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滝を斬る  作者: ninjin19
27/225

2-8

 マイラは、精力的に政務をこなしていた。

エリーザも安心して身の回りの世話をすることができた。

徐々に、ハンの忠告も忘れてしまうほど、マイラは、王としての職務を全うしていた。

「ハン、出陣の準備は、整ったのかしら?」

定例の会議で、マイラは、ハンに尋ねた。

「砦を建てる為の資材と職人を集めております。今しばらくお時間を。」

ハンは、そう答えた。

「そうか…。急がせて。」

マイラは、そうハンに命じた。

「畏まりました。」

ハンは、そう恭しく答えた。

会議が終わり、マイラが部屋に戻ると、ハンは、ケイとリックを呼び止めた。

「いいか、明日の早朝に出陣だ。マイラ様に気づかれるなよ。お目覚めの前に静かに出立しろ。」

ハンは、二人に、そう命じた。

「はい。」

二人は、早速、出陣の準備に取り掛かった。


その日の夜、マイラは寝間着に着替えるとベッドに入った。

「マイラ様、おやすみなさいませ。」

エリーザが、掛け布団を整えると、灯りを消してから部屋を出て行った。

「いつもより、外が明るい。馬の嘶きが四方から聞こえる。人の動きも感じる。」

マイラは、いつもと違う外の気配を感じていた。

「そうか…。出陣の準備をしているな。」

マイラは、密かにベッドから起きると、ベッドの下に隠してあった下級騎士の兵装を身につけて、家具を足場にして天井裏に潜り込んで移動して、人目のつかない場所で廊下に下りた。

そして、非常口から、コソッと外に出て、荷物を運ぶ下級騎士に紛れ込んだ。

「いいか、姐さんの眠りの妨げにならないように、静かに出陣する。伝令は、各隊に出陣を伝えろ。」

ケイが伝令に耳打ちした。

明け方になる少し前に、伝令が静かに全軍を回って、各小隊ごとに、音を立てないように、順番に出陣した。

マイラは、資材を運ぶ小隊の歩兵達に紛れ込んで出立した。

「ケイさん、各隊、全て、門を出ました。予定通りです。」

リックがケイに報告して来た。

「よし、まず一安心だな。姐さんに気づかれたら、ハン様にどやされる。」

ケイが、大きく息を一つ吐いた。

「良かった。ヒヤヒヤしましたね。マイラ様は、気配に敏感ですから。」

リックが、ケイに言った。

「ああ。最近、姐さんは、ご多忙だ。苦手の政務でお疲れだったのだろう。」

ケイは、そう結論づけた。

 

