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滝を斬る  作者: ninjin19
34/225

2-15

 「さて、ごちそうになった。記念に、この服をもらっていいだろうか?」

マイラは、女房衆に尋ねると、そんな物で良ければと、口々に答えた。

「ありがとう。そうだ、礼と言っては、何だが、甲冑を置いて行こう。何か困ったら売るといい。けっこう良い物らしいから。」

マイラは、そう言って立ち上がった。

「本当によろしいのですか?」

漁師長が尋ねた。

「ああ。そうだ…。後々、迷惑がかかるといけないからな。書くものはある?」

マイラは、ペンと紙を受け取ると、甲冑を礼としてこの村に授けると記して、花押を書いた。

そして、それを漁師長に手渡した。

「恐れ多い事です。村の宝と致します。」

皆がひれ伏した。

「ブライ、剣を。」

マイラがブライに声をかけると、ブライは、両手で剣を掲げてマイラに差し出した。

「大義。天下国家の為と言うならば、まず、この村の為に働け。いいな。」

マイラは、剣を背負うとブライにそう語りかけた。

「ははぁ。」

ブライは、片膝を付いて胸に手を当てた。

「マイラ様、これからどちらへ?」

ブライは、立ち上がると尋ねた。

「私か?そうだ、中央の病院に行くんだったな。」

マイラは、ウィンディに跨った。

「この辺りは、治安も不安定です。私が手綱を引きましょう。」

ブライは、そう申し出た。

「そうか、では、頼もうかな。」

マイラは、そう言って微笑んだ。

そして、漁師達に見送られて、漁師村を後にした。


フレッドは、信者達に聞き取りをしながら、マイラの足取りを追っていた。

「さすがに真紅の甲冑は、目立つからな。まあ、それも、マイラ様は、ご承知の上にだろうがな。あっちか…。という事は、港へ向かったのか?しかし、あっちは治安が不安定だ。いや、あのお方の事だ、敢えて立ち寄ったか?」

