昭和39年 夏 京都木屋町
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
三浦幸子 場末のキャバレーのホステス
源氏名 リリー 18歳
エマ 場末のキャバレーのホステス
黒人とのハーフ 17歳
三浦雅幸 幸子の幼馴染
後の幸子の夫 18歳
場末のキャバレーの支配人 53歳
40場末のキャバレーの控室(昭和39年7月15日
夜)
場末のキャバレーのホステスのエマ(17)が
ドアから顔を出して
エマ 「支配人 呼んだはる」
幸子(声)「えっ?」
エマ 「早よ 行かんと また 怒られるで」
幸子(声)「う うん・・・」
41場末のキャバレーの支配人室
ドアが開いて幸子(薄手の白いドレス)入って来る
支配人の藤井(53)ソファーに座ってタバコを
吸っている
藤井 「(幸子を見て)あーちょっとこっちおいで」
幸子 恐る恐る近寄る
藤井 「そんな 怖がらんでもええやないか」
幸子 支配人の横にうつむいて立つ
藤井 「あんた もうちょっと きばって 客 取っ
てくれんとあかんわぁー あんたの借金 い
ったい幾らか知ってんのんかいな」
幸子 うなずく
藤井 「まあ あんたがこしらえた借金ちゃうけど
今の調子やったら利息にもならへんで あ
んたの親父さんも可哀そうなお人や 小豆
相場に手ー出して店 潰してしもうて 嫁は
んは病気で死んで 後追おおて 娘 残して
電車に飛び込むやなんてな おまけにあん
たは 実の娘やないらしいやないか あん
たも哀そうなんはわかるけど借金は借金や
働いて ちゃんと返さんとな(立って 幸子
に近寄って)で 明日から もっと稼げる
仕事してもらおうと思てるんや 辛抱して頑
張ったら あれぐらいの借金なんて すぐ
に返せるわ(幸子の肩を叩いて)まあ
せいぜい きばってや」
幸子 「そ それ・・・ どんな仕事ですか?」
藤井 「女が 手っ取り早よー稼げる仕事ちゅーた
ら あれしかないやないか ひょっとし
て あんた まだ 男知らんのんか?」
幸子 うつむく
藤井 「そーかいな! そら ええわ! 暫くは 高
こー売れるで!(と冷たい笑みを浮かべる)」
42場末のキャバレーの支配人室の前
幸子 出て来て顔に手を当てて泣きく崩れる
43場末のキャバレーのホール
賑やかな店内
接客中の幸子がふと下を見る白いドレスの股間の
辺りが赤く血に染まっている
幸子 慌てて股間にハンカチをあてて立ってトイレ
に入る
エマ それを客の席から見ている
44場末のキャバレーのホール
営業が終わってホステス達が帰って行く
藤井が来て
藤井 「(ホステス達に)お疲れさん お疲れさん
明日もきばってやー(と 幸子に近寄って)
決心はついたか?」
幸子 「(うなずいて)あのー」
藤井 「何や?」
幸子 「その仕事 来週からではあきませんか?」
藤井 「来週? また なんでや? 一日でも早い方
がええんとちゃうの?」
幸子 「それはそうですけど・・・」
藤井 「けどなんや?」
幸子 「始まってしもうて・・・」
藤井 「始まったって?」
幸子 もじもじする
藤井 「(幸子の股間を見て)あー そうかいな あ
んた ほんまに運が悪いおなごやな」
幸子 頭を下げて 行こうとする
藤井 「まさか あんた 変な事考えてるんとちゃう
やろな?」
幸子 立ち止まる
藤井 「もし 逃げたら 怖いお兄さんがどこまでも
探しに行くしな それだけは覚えといてや
(帰ろうとしていた エマに)エマ! この
子 逃げんようによう ちゃんと見張っとけ
よ!」
藤井 支配人室へ戻って エマ 幸子に近寄って来
て
エマ 「大丈夫?」
幸子 エマを見る
エマ 「びっくりしてしもて メンス 始まったんや
ろ?」
幸子 うつむく
エマ 「(微笑んで)女の身体って デリケートやもん
な」
× ×
二人 ソファーに座っている
エマ 「大丈夫?」
幸子 「(うなずいて)ありがとう」
エマ 「(微笑んで)よかった(タバコを吹かせて)
見てわかる通り うちは GIベビー 子供
ん時から 黒んぼ 黒んぼって言われて 育っ
たし こんな暮らしには慣れてるけどな」
幸子 「そうなんや・・・」
エマ 「小学校の時 インデアン処刑とかゆうて木に
くくり付けられて 髪の毛 燃やされた事も
あるんよ どうせ ちじれてるから 大丈夫
やろって」
幸子 「先生は 助けてくれへんかったん?」
エマ 「(うなずいて)先生は しょせん 日本人
それと 警察もな」
幸子 「・・・」