「マイラ様、そろそろ朝食のお時間です。」

侍女が、ノックしても返事が無い事を不審に思い、エリーザに報告しに行った。

「何ですって!」

エリーザは、慌てて、マイラの部屋に行き、何度もノックを繰り返した。

「申し訳ありません。失礼いたします。」

エリーザは、ドアを開けて、中に入った。

「しまった!」

家具を踏み台にして、天井に上った形跡が、放置されていた。

「油断していたわ。」

エリーザは、ハンの元へ報告に急いだ。

エリーザは、マイラが抜け出した事を捲し立てるようにハンに話した。

「なるほど、さすがはマイラ様、いつもと違う気配を感じ取られたのだろう。」

ハンは、そう言って笑った。

「笑い事ではありません。ケイとリックに、マイラ様が紛れている可能性が高いと知らせましょう。」

エリーザは、ムッとして言った。

「大丈夫だ。戦に行く訳ではない。マイラ様は、秘密裏に動きたいのだ。知らせては、マイラ様がお困りになるだろう。」

ハンは、そうエリーザに言った。

「はい…。」

エリーザは、渋々、ハンの言葉に納得した。


カーリアに着いたサリバー軍は、陣を張り、砦建設の準備を始めた。

「リック、マイラ様の口上を立て札に書いて門の前に立てろ。」

ケイは、リックに指示した。

「分かりました。」

早速、リックは、マイラの政策を記した立て札を門の前に立てた。

門番達が、それを見つけて、慌てて城内に戻ってマーニル達に知らせた。

「クレア様、私が見て参ります。」

マーニルが外に出て、立て札を確認した。

「なるほど。みんな、手出しをしてはならん。彼らはサリバーの領地で行動している。妨げてはならん。いいな!」

マーニルは、兵達に、きつく言い聞かせて城内に戻った。

「クレア様…。」

マーニルは、マイラの政策を説明した。

「理屈が通っています。サリバーは、私達に全く干渉していない。逆に、こちらが異を唱えれば、サリバーへの内政干渉になる。ここは、静観するしかないでしょう。」

クレアは、マーニルに告げた。

「しかし、ルーガンには港からしかいけません。船には商人の承諾がなければ乗れません。検問を通過しなければサリバーに入れないとなると、カーリアに逃れて来た罪人や逃亡兵達が、暴動が起こるかもしれません。それに、サリバーの挑発と捉えて、若い兵達が暴発する恐れもあります。」

マーニルは、そう危惧した。

「彼らとて、少なからず、罪を悔いて入信したに違いありません。信じましょう。」

クレアは、祈りを捧げた。


翌日から砦の建設は始まった。

マイラは、ケイやリックに分からないように、警備兵に紛れて行動していた。

「カーリアは、何か仕掛けて来るかとも思ったが、よく統制が取れている。」

ケイは感心していた。

「こちらも、カーリアを刺激しないように、兵達を統制していきましょう。」

リックが言うと、ケイも頷いた。

その様子を陰ながら見ていたマイラは、微笑んだ。

「何かいざこざを起こすかもと思っていたけど、安心したわ。」

マイラは、そう呟いた。

砦は、簡易的な作りで、一ヶ月ほどで完成した。

ケイとリックは、まず、作業をしていた人員をサリバーに返した。

そして、しばらく様子を見て、問題がなければ、警備の人員のみ残して、本隊は帰投する事にした。


話は、砦が完成する少し前に遡る。

「もうすぐ、砦は完成してしまう。これでは、何のためにカーリアに逃げ込んだか分からんわ。」

「そうだ、俺たちは自由になりたくて、ここに逃げてきたんだ。」

カーリア内部では、カーリアを出られなくなった罪人や脱走兵達が、秘密裏に集まるようになっていた。

「サリバーは、かなりの大軍だ。ルーガンに出るにしても、港は、商人が仕切っている。少数しか乗れまい。」

こういう集団には、自然とリーダーが現れる。

カーリアを守る軍の若手のリーダー格、ノリス ギウは、密談をしていた。

「まず、我々に味方する商人に呼びかけて、訳ありの女、子供を優先して、ルーガンに逃がそう。もちろん、残りたい者は残ればいい。」

ノリスの言葉に、皆は頷いた。

「クレア様も、マーニル様も動いてはならんと言われたが、いずれは、訳ありの者たちを引き渡すように言ってくるか、滅ぼしにかかってくるたろう。マーニル様には申し訳ないが、クレア様と共に、軟禁し、軍を蜂起させて、検問を突破して、脱出する。」

ノリスの言葉に、皆が同調した。


「クレア様、若い兵達が、不穏な動きを見せております。」

マーニルがクレアに報告してきた。

「私が話を聞きます。軽挙はなりません、相手は、それを待っているのです。それを伝えるのです。」

クレアは、マーニルに指示した。

「いずれにしても、ここは危険です。私の直属の兵を動かして私の砦に移動を。」

マーニルは、そうクレアに訴えた。

「私は、教会を動きません。修道女達を置いて逃げることはできません。」

クレアは、そう硬い意志を示した。

「分かりました。やってみましょう。」

マーニルは、フローラを使って、ノリス達のアジトを調べさせて、密談をする日時を掴んだ。

マーニルは、一人で、そこへ行き、説得に当たることにした。

「私だ、入れてくれ。」

マーニルは、街の片隅にある空き家のドアを叩いた。



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