昭和22年 春 親子の別れ
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
岡田鶴子(小鶴) 京都先斗町の芸妓 幸子の母親 18歳
もみ春 京都先斗町の芸妓 21歳
豆千代 京都先斗町の舞妓 16歳
松本好江 京都先斗町 置屋「松本」の女将 55歳
三浦幸子 1歳
医者 男 50~60代
70先斗町通り(昭和22年 春 深夜)
人気のない通りに ひらひらと桜の花びらが
落ちている
テロップ 昭和22年 卯月
小鶴 激しく咳をしながら歩いて来て
しゃがみ込む
口を押えていた両手を見ると血が付いている
71置屋 松本の玄関
引き戸が開く
丁度 居合わせた 豆千代が
豆千代「(戸口を見ないで)お帰りやす」
返事が無く 変に思った豆千代は戸口を見る
小鶴 着物がはだけて口から血を垂らして立っている
豆千代「(大きな声で)お母さーん!」
72小鶴の部屋(数日後の朝)
四畳半の和室に小鶴が布団で寝ていて その横に好江と
医者が座っている
医者 「(小鶴に)だいぶんようなって来たけど
もう 暫くは安静にしてなさい もう
タバコは吸うたらあかんで それに まだ
お酒もな(と 立つ)」
好江 「先生 おおきに(と 襖を開ける)」
好江と医者 出て行く
寝ている小鶴の目から涙が流れる
73廊下
好江と医者 歩きながら
医者 「それで 子供さんはどうしたはるんや?」
好江 「はい うちの子が代わりばんこに見てます
けど・・・」
医者 「そうかぁー 可哀そうやけど 里子に出す
話 早いとこ進めるこっちゃな」
好江 「それ どうゆうことどす?」
医者 好江に耳打ちする
74小鶴の部屋
襖が開いて好江が顔を出して
好江 「先生 お薬 飲んでたら大丈夫やてううてく
れたはるし ポンチャンの事は心配しんでも
ええさかいに もう ちょっと 我慢して
おとなしゅう寝ときなさいや」
小鶴 「(上半身を起こして咳き込んで)お お母さ
ん?」
好江 「何え?」
小鶴 「自分の身体は自分がようわかってます」
好江 「そ それは そうどすな・・・ 後で
リンゴ汁 持って来たげるし せいぜい
栄養つけんと(と 襖を閉めようとする)」
小鶴 「お お母さん?」
好江 振り返る
小鶴 「あ あの子の事 お願いします」
好江(目に涙を溜めて)襖を閉める
小鶴の目から涙が零れ落ちる
75高瀬川の水面が夕陽に照らされてキラキラと光ってい
る
76二階の座敷(数週間後の夜)
赤ん坊(幸子)が寝ている
襖が開いて小鶴が入って来て赤ん坊(幸子)の横に
座って
小鶴 「ごめんな ごめんな・・・
(と 小鶴の目から涙が零れ落ちる)」
鶴子 布団の上にお守りを置く
77置屋 松本の玄関(朝)
戸の前で向かい合って 好江、もみ春(幸子を抱
いている)と小鶴と豆千代が立っている
好江 「最後に 顔 見てあげるか?」
小鶴(目に涙を溜めて)首を横に振る
好江(目に涙を溜めて)うなずく
もみ春(目に涙を溜めて)うつむく
好江 「(もみ春に)ほな 行こか?」
と 引き戸を開ける
小鶴 一歩踏み出すが 思い止まって 二人を
見つめる
好江 もみ春(幸子を抱いている)出て行く
小鶴 泣き崩れる
豆千代 泣いて小鶴に寄り添う
つづく