エマ 「やっとこさ 中学卒業しても どっこも雇て
くれんと やっと 工場に 就職
できたっと思たら そこでもイジメにおうて
ケンカして辞めさされて 結局こんなとこで働
くしかないようになって・・・」
幸子 「家族は?」
エマ 「おとんは誰かわからんし おかんも うち捨
てて 若い男と どっかに行きよった」
幸子 「・・・」
エマ 「リリーは 京都 好き?」
幸子 「・・・」
エマ 「うちは 大嫌いや そら嫌いにもなるわな
ここは うちにとっては地獄やもん 京都が
にくーて にくーて しょうがないわ こんな
街 空襲で焼けてしもたらよかったんや!」
幸子 「・・・」
エマ 「(微笑んで)うちは リリーの味方やさか
い 心配しんといてね」
幸子 頭を下げて気持ちを振り切る様に出て行く
エマ 「(大きな声で)死ぬなんて考えんときや
ー!」
45場末のキャバレーの前(深夜)
幸子が泣きながら飛び出して来て木屋町通りを
走って行く
46木屋町通り
雅幸 高瀬川に架かる小橋の欄干でギターを抱え
てもたれている
幸子が木屋町通りを泣きながら走って来る
雅幸 それを見て
雅幸 「(大きな声で)さっ さっちぁーん! さっ
ちゃーん!」
幸子 雅幸に気が付いて立ち止まる
幸子の異変に気が付いた雅幸が慌てて 幸子に
駆け寄って来て
雅幸 「こんな夜 遅お ど どないしたん?」
幸子 泣いてしゃがみ込む
雅幸も幸子の横にしゃがんで
雅幸 「大丈夫?」
幸子 泣いている
× ×
高瀬川の水面にネオンの光が揺れている
× ×
二人 高瀬川畔のベンチに座っている
雅幸 うつむいている幸子の顔を覗ききんで
雅幸 「ちょっとは 落ち着いた?」
幸子 黙っている
雅幸 「何があったん?」
幸子 黙っている
暫く 沈黙
雅幸 「コ コーラでも飲む?」
幸子 首を横に振る
雅幸 「・・・」
幸子 雅幸を見て
幸子 「なあ デートしいひん?」
雅幸 「(驚いて)デ デート!?」
幸子 うなずく
雅幸 「誰と?」
幸子 雅幸を指さす
雅幸 「俺と?」
幸子 「あかん?」
雅幸 「べ 別にええけど・・・ いつ?」
幸子 「明日」
雅幸 「明日!? それは また 急やなぁー」
幸子 「思い立ったら吉日って言うやん」
雅幸 「それはそやけど・・・」
幸子 「あかん?」
雅幸 微笑んで首を横に振る
× ×
高瀬川の水面にネオンの光が揺れている
× ×
二人 人気がない深夜の木屋町通りを歩いている
幸子 「なあ マーボー?」
雅幸 「何?」
幸子 「マーボーは お嫁さんにするんやったらどん
な人がええの?」
雅幸 「お嫁さんって・・・俺 まだ そんな事
考えた事ないわぁー
だって まだ 18やで」
幸子 「18・・・ ほんまやな」
雅幸 「そやったら さっちゃんは お婿さんは
どんな人がええんや?」
幸子 「うち? うちは・・・ やっぱり ハンサム
で優しゅーて それから お金持ち!」
雅幸 「欲張りやなぁー」
幸子 「(微笑んで)ほっといてー! 欲張りは 生ま
れ付きですぅー!」
雅幸 微笑む
幸子 「じぁあ 映画とかテレビに出てる人やったら
誰が好きなん?」
雅幸 「それやったら やっぱり 健さんや! 死ん
でもらいます! 健さん 最高や!」
幸子 「誰が男の人 言えって ゆうた? 女の人や
ん!」
雅幸 「そ そうか・・・ 女の人やったら やっぱ
り オードリーヘップバーンかな ローマの
休日のオードリー 綺麗やったなぁー」
幸子 「それはそやけど・・・ マーボー 外人さ
ん 好きなん?」
雅幸 「うん!」
幸子 「じぁあ うち あかんな!」
雅幸 「あかんって?」
幸子 「うち 純粋の日本人やもーん!」
幸子 速足で歩いて行く
雅幸 「べ 別にそんな事 ゆうてへんて!」
幸子 振り返って
幸子 「(怒って)ほなさいなら!(舌を出して)べー
っだ!」
雅幸 「もう! そんな怒らんでも さっちゃん
ほんま 怒りんぼなんやから」
幸子 「怒りんぼうも 生まれ付きですぅーだ!
(と 速足で歩く)」
雅幸 「(幸子を追って)ちょっと待ってよ! 明日の
デート どうするん?」
幸子 「知らん!」
幸子 「知らんって もう!」
幸子 「2時に さっきの橋の上!」
幸子 路地に入ろうとする
雅幸 「さっちゃん・・・ どうしたん?」
幸子 「(振り返って)あー 掃除しに お店に帰ら
んとあかんの」
雅幸 「お店って?」
幸子 「ほな 明日」
雅幸 「う うん」
幸子 路地に入る
雅幸 「バイバイ・・・(と 首をかしげる)」
つづく