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脚本 少女たち  作者: 日尾昌之
13/18

昭和21年大晦日 昭和22年正月 別れ

映画またはドラマの脚本です。

ここでの登場人物


岡田鶴子(小鶴) 京都先斗町の芸妓 幸子の母親  

18歳


もみじ     京都先斗町の芸妓 23歳





64先斗町通り(昭和21年 大晦日 朝)

小雪が舞っている

   着物姿の通行人達が年末の挨拶をしながら行き

   交っている


65先斗町置屋「松本」の玄関前

   鶴子(小鶴)立って戸に耳を澄ませている


66同 玄関先

   好江とお茶屋の女将の信子(35)が座っている

  信子 「そうどすかぁー それは おめでとうさんど

     す!」

  好江 「おおきに」

  信子 「まぁ 九分九厘 大丈夫やと思てたけど

     それ聞いて安心しましたわ あんな お偉い方

     に水揚げしてもらえてよろしおしたな」

  好江 「このご時世に 幸せなことどすわ」

  信子 「そうどすなぁー それで 東京へは 

     いつ?」

  好江 「それが 5日 どすにゃ」

  信子 「5日って お正月のどすかいな?」

  好江 「そうどすにぁ」

  信子 「また これも 急な話どすなぁー」

  好江 「まぁ 松の内に行って あちこちに ご挨拶

     が あるんどっしゃろ」


67同 玄関前

   小鶴 耳を澄ませている


68同 二階の座敷(夜)

   小鶴 火鉢の横に座って 咳をしながら日本酒の

      入った湯のみを口にし タバコを吸って 

      時折 咳をしながら かすれた声で

ダンチョネ節を唄っている

   

    沖の鴎かもめと飛行機乗りは

    何処どこで散るやらネ

    果てるやらダンチョネ     


    鶴子の背後から もみじの声がする

   もみじ(声)「小鶴ちゃん?」

   小鶴 「(振り返って)姉さん・・・」

もみじ「(横に座って)お留守番 ご苦労さん 

       ポンチャン よう寝たはるえ」

小鶴 「何や 姉さん 行かあらへんかったんです

      か? 祇園さんの おけら参り 暫く行けへ

      んのに 行かはったら よかったのに」

   もみじ「大事な日の前に 風邪でもひいたらあかん

      し 行かへんかったの」

   小鶴 激しく咳をして もみじ 小鶴の後ろに回

      って 背中を摩る

   もみじ「大丈夫? ここは お酒 飲むのが仕事や

      けど あんまり無理したら あかんよ それ

      に そのタバコも止めんと・・・」

   小鶴 咳をしながら うなずく

   もみじ「ちょっと 新鮮な空気でも吸うたら?

      (と もみじ  窓際に行って窓を開けて)

      あー 涼し! あれ?(耳を澄ませて)

      小鶴ちゃん ちょっと来てみ」

   小鶴 窓際に行って座る

   もみじ「ほら!(と 耳を澄ませる)」

   遠くから微かに鐘の音(除夜の鐘)がする

  もみじ「これ 知恩院さんや」

   小鶴も耳を澄ませる

  もみじ「これ 建仁寺さんや これは・・・ 

       清水さんかな?」

     除夜の鐘が 四方から輪唱の様に重なり合

      って鳴っている 

    もみじ 突然 泣き出す

    小鶴  驚いて もみじを見る

    もみじ「あー 恥ずかし(と 手で目を拭いて)

       ここに来てから 覚悟はでけてたつもり

       やったんやけど いざ こうなってみた

       ら なんや 腰が引けてしもて・・・」

    小鶴 「・・・」

    暫く 沈黙 

    もみじ「小鶴ちゃんは どうするつもり?」

    小鶴 「えっ?」

    もみじ「ポンチャンの事・・・」

    小鶴 「それは・・・」

     二人  見つめ合って 耳をすませる

     除夜の鐘が 四方から輪唱の様に重なり合っ

     て鳴っている   

    もみじ「東京も 大晦日に 鐘 突かはんのか

        な?」

    小鶴 「姉さん? どんな とこ 行かはるつも

       り?」

    もみじ「えっ?」

    小鶴 「東京も 日本でっせ 除夜の鐘ぐらい 

       ありますわ」

    もみじ「ほんまやな」

    小鶴 「姉さん?」

    もみじ「えっ?」

    小鶴 「東京 今は 行くのん えらい時間かか

       るけど そのうち 飛行機でブーンってす

       ぐ行ける様に なります」

    もみじ「飛行機で ブーンって?」

    小鶴 うなずく

    もみじ「うち それまで 生きてるやろか?」

    小鶴 「姉さん 何 ゆうたはるの まだ 21

       ですやん!」

    もみじ「21? そやった そやった 忘れてた

        わ ここに いたら 年なんか忘れて

        しまうわぁー まるで浦島太郎や」

    小鶴 微笑む

    もみじ「(夜空を見上げて)飛行機でブーンっ

        て すぐ京都に 帰って来れる?」

    小鶴 「(うなずいて)はい! 飛行機で ブーン

       って・・・」


69置屋 松本の前(昭和22年1月5日 朝)

   もみじ 好江 旅支度で並んで立っている

   小鶴 もみ春 豆千代 信子 その他 数人の芸

   妓立っている

   もみじ 頭を下げて 小鶴を見て微笑む

   小鶴 目に涙を溜めている

   もみじ 好江 歩いて行く

   小鶴 二人の後姿を見つめる


   つづく


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