2-10
マイラは、医務室を飛び出ると、一気に砦の中を駆け抜け、見張り台に上がった。
「ケイ、リック、白い旗を用意して。」
マイラは、カーリアの様子を見ているケイとリックに話しかけた。
「何だあ?白い旗だあ?何を言ってやがるんだ!」
ケイがマイラの方に振り返って、睨みつけたが、マイラと分かって声を上げた。
「わあ!?」
ケイは、驚いて腰を抜かした。
「ケイさん、どうか…マ、マイラ様!?」
リックは、腰を抜かしたように尻もちをついた。
「姐さん!どうしてここへ?」
ケイは、アワアワと口ごもった。
「マイラ様、いつから?」
リックも片言で尋ねた。
「出陣した時からいたけど…。」
マイラは、そうあっけらかんと一言答えた。
周りの兵達は、慌ててその場でひれ伏していた。
「姐さん、心臓に悪い事は、やめてくださいよ。」
ケイは、引きつった笑いで立ち上がった。
「そうですよ。きっとエリーザさんが発狂してますよ。」
リックも変な汗が流れているのを感じた。
「まあ、ハンがいるから大丈夫でしょう。それよりも、カーリアから人道支援の要請を受けた。合図の白旗を掲げなさい。」
マイラは、ケイとリックに命じた。
「分かりました!」
ケイとリックは、白旗を用意して、見張り台のポールに旗を掲げた。
「クレア様、白い旗が上がったようです」
マーニルは、部下からの報告をクレアに伝えた。
「マーニル、兵を率いて門を開けて。サリバー軍を誘導するのです。」
クレアは、マーニルに命じた。
「畏まりました。」
マーニルは、兵を率いて、門に向かった。
「アナン、門を開けろ。」
「はい!」
マーニルと門番達は、戦火をくぐり抜けて、門にたどり着くと、防戦しながら門を開けた。
「姐さん!門が開きました。」
ケイがマイラに言った。
「ケイ、リック、軍に戦闘配備をさせて。でも、私が命じるまで動いてはダメ。向こうが撃って来ても防戦のみ。いいわね!」
マイラは、二人に命じた、
「分かりました。リック!行くぞ。」
ケイとリックは、見張り台を降りていった。
「何か変わった動きがあったら、ケイに知らせるのです。いいですね。」
ひれ伏して固まっている兵達は、そのまま畏まりましたと返事をした。
マイラは、見張り台の兵に後を任せると、自分も見張り台を降りた。
そして、霊安室に運ばれたフローラの元へ向かった。
そして、しばらく、フローラの亡骸を見つめていた。
「フローラ、あなたは、生きた。逃げなかった。」
マイラは、そう呟くと祈りを捧げた。
「グレイ、いるんでしょ。」
マイラは、そう呼びかけた。
「はい、ここに。」
マイラが立ち上がると、霊安室のドアの前にグレイが跪いていた。
「カーリアは、全軍で1万という所?」
マイラは、尋ねた。
「はい。反乱軍は、6千。それを、教会を守る為に4千で正規軍が戦っています。」
グレイは、そう報告した。
「さすがね。もう潜り込んでいたの?所で、もう一人いるようね。」
マイラは、グレイに尋ねた。
「フレッドにございます。」
フレッドもグレイとと共に跪いた。
「フレッド、フローラは、自分なりに答えを出した。だから、あなたも精一杯、生きるのです。」
マイラは、フレッドに語りかけた。
「はい。」
フレッドは、胸に手を当てた。
「私達の軍勢は、5千。手っ取り早くやるなら、加勢した側を勝たせればいい。でも、それでは意味がない。いい?グレイ、あなたはマーニルに、これ以上、戦うなら双方殲滅すると、全軍投入してでも私はやると伝えなさい。フレッド、あなたは、反乱軍の頭目に同じ事を伝えなさい。私の条件は、明日の夜までに武装解除して、サリバー軍を入場させる事。いいわね!」
マイラは、二人に命じた。
「は!」
二人は、闇に消えていった。
反乱軍は、教会の入口まで迫っていた。
クレアは、修道女や女子供と共に、地下のシェルターに逃げ込んでいた。
「サリバー軍は?」
