座っている

  山田 「僕 今度 朝鮮に行く事になったんだ」

  小鶴 「朝鮮?」

  山田 「うん 朝鮮で また 戦争が起りそう

      なんだ」

  小鶴 「戦争?」

  山田 「そう 今 日本の記者は朝鮮なんかに行け

      ないんだけど GHQに 上手く潜り込め

      てね」

  小鶴 「・・・」

  山田 「これも あの子のおかげなんだ」

  小鶴 「あの子?」


106大阪の街角(昭和21年 夏 夜)

    あちこちに娼婦達が立って米兵等に声を

    かけている

    と 山田 自転車に乗って来る

    ミチコ 山田に声をかける

  マチコ「お兄さん 遊んでいけへん?」

  山田 「ゴメン 僕はいい(と 去って行く)」

  マチコ「ちぇっ!(と 別の男に)遊ばへん?」

   と 遠くから女が叫ぶ

  女(声)「キャッチや!」

   マチコ それを聞いて慌てて走り出して

       自転車に乗っている山田に

  マチコ「お願い! 乗せて!」

  山田 「(止まって)えっ!?」

  マチコ「(無理矢理 後ろに乗って)一生の

      お願い!」

  山田 「う うん・・・」

   狭い路地を二人乗りの自転車が走って行く


107土手(夜)

   山田とマチコが乗った二人乗りの自転車が

   走って来て止まる

  マチコ「おおきに 助かった!(と 自転車

      から降りる)」

  山田 「う うん・・・ でも キャッチって

      何?」

  マチコ「あー 性病の検査で強制連行されんねん」

  山田 「そ そうなんだ・・・」

  マチコ「お礼に ショート半額にするし 遊んで

      いけへん?」

  山田 「ゴメン 僕は いい・・・」

  マチコ「あっ そ!(と 歩いて行く)」

  山田 「ちょっと!」

  マチコ「(振り返って)遊ぶ気になった?!」

  山田 「ゴメン 残念だけど・・・ 一つ 

      聞いていいかな?」

  マチコ「えっ?」

  山田 「この辺に 口のきけない女の子が居たと

      思うんだけど 君 知らない?」

  マチコ「口のきけへん 女の子・・・」

  山田 「うん・・・ あー 腰に 赤いお守り 

      ぶら下げてた」

   ×   ×

   土手を歩く二人(山田 自転車を押している)

  山田 「そうだったんだ 子供が出来たんだ」

  マチコ「(うなずいて)幸子ちゃん うちが

      名付け親」

  山田 「そう」

  マチコ「今頃 どうしてるんやろな」

  山田 「あの子 生命力 ありそうだから 

      きっと どこかで 頑張って生き

      てると思うよ」

  マチコ「で あんたは 何してる人?」

  山田 「僕? 僕は記者 あー 記者って言って

      も 乗り物の汽車じゃないから」

  マチコ「そんなん わかってるわ!」

  山田 「そ そうだよね」

   マチコ 微笑む

  山田 「(瓦礫を見て)日本をこんなにしたのは

       何も軍人や政治家だけじゃない僕ら新聞

       にも責任があるんだ 軍部に踊らされた

       とはとは言え 鬼畜米英と国民を戦争に

       扇動したのは僕らなんだからね」

  マチコ「(立ち止まって)今 日本の女に こん事

      させてるんは みんな あんたら 男の責

      任や! 大和魂とかなんちゃらゆうて 結

      局 負けてしもたやんか!」

  山田 「・・・」

  マチコ「あそこに立ってる子 どんな思いで こん

     な事してると思う!?」

  山田 「ごめんなさい・・・でも 僕は・・・ 

      僕は ペンと(カバンからカメラを出して)

      映像の力で 君達の姿を 世界に紹介して 

      二度とこんな馬鹿げた戦争が起きないように

      出来たらと思ってる でも 今は GHQの

      検閲が厳しくって 真実は なかなか・・・」

  マチコ「GHQ・・・(と 微笑む)」

  山田 「そう・・・」

  マチコ「うちな GHQの偉いさんからオンリーの

      話が来てんねん」

  山田 「オンリーって?」

  マチコ「専属の女」

  山田 「・・・」

  マチコ「うち もう この商売辞めて 田舎に

      帰ろと思ってたんやけど・・・それで 

      日本の女の子が助かるんやったら 

      交換条件に あんたの事言うて みた

      げるわぁー」

  山田 「でも・・・」

  マチコ「もし 上手いこといったら ぜったい 

      日本の女の子 助けたってや!」

  山田 「うん 必ず・・・ そうだ! 写真 撮らせ

     てくれない?」

  マチコ「えっ?」

   ×  ×

   マチコ 自転車にまたがってニッコリと微笑んで

       いる

   山田 シャッターを押す

  

108木屋町通りの高瀬川の畔(昭和25年 夜)

   小鶴と山田 ベンチに座っている

  山田 「そのミチコさんが紹介してくれたのは 

      運よくGHQの諜報局のメジャーでね 

      お蔭で 今 僕はGHQに潜り込めて

      るんだ」

  小鶴 「で それから ミチコさんは?」

  山田 「あー それから 間もなく 彼は

      横須賀に行っちゃったし ついて

      行ったのかな(幸子を見て)この

      子が幸子ちゃん? まさか お父

      さんは あの少尉?」

   小鶴 水面を見つめて寂しそうな顔をする

  山田 「あっ! そうだ! 写真! あの写真! 

      また 持って来てないや・・・(幸子を

      見て 小鶴に)写真 撮ってあげよう

      か?」

  小鶴 「(幸子に)お写真 撮ってもらう?

      お写真・・・」

   幸子 微笑む

  小鶴 「(山田に)わからへんみたい・・・」

   小鶴 前を向くと 前で山田がカメラを構え

      ている

  山田 「ハイ チーズ!」

   と シャッターを押す

   と 幸子の義母の和代の声がする

  和代(声)「もう! こんなとこにおったんか

        いな!」

   幸子 和代を見てうつむく

  和代 「ちょっと 目 離したら すぐ 出ていくん

      やから しゃーない子やで!(と 小鶴と

      山田を見て)この子 悪さばっかし して 

      ほんま 手ー 焼いてまんねんわぁー すん

      まへん」

   小鶴 立って 和代に頭を下げる

  和代 「(幸子に)早よ 行くで!」

   幸子 和代を睨んで動かない

  和代 「行くでって ゆうてるやろ! アホ!

     (と 幸子の頭を叩いて腕を掴んで無理

      矢理 連れて行く)」

   幸子 振り返って 小鶴を見つめる

   小鶴 手を振る

   幸子 和代に手を引かれて歩いて行く

   幸子の腰にお守りが付いている

   小鶴 遠ざかって行く二人を見つめる

  和代 「(お守りを見て)あんた! まだ 

      そんなもん付けてるんかいな! 

      そんなもん ほかしなさい!

     (と お守りを引きちぎって地面に

      捨てる)」

   ×   × 

   小鶴と山田 小橋の上に立っている

  山田 「次 いつ会えるかわからないけど 元気で」

  小鶴 「(うなずいて)山田さんも」

  山田 「ありがとう・・・ もう 日本の女の子達

     が こんな事にならないように 君たちの真

     実を 後世に伝えて行くからね」

  小鶴 「(微笑んで)はい!」

  山田 「それから写真 きっと 何時か 届ける

     からね」

   小鶴 うなづく

   山田 手を振って暗い木屋町通を歩いて行き

      落ちていた お守りを見て拾う

   小鶴 突然 激しく咳き込んで倒れる


   つづく

   


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