フレッドも、段々、マイラが分かってきた。

そんな予想が容易に立てられた。

フレッドは、俊足を飛ばして港へ向かう。

「これは…。」

祭りでもあったかのような様子に、フレッドは、一抹の不安を感じていた。

しばらく辺りを歩いていると、漁師達が、マイラの甲冑を大事に運ぼうとしていた。

「あれは!?」

フレッドは、慌てて、野次馬の女房衆に声をかけた。

「随分と立派な甲冑だが、あれは一体?」

フレッドが尋ねると、女房衆は、興奮気味に捲し立てた。

「サリバーの国王様が来ているのは、知っているだろ?お忍びで、この港町に来てたんだよ。」

「ほお、それは、それは。」

フレッドが、驚いて見せると、女房衆は、更に捲し立てた。

「私らが粗末な料理をお出ししたら、たいそうお気に召して、礼だと言って、あの甲冑をくださったのよ。」

やられた…、それを聞いたフレッドは、思った。

「それで、どんなお召し物で出発された?」

フレッドは、尋ねた。

「私らが着るような、シャツとズボンで。地元の若い者が、手綱を引いて行ったよ。」

女房衆に言われて、フレッドは、マイラを再び、追った。


マイラとブライは、町に向かって馬を進めた。

「そうだ、ちょうどいい。ブライ、お前も会見場まで付いて来い。」

マイラは、そう馬上からブライに声をかけた。

「いえ、私は、ただの道案内を買って出ただけですから。」

ブライは、そう言って首を横に振った。

「このままでは、いずれ、ゲリラは、掃討される可能性が高い。今が頭の下げ時だ。お前が橋渡しになれば、いらぬ争いを回避できるかもしれん。どうだ?」

マイラは、尋ねた。

「うーん、分かりました。最後まで、お供します。」

ブライは、そう返事した。

「そうか、それは、心強い。頼んだぞ。」

マイラは、微笑んだ。

その後、二人は、ゆっくりとしたペースで中央の町へ向かっていった。

「マイラ様、この調子なら、夕刻には、病院につけるでしょう。」

ブライは、町の方向を指さして言った。

「そうか…。ところで、お前は、どうしてカーリアに来たんだ?信者になりたかったのか?」

マイラは、尋ねた。

「いや、俺は、子供の頃、サリバーが、ルーガンの統治を受けている時の内戦で両親を失って。とにかく逃げているうちに、この辺りで行き倒れているのを、カーリアの修道女に助けられました。それからは、カーリアの軍人として育てられたのですが、いつか、故郷に戻りたいと思って生きてきた所で、あの小砦の建設が始まりました。これでは、一生、ここから出られないと思い、反乱軍に参加して、何とか小砦を突破して、故郷に戻りたかった。まあ、そんな安直な話です。」

ブライは、そう、自虐的に胸の内を話した。

「お前の身の上を聞けば、王族として詫びなければならない。しかしな、もう、お前の故郷は、ここカーリアとは言えないか?この破壊された町を、いや、自分達が破壊してしまった町を、自分の手で何とかしたいとは思わないか?」

マイラは、ブライに尋ねた。

「それは…。」

ブライは、口ごもった。

「まあ、他人に惑わされず、己と向き合え。そうすれば、答えは自ずと出る。」

マイラは、そうブライを諭した。


町に近づくにつれて、人の往来も多くなってきた。

それと同時に、路上で炊き出しを待つ者、救護所で横たわる者も目立つようになってきた。

「フレッド、付けているのは分かっているわ。出てらっしゃい。」

マイラは、馬から降りると、そう呼びかけた。

「やはり、気づいておられましたか。」

フレッドが、片膝を付いて現れた。

「さすがね、漁師の村から追いかけて来たのね。」

マイラは、微笑んだ。

「はい。何とか追いつきました。皆が心配しております。早くグレイ様の元へ参りましょう。」

フレッドは、そうマイラを諌めた。

「それは、すまないと思っている。でも、少し、考えがある。」

マイラは、フレッドに、やんわり、まだ戻らないと告げた。

「ブライ、この辺りで使える宿は無いかしら。」

マイラは、唐突に尋ねた。

「え?でも、マイラ様、夕刻には病院に着けますよ。」

ブライが口を挟んだ。

「ちょっと気が変わったのよ。」

マイラは、そう、あっけらかんと話した。

「はぁ…。宿って言うのか、信者が集会で使う保養所ならありますが。」

ブライは、そう答えた。

「そこでいいわ。フレッドは、エリーザにドレスを持ってくるように言って。もちろん、内々に。ブライ、お前は、病院に行って、マーニル達に、明日の午後3時に、ここに来るように伝えて。よく考えれば、病院には、患者達もいるだろうから、騒がせたくないわ。」

マイラは、そう言って微笑んだ。

「畏まりました、では、私は、小砦に参ります。おい、若造、何者か知らんが、マイラ様に何かあったら、ただではすまんからな。」

フレッドは、ブライを恫喝した。

「わーってるよ。おっさん。」

ブライも身を乗り出して答えた。

「さ、時間がないわ、頼んだわよ。」

マイラに制されて、フレッドは、去っていった。


フレッドと別れたマイラとブライは、町に入る前の少し景色の良い丘にある小さな保養所に到着した。

「ブライ、正体を明かすな。いいな。」

マイラは、そうブライに指示した。

「はい。それは、心得てます。」

ブライは、そう答えた。

受付で申し込みをすると、内戦の間は、閉めていたので、部屋は全て空いているという事だった。

「では、部屋を2つ頼む。」

ブライは、そう言って、マイラから預かった金貨で宿泊代等を払った。

「じゃ、俺は、マーニル様の所に行って来ますから、馬を借ります。」

ブライは、そうマイラに言った。

「ああ、気をつけてな。」

マイラは、そう言ってブライを見送った。

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