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脚本 少女たち  作者: 日尾昌之
1/18

始まりの日 エアメール

映画またはドラマの脚本です。


ここでの登場人物(登場順)


三浦幸子  73歳 鎌倉に住んでいる老婆

優也    18歳 幸子の家の近所に住んでいる大学生 

三浦美空  19歳 幸子の孫 大学生

三浦美砂子 46歳 幸子の一人娘 美空の母親



   

1 鎌倉の坂道のある住宅街(令和 夕)

   三浦幸子が坂道の下から頂上を見上げ

           て ため息をつく

  幸子(N)「どうして ここに引っ越して来たんだ

        ろ? お買い物からの帰りに この坂

        道の下に立った時 何時も この愚痴

        が頭に浮かびます」

   ×   ×

   幸子 重たそうにエコバックを持って坂道を上

      っている 

   背後には海が夕陽を浴びてオレンジ色にキラキ

   ラと輝いている

   幸子 立ち止まってエコバックを下ろして痛そ

      うに膝をさする 

   後ろから隣人の大学生 優也が追いかけて来て

  優也 「(息を切らして)おばあちゃん! 大丈

      夫?」

  幸子 「(優也を見上げて)ああ ゆうちゃん!

      何か 急に膝が痛くなっちゃて・・・」

  優也 「そう それは大変! 歩けそう?」

  幸子 「ちょっと 手 貸してくれる?」

  優也 「う うん(と 幸子に手を差し出す)」

  幸子 「(優也の手を握って)よっこいしょ(と

      立つ)」

  優也 「どう? 歩けそう?」

  幸子 「うん なんとか・・・ ちょっと 腕 

      掴まっていいかな?」

  優也 「(微笑んで)うん!(と エコバックを

      持つ)」

  幸子 「ありがとう」

   ×   ×

   二人 腕を組んで坂道を上っている

  幸子 「学校の帰り?」

  優也 「うん やっと 今日から講義が始まっ

      て」

  幸子 「そうなの コロナで長い間お休みだった

      ものね 始まって よかったね」

  優也 「うん!(エコバックの中を見て) でも

      また 随分 買ったね」

  幸子 「行ったついでに あれもこれもって思っ

      たら つい 何時も 買い過ぎちゃうの

      よ」

  優也 「おばあちゃん 意外と欲張りだね」

  幸子 「分かる? 欲張りは昔からだから・・」

  優也 「(エコバックに付いているお守りを見

      て)これ いつも付けてるけど どこの

      お守り?」

  幸子 「あーあ それがわからいの」

  優也 「わからないって?」

  幸子 「そのお守り 私が物心ついた頃から持っ

      てるから」

  優也 「へー そうなんだ」

   夕陽に照らされ腕を組んで坂道を上って行く

   二人の後姿をバックに

   クレジットタイトル 少女たち


2 幸子の家の前

   古い木造の家である

   テロップ 始まりの日

   幸子 優也 やって来て

  幸子 「ありがとう 悪いけど 荷物 玄関の前

      まで 持って行ってくれるかな? 後は

      少しづつ運ぶから」

  優也 「うん 了解!」

   幸子 ポストから数通の郵便物やチラシを取り

      出すと 優也が玄関から来て

  幸子 「ありがとう」

  優也 「膝 大丈夫?」

  幸子 「う うん・・・」

  優也 「また 手伝える事があったら何時でも声

      かけてね 俺 勉強は苦手だけど 力仕

      事なら得意だからさ」

  幸子 「(微笑んで)優しいのね」

  優也 「俺 小さい時 おばあちゃん子だったか

      らさ」

  幸子 「そうなんだ でも 何十年ぶりかな」

  優也 「何が?」

  幸子 「男の人と腕組んだの」

  優也 「こんなイケメンでドキドキした?」

  幸子 「(微笑んで)バカ!」

  優也 「(微笑んで)じぁあ!」

   優也 手を上げて去って行く

   幸子 微笑む


3 キッチン

   幸子 玄関から少しずつ食材等を運んでいる


4 リビング

   幸子 ソファーに座って お茶を飲みながら

      一通づつ郵便物を見て一通のエアメール

      に手が止まり老眼鏡をかける

   エアメール アルファベットが並んでいる

   幸子が裏返して差出人を見た瞬間 電話が鳴り

