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滝を斬る  作者: ninjin19
179/225

9-6

 「リュウは、まだ、ワラノニアへの参陣を渋っているのか?一体、何を考えているのか?あの子は!」

リュウの母親、ビユウは、再三のルーサーからの参陣命令を拒絶するリュウに苛立っていた。

リュウは、幼い頃に、風土病の影響で右目を失明し、常に眼帯を装着していた。

母であるビユウは、リュウの父で、自分の夫であるテルウの死後、そんなリュウには国主は、無理と判断して、一度は、弟のジロに家督を継がせようと画策したが、リュウの直属の家臣達によって、ジロ派の家臣は、一掃され、リュウは、15才で、アーズの国主になった。

リュウは、自身をカーツの生まれ変わりと名乗り、17才になるこの春までに、戦を繰り返して、東北南部を手中に治めていた。

そんな中での、ルーサーからの参陣の命令は、リュウにとって、迷惑な話であった。

自ら軍を率いてアーズを離れれば、東北の北部の国々から侵攻の恐れがあったからだ。

それらを牽制しながら出陣するのには、準備に時間がかかり、心情的にも、ルーサーの軍門に下るのは、面白くなかった。

「母上。兄上を邪険に言うのはお止めください。東北北部は、まだまだ不安定な状況です。ただ出陣という訳にはまいりません。」

弟のジロは、そう言って、リュウを庇った。

「それもだ。参陣命令に、すぐに従っていれば、国境の中立を宰相様に、お願いもできた。参陣命令を無視して、戦闘を続けたリュウに問題があったのだ。」

ビユウは、歯ぎしりを噛んだ。

「母上。とにかく、ここは、あまり騒いではなりません。これで、お家騒動となれば、それこそ、宰相様から罰を受けましょう。」

ジロは、ビユウをなだめた。

「それは、そうだが…。」

ビユウは、それ以上、何も言わなかった。


「リュウ様。サリバーのマイラ様より、今からでも遅くないから、一刻も早く参陣せよと、何度も書状が届いております。」

アーズニアの城で政務を取っていたリュウに、腹心であるコジューロが報告してきた。

「今更、どうにもならねえ。動けば、敵国が北から攻めて来やがるし、行けば、宰相に殺される。こうなったら、敵国の領地を奪うだけ奪って、ワランと組んで宰相に勝つしかねえ。」

リュウは、執務室の椅子にふんぞり返って座りながら言った。

「確かに…。八方塞がりですね。」

コジューロも、頭を抱えた。

「失礼致します。」

リュウの妻のメゴイラが、執務室にやって来た。

「メゴイラ。ここには、来るなと言ってるだろうが。」

リュウが、困り顔で言った。

「コジューロ。あなたが付いていながら、何をボヤボヤしているのです。一刻も早く、ワラノニアに参陣するのです。」

メゴイラは、コジューロを叱責した。

「は…。申し訳ございません。」

コジューロは、頭を下げた。

「俺が、ボヤボヤしているだと。」

リュウが、立ち上がって、メゴイラを睨んだ。

「その通りです。もはや、宰相様は、大帝陛下の名代。早々に出陣して参陣すべきです。仮に、その間に、敵が攻めてきても、攻めてきた方が、賊軍となりましょう。アーズニアは、東北でも南部。援軍が来るまで持ちこたえられましょう。」

