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滝を斬る  作者: ninjin19
188/225

9-15

ミルリが、執務室から出ると、すでに外は騒がしくなっていた。

「お待ちください。何卒!何卒!」

警備の騎士や侍女に囲まれて、マイラは、天下御免の札をかざして、廊下を突き進んでくる。

「構わん。皆の者、下がれ。」

ミルリが命じると、皆が、そそくさと引いていった。

「久しぶりね。ミルリ。」

そこには、廊下に仁王立ちするマイラの姿があった。

「これは!?マイラ様!突然、いかがなされました?」

ミルリは、慌てて跪いた。

「エルネ様より、天下御免の札をいただいた。宰相様に会わせてもらおう。」

マイラは、案内せよとミルリに命じた。

「確かに天下御免の札は、宰相様が、エルネ様の為に用意されたもの、しかしながら、宰相様は、多忙の身でございます。しばらくのお時間をいただけないでしょうか。」

ミルリは、平身低頭で頼んだ。

「控えよ!この札は、宰相様のご命令と同じ権威を持つ。」

マイラは、尊大な態度で、ミルリを見据えた。

「失礼いたしました。案内致します。」

ミルリは、平身低頭して、ルーサーのいる庭園へと、マイラを先導した。

そこには、大勢の美しい侍女達に囲まれて、お茶を楽しむルーサーの姿があり、笑顔で、ティアがルーサーに寄り添っていた。

マイラは、剣を抜くと、ミルリを押しのけて走っていった。

「ルーサー!」

マイラは、叫んだ。

侍女達は、悲鳴を上げて逃げ惑ったが、ティアは、冷めた目でルーサーを盾にするように隠れた。

「わぁぁ!?マイラぁ!どうしたぁ?」

ルーサーは、驚いて、声を上げた。

「これを見ろ!」

マイラは、天下御免の札を、ルーサーに投げつけた。

「これは、天下御免の札じゃねえか?」

ルーサーは、そう呟いた。

「そうだ…。お前が、エルネに与えたものだな。」

マイラは、剣先をルーサーに向けた。

「そうだけどよ。これは、何のつもりだぁ?」

ルーサーは、ひきつりながら言い返した。

「マイラ様。このような事をしてはなりません。お引きください。」

追いついてきたミルリが、ルーサーとマイラの間に割って入った。

ティアは、黙って後ろから見ている。

「私は、今、ルーサー自身なのよ。自分が自分を斬って何が悪い。ミルリに命じる。そこを退きなさい。」

マイラは、ミルリに命じた。

「ミルリ。ええから。退け。」

ルーサーは、ミルリに命じた。

「しかし…。」

ミルリが、口籠っていると、ルーサーは、ミルリを蹴り飛ばした。

「ミルリ。本当に斬られるぞ。退いとれ。」

ルーサーは、芝生の上に、ドンと座った。

「自分の出した札のせいで斬られるんなら、しょうがないわ。ようわからんが、ほれ。やれ。」

ルーサーは、両手を広げた。

「セルネは、もう長くない。良い医者や薬を用意するよりも、ルーサー自身が顔を出す事が大事なのよ。エルネの気持ちも考えてあげて。今すぐにでも、ダイザッカに行くべきよ。それに、ティア。あなたも、一度くらい、お見舞いに行きなさい。」

