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滝を斬る  作者: ninjin19
159/225

8-3

 雨の日が、続いていた。

「頭ぁ。上流の堤防。準備できたそうですぜ。」

ウェーダの城のユウキに、伝令が、堤防の完成を知らせてきた。

「そうか。合図のノロシを上げるまで、待機するように伝えてくれ。相手に気取られるなともな。」

ユウキは、伝令に命令を伝えた。

「分かりやした。」

伝令は、取って返して、上流に向かった。

「兄貴、雨も降り出した。サリバーの本軍が合流する頃には、いい具合に水も溜まってるだろうぜ。」

ユウキは、ほくそ笑んだ。

「いいだろう。出陣したら、領民を城内に避難させろ。その後、頃合いを見て、城下に火を放て。」

ノブーユが、ユウキに言った。

「分かった。」

ユウキは、そう答えた。

その夜、上流のテントで、雑魚寝していたウィルは、皆が、寝静まった後で、テントを抜け出した。

「あいつら、マイラ達を、深入りさせて、堰きを切る気だな。行き倒れの俺を雇ってくれた恩はあるが、マイラを死なす訳にはいかない。」

ウィルは、見張りの目を掻い潜って、山を降りる事にした。

「松明を使えば、見張りに見つかっちまう。雨も降ってるし、これは、命懸けだな。」

ウィルは、暗闇の中を、川の流れる音を頼りに、下流へと進んで行った。


「よく降るな。」

マイラの本軍も、夜になる前に、リックの軍勢に合流して、陣を張っていた。

「マイラ様、お待ちしておりました。」

リックが、マイラの本陣へ挨拶にやって来た。

「どお?状況は?」

マイラは、尋ねた。

「相変わらず、ちょこちょこと姿を現し、攻撃しては、逃げるを、繰り返しております。」

リックは、そう苛ついた様子で報告した。

「むやみに力押ししては駄目よ。」

マイラは、リックに、念押しした。

「はい。」

リックは、くやしそうな顔で答えた。

「それで、話し合いには応じそうにないの?」

マイラは、改めて尋ねた。

「はい。独立を宣言しています。」

リックは、表情を曇らせた。

「これは、長引きそうね。」

マイラは、ため息を付いた。


明け方、ウェーダの城では、出陣の準備が完了していた。

「ユウキ、領民達は、段取りを分かっているな。」

ノブーユは、尋ねた。

「ああ。家財は諦めて、出陣の鐘がなったら、城に逃げ込むように、密命が回っている。密かに城下へ進軍したら、鐘を鳴らす。サリバーの連中は、この事には気づいていないはずだ。」

