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滝を斬る  作者: ninjin19
134/225

6-36

 「とにかく、まず、私の部屋に。」

マイラは、ターニャに、そう囁いた。

ターニャは、頷いて、マイラを連れて、部屋に入った。

部屋に入ると、ターニャは、急に泣き出して、マイラに抱きついた。

「全く…。心臓が止まるかと思ったじゃないですか!でも、本当に、よくぞ、ご無事で。どれだけ心配した事か…。」

ターニャは、号泣した。

「心配をかけたな。」

マイラは、よしよしと、ターニャを宥めた。

そして、ようやくターニャが落ち着くと、微笑んだ。

「まずは、風呂に入りたい。それから、内密に、私の甲冑を。」

マイラは、ターニャに頼んだ。

「畏まりました。すぐに、お風呂の用意を致しましょう。お食事も用意いたします。」

ターニャは、いつマイラが帰ってきてもいいように、常に、風呂を清潔に保っていた。

「食事は、不要だ。すまない。一人にしてほしい。」

マイラが、言うと、ターニャは、頷いて、着替えと甲冑を用意しにいった。

マイラは、服に入ると、勢いよく、湯船に浸かった。

「兄上様、せっかちが過ぎます。」

マイラは、ゾーラからここまで、初めて、涙を流した。

そして、湯船に潜って、ブクブクと息を吐き尽くすと、ザバーっと顔を上げた。

「プハー!」

マイラは、大きく息を吸っては吐いた。

「ミカエル殿、堪忍が、足りませんでしたね…。残念です…。」

マイラは、ゆっくりと湯船を出ると、着替えの間に移った。

「マイラ様、お召し替えを、」

ターニャ始め、担当の侍女達が、マイラの体を丁寧に拭き、甲冑を身に纏うまで、丁寧に、仕上げていった。

そして、短くなってしまった髪に、皆が、涙を流しながら、整えた。

「マイラ様、如何でしょうか?」

ターニャは、尋ねた。

「うん。」

マイラは、頷くと、剣を装着し、兜を抱えた。

「馬を用意しろ。」

マイラは、そう言うと、部屋を出て、密かに勝手口から馬小屋に回った。

そして、馬に跨ると、ゆっくりと、城の正面広場まで進んでいった。

そして、城の方を向くと、剣を抜いた。

「皆の者!マイラ ウィロード ビューラーである。これより、謀反人ミカエルを討伐する。私に従う者は、直ちに出陣せよ!」

マイラは、声高らかに叫んだ。

「何?マイラ様だと?」

ハンとマーニルは、今後の事を協議していたが、その声に、立ち上がった。

「リック…。お前、何か隠していないか?」

ハンは、ちょうど、マイラを追うようにサリバニアを出発して、報告に来ていたリックを睨んだ。

「申し訳ありません。先程に報したイーゼからの船に、マイラ様は乗っておられました。とりあえず、行方不明にしておけと申されて。」

リックは、ひれ伏して侘びた。

「全く、あのお方は…。」

ハンとマーニルは、ホッとため息をついた。

「出陣の合図を全軍に出せ!俺達も急ぐぞ。」

3人は、とりあえず甲冑を着て、慌てて、外に出た。

「ご無事のご帰還、何よりにございます。出陣の準備は、整っております。カーツ様のご遺言により、国境の守りも固めております。」

ハンは、マイラの顔を見た途端、涙が溢れて止まらなくなった。

「ハン、鬼の目にも涙とは、この事だな。」

マイラは、笑った。

「恐れ入ります。」

ハンは、涙を拭った。

「ハン、留守は、頼んだ。一気にサリバーまで進軍する!続け!」

マイラは、一人で、城門から外へ駆けていった。

「全く、あのお方は!」

マーニルとリックも、慌てて馬に跨ってマイラを追った。

「各隊、準備でき次第に、マイラ様を追え!急げ!」

ハンは、各隊に指示した。

次々と、騎馬隊、近衛騎士団達が、マイラを追って出撃していった。


サリバーに入った頃には、マーニルとリックの隊と、女近衛騎士団が追いつき、港近くに陣を張った。

知らせを聞いたフレッド、ジーマ、ダンも駆けつけた。

「ご無事で何よりです。」

「リック、病院へ行く。供をせよ。私が戻るまで、兵達を休ませろ。戻ったら、一気にテルプル領内を抜けて、キヨナへ攻め上る。」

