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滝を斬る  作者: ninjin19
62/225

4-10

 マイラ達は、密かに山道を抜けようとしていた。

シンガリのナンシーが追いつくまで、しばらくマイラは、待機する事にした。

そこを、ミカエルの家臣が、馬を飛ばして走ってきた。

「私は、テルプル軍、ミカエルが家臣、ミーツ サイドン。至急の用件にて、マイラ様にお目通りを!」

ミーツは、馬から飛び降りると、口上を述べた。

「ご苦労です。申されよ。」

マイラは、馬で前に出て、馬上からミーツに声をかけた。

「は!私は、テルプル軍ミカエルが家臣、ミーツ サイドンであります。主からの口上を申し上げます。オーガは、テルプルを裏切り、南の街道から迫っております。テルプル軍は、ルーサー軍をシンガリに、カーツ様から退却を始めております。つきましては、マイラ様も、早急にミカエル軍と合流し、撤退を!」

ミーツは、ミカエルの口上を申し伝えた。

「仰せの向き、かたじけない。ミーツ殿は、ミカエル殿に承知したとお伝えするように。」

マイラは、ミーツに告げた。

「は!では、先行して、主に、伝えまする。それでは、御免!」

ミーツは、馬に飛び乗ると、引き換えしていった。

しばらくすると、ナンシーが追いついて来た。

「ナンシー、追いついたか。」

マイラは、安堵した顔で、ナンシーに声をかけた。

「マイラ様、私の事など、気にせず、先行なさいませ。生死の境になる事もございます。」

ナンシーは、そう言って、マイラに諫言した。

「すまない。で?シーゼンは?」

マイラは、尋ねた。

「いえ、私達に感づいている様子はありませんでした。」

ナンシーは、そう報告した。

「そうか。しかし、いずれは、テルプル軍の退却に気づくだろうな。テルプルは、ルーサーが、シンガリだ。ハービス様が指揮するだろうから、大丈夫とは思うけど、今回のシンガリは、熾烈を極めるに違いない。」

