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滝を斬る  作者: ninjin19
23/225

2-4

 「来い。外は危険だ。」

マーニルは、一言だけ言うと、城門の方へ歩き始めた。

「いいのか?」

マイラは、尋ねた。

「分からん。しかし、この状態で野宿は無理だ。」

マーニルは、そう呟くと、軽く手招きした。

確かに、風は吹き荒れ、猛烈な雨が地面を叩きつけていた。

そして、外堀の水も溢れそうな水位まで上がってきていた。

「さあ、風邪を引くぞ。」

再びマーニルに促されると、マイラは、軽く頷いた。

二人は、通用門から、中に入っていった。

「あれが、教会だ。お前には城にしか見えんだろうがな。」

マーニルは、中央にそびえ立つ巨大な建物を指さした。

「確かに…。」

マイラは、そう呟いた。

教会の正門を通ると、来賓の泊まる区画に案内された。

「この部屋は、来賓用だ。部屋の中には、風呂も暖炉もある。着替えとお湯、飲み物は、後で持って行かせる。」

マーニルは、そうマイラに告げた。

「すまない。」

マイラは、素直に部屋に入った。

しばらくすると、若い女が、まず、お湯を持ってきた。

「失礼します。お湯は、これだけですから、浴びる程度ですが、どうぞ。その間に、着替えなど持って参ります。」

女は、そうマイラに言った。

マイラは、剣をベッドの下に隠すと、脱衣所で服を脱いだ。

「これで少しは、さっぱりする。」

マイラは、短剣だけを風呂場の中まで持って行くと、すぐに手に取れる場所に置いた。

そして、大事にお湯を使いながら、そう呟いた。

「ルーシーさん、着替えを置いておきます。」

扉の向こうの脱衣室から、先程の女が、着替えを持ってきた事を告げた。

しかし、声だけを聞くと、何か聞き覚えのある声だった。

「お前は、フローラか?」

質素だが、若い女性らしい格好をしていたから、最初は分からなかったが、その女の声は、確かにフローラのものだった。

「はい。今夜の所は、お休みください。お水は、テーブルに。」

フローラは、そう言って、去っていった。

マイラが、用意されたパジャマを着てリビングに戻って来ると、フローラの言った通り、テーブルには、水差しとコップが用意されていた。

「とりあえず、寝るか。」

先程ベッドの下に隠しておいた剣を取り出すと、マイラは、剣を布団に忍ばせて眠った。

「明日の朝には止むだろう。」

マイラは、そう呟いた。


翌朝、窓から射し込む朝陽で、マイラは目を覚ました。

それを見計らったように、ドアのノックをする音が聞こえてきた。

「どうぞ。」

マイラは、上半身を起こすと、布団の下に忍ばせている剣に手を当てた。

「失礼します。」

フローラが入ってきた。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

フローラは、尋ねた。

「ああ。」

マイラは、一言答えた。

「昨日の服は、戦闘で、かなり傷んでいる様子なので、新しい物を用意いたしました。外の遺体は、早朝にフレッド達が、埋葬しましたのて、ご安心を。」

フローラは、そう話した。

「すまない。」

マイラは、また、一言だけ答えた。

「お着替えが済んだら、朝食をお持ちします。ご一緒してもよろしいですか?」

フローラは、尋ねた。

「構わない。」

マイラが、頷くと、フローラは、ありがとうございますと言って、退室した。

「これは、女物かぁ。しかも来賓用のつもりか?これは、ドレスじゃないか。うーん、まあ仕方ない。」

マイラは、着替えを済ますと、落ち着かない様子でフローラを待った。

「失礼します。」

フローラが朝食の用意をして入ってきた。

テーブルに配膳を済ますと、マイラの了承を得てから、自分も座った。

「ドレスをご自分でお召しになるなんて、お手伝いしましたのに。」

フローラは、そう申し訳無さそうに言った。

「気にしないで。どうもこれを着せられると、言葉遣いもおかしくなる。」