メゴイラは、散々、リュウに説教した。

「うーん…。」

リュウは、言い返せず、口籠ってしまった。

「リュウ様。メゴイラ様の仰せも、ごもっとも。いかがなされますか?」

コジューロは、リュウの顔色を見た。

「しかしなぁ。」

リュウは、腕組しながら考え込んだ。

すると、ドアの向こうから、大きな笑い声が聞こえた。

「誰だ!笑い声をあげているのは!」

リュウは、剣を取ると、剣を抜いて鞘を投げ捨てた。

「リュウ様。おやめになった方がよろしいかと…。コジューロは、控えていなさい。」

メゴイラは、ため息をつきながら呟くと、コジューロの動きを制した。

コジューロは、後ろに控えた。

「うるせえ。入ってこい!叩き斬ってやる!」

リュウは、叫んだ。

すると、ドアを蹴りながら開けて、一人の女騎士が入ってきた。

「何だぁ?てめえ。どこの配下だ?」

リュウは、剣先を女騎士に向けた。

「東北の暴れ竜と聞いていたが、トカゲの間違いか?」

女騎士は、尋ね返した。

「貴様ぁ!」

リュウは、女騎士に斬り掛かった。

一瞬だった。

どう剣が走ったのか、全く、見えなかった。

リュウは、剣を床に叩き落とされてしまっていた。

そして、片膝をついて、痺れた手を抑えながら、悔しそうに唇を噛み締めた。

「何だ?剣の腕前も、口ほどではないな。」

女騎士は、微笑んだ。

「貴様…。何者だ?」

リュウは、女騎士を睨んだ。

「リュウ様。お控え下さい。サリバー国王。マイラ様ですよ。」

メゴイラが胸に手を当てながら、リュウの前に出た。

コジューロも慌てて胸に手を当てて、跪いた。

「マイラだと…。」

リュウは、呟いた。

「まあ、そんな事はどうでもいい。数は、少なくて構わない。数日中にでもワラノニアに出陣するのよ。後は、私が何とかする。とにかく急いで。」

マイラは、そうリュウに言った。

リュウは、しばらくの間、考え込んでいた。

メゴイラもコジューロも、じっとリュウを見つめていた。

「分かった。母上に、ご報告して、ワラノニアに出陣する。」

リュウは、そう声を絞り出した。

「マイラ様。ありがとうございます。心より、お礼を申し上げます。」

メゴイラは、そう礼を述べた。

「礼には及ばない。それから、一言だけ忠告しておくわ。心配するのは、敵国からの侵攻ではない。自分の国です。謀反の芽は、必ず、摘み取ってから出陣するのです。カーツ様の生まれ変わりを自負するのならば、そのくらい、厳しくならねばなりません。よいですね。」

マイラは、そう言うと、素早く身を翻すと、部屋を出ていった。

「コジューロ、お見送りを。」

メゴイラが命じると、コジューロは、慌てて、マイラを追って行った。


マイラは、シンディとサンディのみを引き連れて、アーズニアに来ていた。

メゴイラに内密に書状を送って、アーズニアに入ったのである。

「マイラ様、この度は、何とお礼を申し上げたら良いか。今回は、私もどうしたら良いか、答えを出しかねておりました。」

コジューロは、そうマイラに申し述べた。

「独眼竜の右目が、何を弱気な事を言っている。お前が、迷ったら、リュウ殿の視界は、半分、暗闇になってしまう。私の忍びの調べでは、謀反の動きがある。よくよく手配りして対処をせよ。」

マイラは、そう言うと、颯爽と駆けて帰って行った。

マイラは、グレイに、アーズの内情を調べさせ、その上で、メゴイラを通じて、話をするのが良いと考えたのである。


「マイラ様。リュウ様は、出陣してくるでしょうか?」

シンディが、尋ねた。

「リュウ殿も、分かってはいるのよ。でもね。認めたくないのよ。負けたって事を。だから、分からせてあげたのよ。これで、素直に参陣すると思うわ。」

マイラは、微笑んだ。


そして、リュウは、出陣の報告をする為に、ビユウの部屋を訪れていた。

「母上、遅ればせながら、ワラノニアに参陣致します。留守の事は、ジロに任せます。」

リュウは、ビユウに言った。

「そうか。ついに決断したか。今宵は、ここで、夕食を取っていきなさい。せめてもの、私からの花向けよ。出陣前に、親子水入らずでお話ししましょう。」

ビユウは、優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えます。」

リュウは、笑顔で答えた。

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