表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滝を斬る  作者: ninjin19
20/225

2-1

 サリバー建国から初めての夏が来た。

テルプルがミナル攻略に集中している中、マイラは、国内の整備に力を注いでいた。

そんな中で、マイラは、何とか森の中の滝に行って、滝を斬る修行の答えを見つけたかったが、周りに反対されて、なかなか砦を抜け出せなかった。

しばしば、雨が降ると、以前、テントを張っていた中庭で剣の鍛錬をしていた。

六人衆を取りまとめて国内情勢を把握しながら、内政を整えていった。

砦の周りには自然と人が集まり、街が形成され、マイラは、

砦の周辺の地域を首都として、サリバニアとした。


その夜、砦では、定例の会議が行われていた。

「実は、ルーガンとの国境地帯にカーリアという地域があるのですが、以前からカーリア教会の勢力下にあって、ルーガンの統治の時代から自治を認められていまして、政治不介入を貫いています。ルーガンも何度か制圧を試みましたが、結局、失敗して今に至ります。サリバー建国に当たって、何度も話し合いをしたいと申し入れたのですが、政治不介入を主張して、門を開こうとしないのです。」

ダンが、そう進言してした。

「カーリアか…。かなり強固な城壁で囲まれているしな…。教会と言っても、あれは要塞だ。それに、港も持っている。しかも、各地の信者たちの中には商人も含まれていて、武器も含めて物資を港から搬入している。さらには、出奔したルーがニアや旧サリバーの軍人も含まれている。厄介だな。」

ハンが、マイラに説明するように話した。

「自立しているなら好きにさせておけばいいじゃない。」

マイラは、あっけらかんと言った。

「姐さん、そう簡単な話じゃないんすよ。」

ケイが、呆れ顔で言った。

「どういう事?」

マイラがキョトンとしていると、皆が、ため息をついた。

「確かに、貧困に苦しむ者、病に苦しむ者、カーリアに駆け込む者は、様々ですがね。犯罪者や、脱走兵も匿っているんです。カーリアは、出るも留まるも本人次第、再び、カーリアを出て問題を起こすケースも多発してるんですよ。」