マイラは、切なそうに吐露した。

「まあ。」

フローラは、困っているマイラの顔を見て笑った。

その後、二人は、黙々と食事を摂り、フローラが食後のお茶を入れた。

「さて、私は、旧サリバーの軍人の娘でしたが、父は、王宮で、先帝をお守りする為に戦いましたが、敢え無く戦死、母と逃げ落ち、ゲリラの村で育ちました。」

フローラは、自分の生い立ちから話し始めた。

「そして、母も亡くなり、ゲリラに身を投じるようになりました。」

フローラは、フレッドが語った通りの事を話した。

「結果、何の罪も無い昔の仲間をルーシーさんに斬らせる事になってしまいました。身分を偽り、しかも、このような事になり、申し訳ありませんでした。」

フローラは、沈痛な面持ちで、マイラに謝罪した。

「カーリアは、治外法権と聞く。ここにいれば、罪に問われる事もないでしょ。その為に、あなたはここに来た。違う?それに、もうサリバーにゲリラは存在していないわ。もう、あなたの罪を問う者もいない。ここで、一生、神に仕えればいい。」

マイラは、そうフローラに告げた。

「では、私は、どう償えば良いのですか?」

フローラは、俯いた。

「それは、自分で答えを見つける他ありませんね。ここのかんがえでは、神に仕える事が、贖罪なのでしょ?」

マイラは、そうフローラを見据えた。

「それは、そうなのですが…。」

フローラは、そう呟いた。


マーニルは、クレアと面会していた。

「教会の建物、居住区、外壁、全て被害はありませんでした。それから、嵐に乗じて、外から侵入を企てた一団をルーシー殿が殲滅しました。」

マーニルは、そう報告した。

「その一団とは、何者ですか?」

クレアは、早速、興味を示した。

「旧サリバーのゲリラに所属する忍びの一団でして、フローラは、その一団からの抜け忍でした。彼らは、その裏切りを粛清する為に、侵入を企てたようです。」

マーニルは、そう報告した。

「ルーシーさんは、何故、彼らと戦ったのでしょう?」

クレアは、少し、困惑した顔をして呟いた。

「まあ、先に口封じの為に襲われて、反撃した。というのが、正直な所でしょう。」

マーニルは、そう分析した。

「何か考えがあってという訳でなく、身を守る為に戦っただけ、そういう事ですか?」

クレアは、少し、拍子抜けした顔をして呟いた。

「どうされました?フローラを守る為にとか、この教会を守る為にとか、そういう理由を期待されていましたか?」

マーニルは、微笑んだ。

「ええ。もう少し、踏み込んで言えば、それを口実に教会に入ろうとしていたのかと…。」

クレアは、ため息を付いた。

「どうされました?」

マーニルは、クレアの表情に、そう尋ねた。

「人の為、教会の為、となれば、それを口実に入ろうとしても無駄ですと、食事と金貨でも与えて追い返せばいい。しかし、これでは、我らの意思で中に入れた事になる。金を渡した所で、受け取らないでしょう。自分を守りたかっただけなのですから。マーニル、一本取られましたね。」

クレアは、マーニルに微妙な笑みを向けた。

「いえ、あの娘は、何も考えてはいないのです。ただ、あのテントで野宿をしていただけなのです。まあ、結果的に、参りましたと言う他ありません。」

マーニルは、苦笑いした。

「それで、どうするのです?それは、それとして、追い出そうと思えば、何とでもなりそうですよ。」

クレアは、そう、横目でマーニルを見つめた。

「とにかく、追い出す。それで、よろしいのですか?」

マーニルは、逆に尋ねた。

クレアは、しばらく目を閉じて、考えている様子だった。

「何故か、無性に、彼女に興味をそそられるのです。私自身が会ってみましょう。それに、ひょっとしたら、ここの兵を総動員しても、彼女には勝てないかもしれない。そんな気さえするのです。それは、マーニル、あなたもでなくて?」

クレアは、マーニルを、さらに強い視線で見つめた。

「はい。それは、確かに…。」

マーニルも頷いた。

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