   エアメールを机に置いて立ち上がって電話に

   出る

  幸子 「はい もしもし 三浦でございす・・・

      なんだ ソラちゃん」

  美空(声)「何だって なによ! せっかく 寂

        しいかなと思って 電話かけてあげ

        たのに」

  幸子 「それはそれは 気を使ってくれて あり

      がとう!」

  美空(声)「今 撮影で鎌倉に来てるの」

  幸子 「撮影って?」

  美空(声)「食リポの動画撮影」

  幸子 「そ そう それは 大変ね」

  美空(声)「もうすぐ終わりそうだから 終わっ

        たら ちょっと 寄っていい?」

  幸子 「今から?」

  美空(声)「うん!」

  幸子 「い いいけど・・・」

  美空(声)「久しぶりに 夕飯 一緒に食べよ

        う?」

  幸子 「夕飯って・・・ 肉じゃがぐらいしか出

      来ないけど・・・」

  美空(声)「今 お腹い一杯だから そんなにいら

       ないから」

  幸子 「そ そう・・・」

    机の上のエアメール

    

5 キッチン

   幸子 料理をしている

  幸子(N)「1年前 夫を癌で亡くした私は 年

        をとったら都会に住んでた方がいい

        と言った娘や孫の忠告を説き伏せて

        東京からこの街に越して来ました 

        海が見える丘の上に住む事が 私の

        若い頃からの夢だってんです もし

        その夢が叶った時 それからの人生

        が変わるような そんな予感がして

        いたからなんです」

   ×   ×

  幸子(N)「でも その夢が叶ったのは こんな

        年にになってから 人生ってこんな

        もかのかなと この歳になって や

        っと 悟りました 今さら人生が変

        わったところで 仕方がないですよ

        ね」

   ×   ×

  幸子(N)「子供は 東京にシングルマザーの娘

        が一人います そして 孫が一人 

        さっきの電話はその孫からなんです

        せっかく大学に入ったのに いろん

        なアルバイトをしながら自由気まま

        に暮らしています 可哀そうに こ

        れは私からの隔世遺伝なんです こ

        っちに来るって言う事は 多分 夕

        飯にありつくこんたんです」


6 幸子の家(夜)

   窓から明かりが漏れている


7 キッチン

   幸子 美空 食卓について食事をしている

  美空 「やっぱ おばあちゃんの肉じゃが 最高

      だね!」

  幸子 「何が お腹いっぱいよ!」

  美空 「おばあちゃんの肉じゃがは 別腹だか

      ら」

  幸子 「よくゆうわよ でも そんな事ばっかし

      して 肝心の勉強の方は大丈夫なの?」

  美空 「これからの時代は 大学出ていい会社に

      就職するよりも(カメラを見せて)こっ

      ちの方が将来性があるんだから」

  幸子 「じぁあ 何で大学入ったのよ?」

  美空 「入ったのは 世の中が こんな事になる

      前だから」

  幸子 「そうね コロナ コロナ コロナっか?

      あっ! そうだ! ちょっと ソラちゃ

      んに見てもらいたいものがあるの」

   幸子 びっこをひいてリビングに行く

  美空 「おばあちゃん その足どうしたの?」

   幸子 エアメールを持ってリビングから戻って

      来て

  幸子 「今日 お買い物からの帰り そこの坂道

      上ってたら急に膝が痛くなってきちゃっ

      て・・・」

  美空 「ほら 言わないこっちゃない 年取って

      からこんな山の上に住むから」

  幸子 「山じゃないよ 丘ですよーだ」

  美空 「相変わらず おばあちゃん 口だけは達

      者なんだから」

  幸子 「でも この事 美砂子には内緒にしてち

      ょうだいね あの子に知られたらまた 

      何 言われるかわからないもの」

  美空 「了解! で 見てもらいたいものって 

      何よ」

  幸子 「ああ これなんだけどね(と エアメー

      ルを見る)私 外国に知り合いもいない

      し 何か 気持ち悪くって ソラちゃん

      英文科でしょ ちょっと見てくれない?