マイラは、剣を鞘に納めると、そう言った。

「何だとぉ?ミルリ、どういう事だぁ。オメェは、セルネは、命に別状は無いと報告しとったじゃねえか!」

ルーサーは、ミルリに怒鳴った。

「申し訳ございません。宰相様に心配をおかけしてはいけないと思い…。」

ミルリは、ひれ伏して詫びた。

「宰相様。直ぐにダイザッカに参りましょう。」

ティアが、初めて口を開いた。

「おお。そうだな。そうだな。」

ルーサーが立ち上がった所で、ミルリに家臣が何か伝えてきた。

「何?また、天下御免の札を持った者が手紙を?分かった。」

シンディが、エルネに言われて、至急の手紙を運んできたのである。

ミルリは、手紙を受け取ると、ルーサーに渡した。

「何だあ。また、天下御免かぁ?」

ルーサーは、ムッとしながら手紙を読んだ。

すると、ルーサーは、体を震わせて、その場に崩れ落ちた。

「どうなさいました?」

ティアが、ルーサーに尋ねた。

「セルネが、死んでまったわぁ。」

ルーサーは、オイオイと泣き始めた。

「ティア。あなたもあなたよ。自分自身から見舞いに行こうともしなかったなんて。見損なったわ。」

マイラのは、そのまま、踵を返すと、キヨナを去っていった。

ティアは、無言のまま、マイラの背中を睨んだまま見送った。


「エルネ。心から、哀悼の意を捧げます。立場上、私は、帰国します。葬儀には、クレアを出席させます。」

マイラは、セルネに祈りを捧げると、シンディと共に帰国した。


セルネの葬儀がすむと、ルーサーは、喪に服するとして、自ら謹慎して、部屋に閉じこもっていた。

そして、しばらくして、ティアが、ルーサーを尋ねた。

「宰相様。もう、御自分をお責めになるのは、おやめください。」

ティアは、耳元で囁いた。

「取り返しのつかんことをしてしまった。エルネに顔向けができん。」

ルーサーは、ボソボソと話した。

「セルネ様の為にも、更に国を大きくする事が、何よりの手向けになりましょう。」

ティアは、そう言った。

「国を…?」

ルーサーは、これ以上、どうするというような顔をした。

「そうです。国を大きく、豊かにするのです。ダイニッポニアの北の海を挟んだ大陸があります。それを制覇するのです。大陸の王になることこそ、宰相様の使命と存じます。」

ティアは、そうルーサーに囁いた。

「さ。いつものお酒を、ご用意いたしました。お部屋の空気も変えましょう。さ、お香を」

ティアは、いつものお香を焚いて、ルーサーに酒を飲ませた。

「おお。何だか力が湧いてきたわ。」

ルーサーは、酒を飲み干すと、雄叫びを上げて立ち上がった。

「さ。いつものように、私を可愛がってくださいませ。」

ティアは、ベッドの方へ歩いていき、ルーサーを手招きした。

「おお。そうだな。そうだな。」

ルーサーは、よろよろとベッドに歩いていくと、そのまま、バッサリと倒れた。

そして、夢の中で、ティアの幻を抱き続けた。

「ふん。汚らわしい。この帝国は、私がいただくのよ。」

ティアは、ニヤリと笑うと、部屋を出ていった。


数日して、突然、ルーサーが、ダイザッカにやって来た。

「エルネぇ!エルネぇ!」

ドタバタとエルネの部屋に、ルーサーは、駆け込んできた。

「ルーサー様。どうされたのです。」

エルネは、驚いて、とにかくお茶をと、興奮気味のルーサーを宥めた。

「おお。すまんすまん。セルネの事は、知らんかったとは言え、本当にすまん事をした。俺はな。セルネに報いるためにも、この国を、もっと豊かにすると決心したんだ!」

ルーサーは、捲し立てた。

「それは、立派なお考えです。でも、天下は統一されました。これからは、国民の為に、安寧な世を、お作りください。」

エルネは、そうルーサーに言った。

「その為にだ、北の大陸を制覇して、巨大な帝国を作ろうと思う。差し当たって、大陸の半島に上陸して、領国として、そこから、大陸の国々を従えていく寸法だ。」

ルーサーは、捲し立てた。

「大陸制覇!?そのような無謀な事は、おやめください。国民は、まだまだ、疲弊しております。今は、国内を安寧にする時です。」

エルネは、そう訴えた。

「国民を、更に豊かにする為には、更なる領土拡大が必要なんだ。心配せんでも、勝算はある。エルネは、留守を守っておってくれりゃええ。」

ルーサーは、エルネの肩を叩いて、心配しないように宥めた。

「どうしても、大陸へ…?」

エルネは、俯いた。

「もちろんだぁ。大帝のお許しをいただいて、各国の領主に勅命を出す。」

ルーサーは、そう鼻息を荒くして宣言した。

「では、せめて、せめてマイラだけは、国内に置いてくださいませ。私の無二の親友です。側にいてもらいたいのです。」

エルネは、泣いて頼んだ。

「うーん。マイラには、陣頭に立って、指揮してもらいたかったがなぁ…。まあええわ。国内の事も目を光らせとかないかんからな。分かった。それは、約束するからよ。」

ルーサーは、エルネを抱きしめて言った。

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