ジーマが説明した。

「マイラ様、ここは、まず書状を送って、話し合いの道筋をつけてはどうでしょう?」

リックが進言した。

「ふーん。」

マイラは、しばらく考え込んでいた。

「マイラ様、もしや、直接、乗り込もうとか考えてませんよね。」

エリーザが、心配そうに話しかけた。

「まさか…。ちょっと考えるわ。」

マイラは、立ち上がると、部屋に戻って行った。

「エリーザ、監視を怠るな。必ず、マイラ様は、抜け出す。」

ハンがエリーザに指示した。

「分かりました。侍女達にも申し伝えます。」

エリーザも慌てて、マイラを追った。

「マイラ様ぁ。」

エリーザは、マイラの部屋の前まで来ると、マイラの名を呼んだ。

「エリーザ様、マイラ様なら、お風呂に行きたいと…。」

侍女が、そう説明した。

「お風呂?誰か、お供しているでしょうね?」

エリーザは、冷や汗をかきながら、尋ねた。

「はい。いつもの入浴担当の侍女達をお連れになって。」

侍女は、そう言って風呂の方を指さした。

「そお…。」

取り越し苦労だったか、エリーザは、少しホッとして、マイラの帰りを待った。


マイラは、風呂に入る前に、トイレに行きたいと言って、脱衣所でドレスを侍女に脱がせてもらって、トイレに入った。

普通、貴族は、ドレスを着たまま侍女に手伝ってもらって用を足すのだが、マイラは、それを嫌がり、このシステムができた。

「さてと…。」

トイレに隠してあるロープを大理石の柱にくくりつけて、窓から垂らして、下着のまま、中庭に降りた。

そして、これも印を付けた木の下に隠してある、平民の男装の服に着替え、旅用のリュックを背負って、コソコソと馬小屋に向かった。

愛用の剣は、護身用だと言って、トイレも風呂も、常に持って入るので持ち出すことができた。

剣を背負って愛馬、ウィンディに跨ると、肩より少し伸びた髪をポニーテールにして結ぶと、通用門からコソコソと出ていった。


しばらくすると、入浴に付き添った侍女達が、血相を変えて走って来た。

「エリーザ様、申し分けありません。」

侍女達は、片膝を付いて、頭を垂れた。

「どうしたのです?」

エリーザは、平静を装って尋ねたが、嫌な予感しかしていなかった。

「お手洗いに行きたいと仰せられて、その、お手洗いの窓から、下着姿で出ていかれたようでして…。」

侍女は、マイラが脱ぎ捨てたドレスをエリーザに見せた。

「やられたぁ!」

エリーザは、地団駄を踏んだ。

「やはり、行かれたか。」

後ろからハンが声をかけた。

「申し訳ありません。マイラ様に逃げられました。」

エリーザは、ハンに謝罪した。

「そうか…。探しても見つかるまい。マイラ様が戻られるまで、我々で国内を治めよう。全く、無事に戻られるまでは、生きた心地がせん。」

ハンは、エリーザの肩を軽く叩いた。

「はい…。」

エリーザも祈るような仕草をした。


マイラは、男装をして、肩より少し伸びた髪を、ポニーテールのように結んでいる。

愛馬のウィンディに跨って、サリバーの西の国境沿いの方へ走って行った。

「ふーん。確かに、あれは要塞だな。」

マイラは、カーリアに入る城門に繋がる道に入ると、遠くに見えるカーリアの城壁を見つめた。

そして、マイラは、またウィンディを走らせて、カーリアに向かって駆けていった。

街道を駆けていくと、次第に人気がなくなって、林道が続いた。

少し仮眠をして、また駆けて行くと、夜明けが近くなってきたのか、辺りが、少しずつ明るくなってきた。

その林道を、更に駆けていくと、道端にうずくまる人影を見つけた。

マイラは、馬を下りると、近づいて行った。

「大丈夫か?」

マイラが声をかけると、同じ年格好の女の子が、力なく顔を上げた。

「お見逃しください。私は、カーリアに行きたいのです。」

女の子は、そう訴えた。

「町から逃げて来たのか?」

マイラは、尋ねた。

「はい。」

女の子は、力なく答えた。

「何も食べていないのか?」

マイラは、懐から蒸しパンの包を出すと、女の子に水筒と一緒に渡した。

「食べて。話は、それから。」

女の子が、慌てて食べようとしたので、ゆっくり、ゆっくりね、そうマイラは、諭した。

女の子は、気を落ち着かせると、黙々と蒸しパンを食べた。

「ありがとうございます。ここ何日か、まともに食べていなかったので。」

女の子は、泣きながら言った。

「名は?」

マイラは、尋ねた。

「フローラ。フローラ サペリ」

女の子は、そう名乗った。

「何故、カーリアに行きたい?」

マイラは、フローラに尋ねた。

「私は、両親の借金のカタとして、ルーガニアに売られる途中でした。途中で私の乗る馬車が、別の人買いに襲われて、私は、そのどさくさで、逃げることができたんです。カーリアの事は、聞いていましたから、そこへ逃げようと。」

フローラは、そう話した。

「そうか。私もカーリアに行く。乗っていくか?」

マイラは、尋ねた。

「良いのですか?」

フローラは身を乗り出した。

「ああ。」

マイラは、フローラをウィンディに乗せるとその後ろに乗った。

フローラは、マイラの胸の膨らみを背中に感じて、驚いた。

「女性だったんですね。」

マイラは、馬を走らせると、ああ、そう一言だけ答えた。

「疑わないのですか?」

しばらく馬を走らせると、フローラは、尋ねた。

「何か隠しているのか?」

マイラは、尋ねた。

「いえ…。」

フローラが口籠ると、マイラは、言った。

「なら、それでいいだろ?」

マイラは、尋ねた。

「はい。」

フローラは、頷いた。

マイラは、馬を走らせた。

どのくらい走ったか、夜が明けて、太陽が登った頃、巨大な城壁が見えてきた。

「カーリアの門です。」

フローラが、そう言った。

「門番がいるな。」

マイラは、木の陰に隠れて馬を降りた。

そして、馬を木に繋ぐと、待っててと言い聞かせて歩いていった。

門には、武装した兵が数名、立っていた。

「ここは、カーリアの教会か?」

マイラは、門までやって来ると、単刀直入に尋ねた。

「そうだ。」

兵の一人が一言だけ答えた。

「中に入りたい。」

マイラは、そう申し出た。

「入信者か?」

兵は、槍で通せんぼをして、尋ねた。

「いや、入りたいだけだ。」

マイラは、微笑んだ。

「だめだ、だめだ。引き返せ。ここに入れるのは入信者だけだ。」

兵は、更に槍の通せんぼを強調した。

「お前では話にならないな。上を出せ。」

マイラは、槍を手で払い除けて兵に言った。

「痛い目に遭わないと分からんようだな。」

兵は、槍先をマイラに向けた。

「痛い目?」

マイラは、一言、呟くと、ハハハと大声で笑った。

「何が、おかしい!」

兵が槍の持ち手の方でマイラを叩きにかかった。

マイラは、スッとそれを避けて、前につんのめった兵の首の後ろを横から手刀で打ち付けた。

兵は、そのまま気絶して、うつ伏せで倒れ込んだ。

「どうした?」

数人の兵たちが槍を持って走って来た。

「大人しく立ち去れ!」

兵達が槍を向けた。

「お前たち、上を呼んでくれないか?」

マイラは、兵達に尋ねた。

「貴様ぁ!」

兵達が、本気で槍で突いて来た。

マイラは、その瞬間に剣を抜いて、全ての兵達が突き出した槍先の付け根の木の部分を、上から、下から、斜めから、一気に斬り落とした。

兵達は、たじろいだが、残った槍の棒部分を投げ捨てると、今度は剣を抜いて、斬りかかって来た。

「はぁ!」

一人の兵が振り下ろした剣を下から刃を受けて、弾き飛ばした。

剣は天にクルクルと回転しながら上がって、兵は、しびれた手を抑えてうずくまった。

そして、剣は、後方に落ちて、刃の部分から土に突き刺さった。

他の兵がたじろいだのを見逃さずに、マイラは、剣を鞘に納めて、兵達の懐に飛び込んでは、ボディブローを炸裂させ、また、次の兵の懐に飛び込んでボディブローを炸裂させるという速攻を繰り返し、どんどん集まってきた外の兵達を片付けた。

「責任者と話がしたい。門を開けてくれないか。」

マイラは、固く閉まった城門に向かって呼びかけた。

しばらくすると、城門の横の通用門が開いて、一人の男が出てきた。

「派手に暴れたものだ。名をお尋ねしたい。」

背の高い、冷ややかな目をした中年の男が尋ねた。

「私の名は、ルーシー ポウ。一人、入信者を連れてきている。だが、私は、中に入りたいだけだ。許可を求める。」

マイラは、男に問いかけた。

「そなた、娘か?勇ましいな。入信者は、認めよう。しかし、そなたは、立ち去られよ。」

男は、そう告げた。

「あなたでは、話にならないようだな。責任者を出してくれ。」

マイラは、そう男に告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