      (とエアメールを美空に渡す)」

  美空 「(エアメールを受け取って)私 英文科

       って言っても なんちゃってだけ

       ど・・・ 随分 分厚いね(エアメー

       ルを見て)どれどれ」

  幸子 「最近 テレビでよく詐欺メールとか 言

      ってるじゃない まさか それかな?」

  美空 「おばあちゃん それはメールはメールで

      もメール違いだから」

  幸子 「えっ?」

  美空 「(エアメールを裏返して)グレンって 

      読むのかな? ヤマダ・・・ニューヨー

      ク USA・・・ おばあちゃん これ

      ニューヨークからだよ!」

  幸子 「ニューヨーク?」

  美空 「う うん 多分・・・ 開けていい?」

  幸子 「いいけど 気をつけなさよ!」

  美空 「大丈夫だって! ハサミある?」

   幸子 美空にハサミを渡す

  美空 「(ハサミを受け取って)サンキュー(ハ

      サミでエアメールを開封して手紙を取り

      出して広げて)やっぱ 英語だ! えー

      と・・・」

   美空 暫く読んでいる

   幸子 心配そうに美空を見ている

  美空 「(手紙を読む)グランドファザー・・・

      オールドピクチャー・・・あー そう言

      う事か・・・」

   幸子 心配そうに美空を見ている

  美空 「おばあちゃん この手紙をくれたはグレ

      ン・ヤマダって言う人で その人のおじ

      いさんが5年前に死んじゃって 住んで

      いた家を売るために整理していたら そ

      のおじいさんが使っていた机の引き出し

      から古い写真が出て来てその写真を送り

      ますって書てある 我ながら良く読め

      た・・・」

  幸子 「写真?」

  美空 「うん!(と 封筒の中を見て)写真いっ

      ぱい入ってるよ(と 封筒から十数枚の

      写真を出して 幸子に差し出して)こん

      な古い写真」

   幸子 写真を受け取って見る

  美空 「(写真を覗き込んで)それからね これ

      これかな? この写真の このパイロッ

      トの軍人さんの隣の女の子は・・・」

   幸子 写真を見つめる


8 鎌倉駅近くのカフェ(昼下がり)

   幸子と一人娘の美砂子が窓際の席で向かい

   合ってコーヒーを飲んでいる

  美砂子 「それで膝の方はどう?」

  幸子  「えっ?」

  美砂子 「何 びっくりしてんの? ソラから聞

       いたわよ」

  幸子  「(呟くように)あの 裏切者・・・」

  美砂子 「えっ?」

  幸子  「な 何でもない・・・」

  美砂子 「人の言う事も聞かないで あんな山の

       上に引っ越すから 言った事じゃな

       い」

  幸子  「山じゃないよ 丘ですよー」

  美砂子 「相変わらず お母さん 口だけは達者

       なんだから」

  幸子  「(微笑んで)やっぱり 親子だね」

  美砂子 「親子って?」

  幸子  「何でもない」

  美砂子 「変なの で 話って何よ」

  幸子  「ちょっと 私 日帰りで 京都に行っ

       て来る」

  美砂子 「京都? 何んで また 急に?」

  幸子  「ソラちゃんから 聞いてない?」

  美砂子 「聞いてないって?」

  幸子  「手紙の事・・・」

  美砂子 「手紙? 何 それ?」

  幸子  「(呟くように)それは言ってないん

        だ・・・」

  美砂子 「何? また 一人で ブツブツ言っ

       て」

  幸子  「何でも・・・」

  美砂子 「(首をかしげて)まあ 最近 コロナ

       は治まって来たし 大丈夫だとは思う

       けど・・・」

  幸子  「随分と 旅行してないから 気分転換

       にと思って」

  美砂子 「そうだね GOTOもまだやってるし 

       お父さんが死んじゃってから お母さ

       ん 旅行してないもんね で 何時 

       行くの?」

  幸子  「明日」

  美砂子 「明日!? 又 急ね」

  幸子  「思い立ったが吉日って言うでしょ」

  美砂子 「それはそうだけど でも ゴメン 私

       明日は 急に仕事が入ったちゃったか

       ら・・・ 明後日じゃダメ?」

  幸子  「誰も あなたと一緒に行くって言って

       ません」

  美砂子 「えっ? じぁあ 誰と行くの?」

  幸子  「一人で行って来る」

  美砂子 「一人で?」

  幸子  「うん」

  美砂子 「そう・・・ でも 京都 私も行きた

       いなー」

  幸子  「お生憎様!」

  美砂子 「でも 何で日帰りなの? 泊まったら

       いいのに」

  幸子  「女の一人旅は ぶっそうだから」

  美砂子 「また 乙女みたいなこといっちゃて」

  幸子  「お父さんが天国行って 最近 乙女に

       戻った様な気分なの」

  美砂子 「よく言うわよ で 話は変わるけど

       この間 私の携帯に 知らない外人

       から電話があったの」

  幸子  「知らない外人?」

  美砂子 「そう 英語で 言ってる事 わからな

       かったし 直ぐ切っちゃんだけどね 

       なんか怖くなっちゃて・・・」

  幸子  「それ 詐欺テレホンじゃない?」

  美砂子 「何それ?」

  幸子  「さぁー」

   幸子 微笑んでコーヒーカップに口をつけて外

      を眺める

   美砂子 微笑む


  つづく







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