ユウキは、言った。

「よし。静かに城を出る。ユウキ、城で、采配を取れ。城下で火が上がったら、作戦開始だ。」

ノブーユは、そう言った。

「分かった。任せてくれ。」

ユウキは、頷いた。

ノブーユは、1000の軍勢を率いて、明け方の城下に、静かに進軍した。

「よし。鐘を鳴らせ。」

ノブーユは、城下に着いてから、出陣の鐘を鳴らした。

領民達が、待ってましたとばかりに、城下へ走り出した。

「よし、時間を稼ぐぞ。深入りしたと見せかけて、火をかけながら逃げる。いいな!」

ノブーユは、リックの陣目掛けて、進軍した。


「夜討ちです。今回は、本命のようです。」

見張りの兵が、仮眠していたリックに報告してきた。

「何!」

リックは、飛び起きた。

「住民が家を捨てて、着の身着のまま逃げております。敵は、およそ1000。」

兵は、そう、報告した。

「よし、撃って出る。マイラ様の陣へ、敵を近づけるな!」

リックは、直ちに出陣してノブーユの軍を迎え撃った。

ノブーユの軍勢は、強引にリックの軍勢を突破して、マイラの本陣を狙う振りをした。

「こいつら、本命だ!マイラ様の陣を守れ!突破されるな!」

リックは、全軍を鼓舞した。


「マイラ様、敵が夜討ちをかけてきました。今回は、本命のようです。」

マーニルが報告してきた。

「分かった。戦闘準備を!むやみに動くな。シンディ!前に出ては駄目よ!突破して来たら、退きながら削って!マーニル!リックにも、深入りするなと伝えて!」

マイラは、甲冑を付けながら、二人に指示した。

「何か仕掛けてくる。リック、挑発に乗っては駄目よ。」

マイラは呟いた。


「戦闘が始まっちまった!急がねえと!」

ウィルは、ようやく下流に下りてきた。

「!」

いきなり、木の陰から、何者かが、斬ってきた。

ウィルは、剣を抜いて、その剣先を弾いた。

「お前…。もしかして、イーゼの港で、マイラ様と一緒にいた奴か?」

ウィルは、いきなりそう言われて、身構えた。

「あんた、サリバーの忍びか?」

ウィルは、剣を構えながら尋ねた。

「お前、ウェーダに士官したのか?こんな所で、何をしている?」

グレイは、何か、ウェーダが企んでいるのではないかと、戦列を抜けて、周囲を探っていた所だった。

「俺を知っているのなら、話は早い!連中は、上流で、堤防を作っている。サリバー軍を深入りさせて、水攻めにする気だ。こんな所で、やり合ってる場合じゃねえ!」

ウィルは、グレイに怒鳴った。

「何だと?本当か?ウェーダに士官したお前が、サリバーの味方をする根拠は?」

グレイは、戦う姿勢を崩さずに尋ねた。

「俺は、イーゼから逃げて、北国の戦を避けて、カイノへ入った。だが、行き倒れて、ウェーダで拾われた。その恩は、確かにある。だが、マイラを、死なせたくないんだ。信じてくれ、時間がないんだよ!今から、あんたが上流まで見に行く時間はねえ!」

ウィルは、叫んだ。

「お前!マイラ様に惚れてるな。その時点で斬ってくれる!」

グレイも、叫び返した。

「そんな事は、余計なお世話だぜ!とにかく!時間が無い。俺を斬って、あんたが知らせもいい。どうせ、ウェーダでも、一兵卒だ。もうマイラに会うことも無いのは分かってる!」

ウィルは、グレイに頼んだ。

「そうか…。分かった!一緒に来い。」

グレイは、剣を納めた。

「信じてくれるのか?」

ウィルも剣を納めた。

「うるさい!行くぞ!」

「おお!」

二人は、マイラの本陣へと向かった。


「さすがに、ウェーダの連中も必死だな。深入りしてきたぞ。殲滅しろ!」

リックは、無理に突破しようする振りをして、深入りしてきたノブーユの軍に対して、一気に殲滅しようと攻勢を強めた。

「かかったな…。よし!もういいだろう。火をかけながら、散り散りに撤退しろ!」

ノブーユは、合図をして、城の方へ取って返した。

ノブーユの軍勢は、散り散りに敗走する振りをして、城下に火を放ちながら、城の方へ駆けて行った。

「敵は、敗走を始めた!追撃しろ!」

リックの軍は、逃げるノブーユの軍勢を追った。

「ノブーユ様、かかりましたぜ!」

「油断するな!必死に逃げろ!城までおびき寄せるんだ!奴らを叩いて、マイラの本軍を前に出せ!」

ノブーユ達は、城へと駆けて行った。


「マイラ様。敵は、敗走を始めましたな。」

マーニルが、話しかけた。

「リックは、追撃したか…。深入りすると危ないな。」

マイラは、呟いた。

「私も出ましょうか?」

シンディが、マイラに尋ねた。

「いや、もう少し待て。だが、リックが城まで攻めに行ってしまったら、助けなければならないが…。」

マイラは、表情を曇らせた。


「兄貴ぃ…。うまいぜ!奴らに気取られるな!気配を消せ!」

城内では、伏兵を指揮するユウキが、兵達を待機させていた。

「おまえら…。マイラをおびき出す餌になってもらうぜ…。」

ユウキは、ほくそ笑んだ。

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