マイラは、リックと共に、病院に向かった。

皆に出迎えられたが、マイラは、そのままでよいと言って、ランの病室に向かった。

「イーゼ漁師のジンとやら、サリバー女王、マイラ様である。」

リックがドアを開けるとマイラは、中へ入った。

「あんたが…。女王って?ええ!?」

ジンは、腰を抜かした。

「女王様…。」

ランが慌てて起きようとするので、そのままでよい、マイラは、そう微笑んだ。

「ジン、お前のおかげで助かった。どうだろう?私の国の船団で働かないか?漁師をしたいと言うなら、サリバーにも、いい漁場があるが、どうだろう?」

マイラは、尋ねた。

「助けただなんて、滅相もない。こっちこそ妹を助けてもらって。喜んで、サリバーの船団で働きます!」

ジンは、ひれ伏して答えた。

「ラン、港の近くに住まいを用意する。もちろん、船員の分もな。元気になったら、皆で暮らすといい。」

マイラは、ランに声をかけた。

「はい。ありがとうございます。」

ランは、涙を流しながら答えた。


マイラが、陣に戻ると、ジーマが、血相を変えてやって来た。

「マイラ様、ルーサー軍の使者が、陣に来ております。マイラ様、直に目通りを願っておりますが…。」

ジーマは、マイラに尋ねた。

「分かった。会おう。」

マイラは、陣の上座に座って、使者を招いた。

「私は、ルーサー パンの家臣、ミルリでございます。」

ミルリは、跪いて、胸に手を当てた。

「ご苦労です。さ、お座りなさい。」

マイラは、椅子を用意させた。

「恐れ入ります。では、主よりの口上を代読させていただきます。」

ミルリは、そう言って、書状を広げた。

「サリバー女王、マイラ殿。この度の事変において、貴殿の無事を信じて、この書状を送る。我が精鋭なるルーサー軍は、ビハイパインで、事変を知り、謀反人、ミカエルを討伐するべく、モーリーと和睦の後、4日でプリマーロまで、大返しを敢行した。一晩の休息の後、一気にゾーラまで進軍し、ロナウド軍と合流、キヨナ国境付近で、ミカエル軍と対峙し、数時間で、これを殲滅した。ミカエル軍は、退却したが、スロープックの城は、自ら火を放ち、全員が自決、ミカエルは、逃走の途中、落ち武者狩りで討たれた。残念ながら、ウェルビーンの城は、ミカエル軍退却の際に放火され、焼け落ちたが、カーツ様、ジェニファー様の仇は、忠実なる家臣のルーサーが取ったが故に、貴殿は、安心して自国の守りを固められよ。 以上でございます。」

ミルリは、書状を恭しく、マイラに差し出したので、マーニルが、代わりに受け取って、マイラに差し出した。

「なるほど。戦勝について、心からお祝いを申し上げる。兄上様も、さぞ、お喜びでしょう。そうお伝えあれ。」

マイラは、そう微笑みかけた。

ミルリは、マイラに、ジッと見つめられて、顔を赤らめると、失礼いたします、そう言って、去っていった。

「何という無礼な書状だ。こちらを見下した口上ではないか。今からでも斬って、首を、ルーサーに送りつけてくれる。」

ダンは、立ち上がって怒りを顕わにした。

「ダン、落ち着け。マイラ様、いかがしましょう?」

ジーマは、マイラに下知を求めた。

「やられたな。10日以上かかるはずの工程を、わずか4日とはな。リー キウ殿にいただいた国一つ分の価値のティーカップを祝いに送っておいて。さあ、帰ろう。」

マイラは、陣払いを指示した。

「お待ちください。ここは、キヨナへ参りましょう。何もしないでは、今後に、関わります。それに、そのような貴重な品をくれてやるなど…。」

ジーマは、反論した。

「私は、毎日、あのカップで、お茶を飲んでいた。あんなものは、ただのカップだ。よく洗っておけ。」

マイラが、笑うと、皆は、呆れた。

「それにだ。今、行ったら、どうなる?ウィロード家の家臣同士の争いに巻き込まれる。ハスウィンにロナウド。マリアンヌ様も巻き込んで、勢力争いが、必ず起こる。それよりも、西で争いをしているうちに、カイノの空白の領地を獲得して、力を付けた方がいい。さあ、帰るぞ。」

マイラは、皆を見渡した。

「畏まりました。」

皆が、揃って返事をした。

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