マイラは、マーニルに尋ねた。
「門は開けましたが、砦の前で整列したまま動きません。」
マーニルは、首を横に振った。
「そうですか…。このまま動かないつもりでしょうか?」
クレアは、マーニルを見つめた。
「とにかく、ここを動いてはなりません。私は、シェルターの入り口を死守します。今は、サリバー軍を信じましょう。」
マーニルは、そう言って、シェルターを出た。
「マーニル様、報告致します。」
兵の一人が、マーニルの前に跪いた。
「どうした?その方…。見慣れぬ顔だが?」
マーニルは、剣を持つ手に力を入れた。
「私は、サリバー女王、マイラ ビューラー様の使者にございます。」
グレイは、そうマーニルに告げた。
「何?女王陛下が、こちらに参陣されているのか?」
マーニルは、少し、たじろいだが、平静を装った。
「マイラ様のお言葉をお伝え致します。これ以上、戦うなら双方殲滅する。全軍投入してでも私は戦う。明日の夜までに武装解除して、サリバー軍を入場させる事。」
グレイは、そうマーニルにマイラの意向を伝えた。
「武装解除だと…。」
マーニルは、口ごもった。
「マイラ様は、人道支援のご意向です。ここで、どちらかについて戦うのは無意味と仰せです。」
グレイは、そう付け加えた。
「反乱軍への繋ぎは?」
マーニルは、苦渋に満ちた顔で尋ねた。
「今、私の手の者が、反乱軍の方にも使者として話をしております。もし、反乱軍の頭目が戦うという選択をしたならば、マイラ様は、双方を殲滅します。そういうお方です。間違っても、四方を敵国に囲まれている状態で全軍など動かせまい等と思ってはなりませんよ。マイラ様は、やると言ったら本当にやります。何年かかってもです。」
グレイは、そう忠告した。
マーニルは、唇を噛み締めた。
考えている時間は無い。
反乱軍は、教会の防衛線を突破しようとしている。
マーニルは、選択を迫られた。
「分かった…。私が責任を持つ。」
マーニルは、体の震えを隠しながらそう答えた。
「間もなく、教会の最終防衛線を突破します。」
反乱軍の陣に伝令が到着した。
「ご苦労。くれぐれも、クレア様始め、女子供を手にかけるようなことはするな。厳命だぞ!」
ノリスは、そう伝令に伝えた。
「は!もう一つ…。」
伝令は、そうノリスを見上げた。
「ん?貴様!何者だ?」
自分の手の者では無いと気付いたノリスは、剣を抜こうとした。
周りの部下達も立ち上がった。
「斬る事などは、いつでも斬れましょう。」
フレッドは、その場に胡座をかいて座った。
「ほお、いい度胸だ。さしずめサリバーの忍びか?」
ノリスは、剣から手を離した。
「さすがですな。私は、サリバー女王、マイラ ビューラー様の使者にございます。」
フレッドは、そう身分を明かした。
「先ほど、マーニルの使者に対して白旗を振っていたが…?サリバーは、正規軍に付くのではないのか?我々に何の用だ?」
ノリスは、椅子にドカッの座ると、横柄に尋ねた。
「あの旗は人道支援の要請に答えた物。」
ノリスは、そう答えた。
「ほお、それで、我々に降伏せよとでも言いに来たか?」
ノリスは、尋ねた。
「それでは、マイラ様のお言葉をお伝え致します。これ以上、戦うなら双方殲滅する。全軍投入してでも私は戦う。明日の夜までに武装解除して、サリバー軍を入場させる事。」
ノリスは、そう周りの部下達にも聞こえるよう大きな声で、はっきりと言った。
「双方殲滅だと…。確かにサリバー軍全軍を持ってすれば、殲滅は容易だろう。しかし、今の、サリバーは、条約を結んだとは言え、四方を敵国に囲まれている。全軍など動かせまい。」
ノリスは、バカにするように大声で笑った。
「甘く考えない方がよろしいかと。マイラ様は、本当に双方殲滅するでしょうし、それに、やるとなれば、何年かかろうと全軍を動かすでしょう。クレア様に対しても、容赦はないとお考えください。」
ノリスは、そう忠告した。