マイラは、心配そうに呟いた。

「いずれにしても、一刻も早く、ここを発ちましょう。」

ナンシーがマイラに進言した。

「分かった。」

マイラは、先頭を切ってウィンディで駆け出した。

そして、ナンシーの指示で、順番に女近衛兵達が、駆けていった。

ナンシーは、全員が駆け出したのを確認して、自分も隊列を追って駆けていった。


「しかし、しつこい連中だな。随分と退いたのに、まだ、追って来る。もうカーツ様には追いつけやしないのにな。」

ヘロヘロになりながら、ルーサーは、多くの兵を失いながら、退却戦を続けていた。

「へらず口叩いてる暇はねえぞ。また、仕掛けて来るぞ。」

ブーン達も、水だけ飲んで、また、伏兵として林に入っていった。

「オーガも、カーツ様を逃した時は、自分達の負けだと分かっているのです。ですから、必死に追撃してくるのです。」

ハービスも、少なくなっていく味方の陣形を整えた。

そして、カズンに声をかけた。

「よく、ここまで生き延びました。あと少しです。さあ、出発を。」

ハービスは、カズンと家臣に声をかけると、カズンを乗せた荷車を引く馬と家臣達を見送った。

とにかく、同じ事を繰り返すしかなかった。

伏兵で、減らし、本軍で叩く。

波が引いたら退く。そして、カズンを追い抜く。

そして、ある程度、退いたら、陣を構える。

「今回は、結構、殺られたな。」

ブーンが戻ってきた。

「そうか…。」

ルーサーは、沈痛な表情を浮かべた。

「そんな悲しみに浸っている暇はありません。さあ、退きます。急いで!」

冷酷なまでに冷静に、ハービスは、指揮を執り、動けなくなった者は、平然と見捨てて、移動を開始した。

そして、カズン達を追い抜いて、街道を東へ逃げ続けた。


「カズン様、本軍が、駆けていきますぞ。何とか、しのいだようですな。あと少しでテルプルの勢力圏に入ります。お気を強く、お持ちくだされ!」

家臣が、カズンに声をかけて鼓舞した。

カズンは、すでに、意識が朦朧としていた。

カズンに同行する家臣は、数名になっていた。

「すまぬ…。」

カズンの声は、消え入るような小さな声だった。

「敵です。」

オーガ軍の追っ手の小隊が迫っていた。

今回は、明らかに追いつかれそうだった。

家臣達は、カズンを囲むようにして、剣を抜いた。

「もうよひ(よい)。もはや、こいまで(これまで)だ。その方らは、本軍へひそげ(急げ)。」

カズンは、懐刀を取り出した。

「何をおっしゃいます。カズン様、お最期の時は、我らも、共に参ります。」

家臣達は、最期を覚悟して、剣を捨てて、懐刀を取り出して、カズンを囲んで座り込んだ。

カズンが懐刀を抜いて、自決の構えを見せた時だった。

どこからか矢が放たれて、オーガ軍の騎士を射抜いた。

そして、坂の上から、女近衛兵達が、騎馬で駆け下りて来て、オーガ軍を追い払った。

「私は、サリバーが王、マイラ ビューラー ウィロードである。私の目の前で、自決は、許さぬ。どこの手の者か?」

どこからともなく声がする。

カズン達が声の方を見上げると、坂の上の道に、馬上から、こちらを見据えるマイラの姿があった。

「何と神々ひい…(神々しい)。」

カズン達は、しばらく、その姿を見つめていた。

「我らは、ルーサー軍、所属、カズン マント隊でございます。微力ながら、シンガリを務めております!」

家臣が、言上した。

「傷を負いながらの働き、健気である。ミカエル軍がルーサー軍に合流している。そなた達も、本軍へ急げ。私達の軍が、本軍までお送りする。」

マイラは、そう言うと、軍を半分に分ける事にした。

「ナンシー、あの者たちを本軍まで送り届けて欲しい。送り届けたら、私に合流して。くれぐれも撤退戦には巻き込まれないように。」

マイラは、そうナンシーに指示した。

「畏まりました。マイラ様、さあ、お発ちください。」

ナンシーは、部下と騎馬で坂を下ると、荷車を守って、本軍に向かった。

「行くぞ!」

それを見届けたマイラは、再び、女近衛兵達と共に、颯爽と街道を駆けていった。

「これは、何と美しく気高い…。」

カズン達は、声を漏らしながらマイラを見送り、ナンシー達に守られて、本軍に追いついた。

「カズン、よお無事だったな。あんたら、サリバー軍だな。助けてくれて、ありがとうな。マイラに礼を言っておいてくれ。」

ルーサーが、ナンシーに腰低く頭を下げた。

「さあ、お通りあれ。ミカエル軍も合流しました故に、もう大丈夫です。」

ハービスが、道を開けさせた。

「かたじけなひ(かたじけない)。このごほん(ご恩)、ひっしょう(一生)忘れませぬ。」

カズンが、ナンシーに頭を下げた。

「騎士は、相身互い。お体、労れよ。では、御免下さい!」

ナンシーは、部下を、まず、出発させると、最後に、自分も街道を駆けていった。

「一糸乱れぬ、隊列。流石と言わざるを得ないな。」

ハービスは、ナンシー達を見送ると、そう呟いた。


マイラの隊と、ナンシーの隊は、ギブルニアの国境近くで合流した。

そして、兵馬を、少し休ませた。

「ナンシー、戦場に置き去りにされた腹いせに、少し、テルプルの諸君のド肝を抜いてやるか。」

マイラが、いたずらっぽく笑った。

「と、申しますと?」

ナンシーが、キョトンとした顔で尋ねた。

「ギブルの街道を、隊列を組んで、駆け抜けてやりましょう。」

マイラは、そう言って微笑んだ。

「畏まりました。逃げる時も颯爽と参りましょう。」

ナンシーも微笑み返した。


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