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滝を斬る  作者: ninjin19
122/225

6-24

 話しは、少し遡る。

ミカエルは、明け方に、スロープックの城に到着した。

あれほど酷く降っていた雨は、止んで、太陽の陽射しが、雲の切れ間から射し込んでいた。

「おかえりなさいませ。突然の帰城、いかがなされましたか?」

留守居役を務めていた、ミーツ サイドンが、ミカエルを出迎えた。

「まずは、風呂だ。こんなずぶ濡れでは、話しもできん。」

ミカエルは、そう言って、一旦、風呂に入り、休む間も無く、執務室にやって来て、重臣達を集めた。

ミカエルは、妻を病気で亡くして、その後、娘を嫁がせていたが、着替えや身支度する等、身の回りの事については、侍女は、近づけず、自分で身なりを整える生活をしていた。

「実はな…。マイラ様の接待役を解任され、ワイランドへ出陣する事になった。」

ミカエルは、そう切り出した。

「何と…。ワイランドは、それほど切迫した戦況なのですか?」

ミーツが尋ねた。

「そうではないだろう。ルーサーが、カーツ様の顔色を覗って、援軍を頼んだのだ。それで、まず、私が、ルーサー軍の指揮下に入り、盤石にして、カーツ様がワイランドに入られる。そういう筋書きだろう。」

ミカエルは、悔しそうに話した。

「そのような事で、ルーサー軍の指揮下に入れとは、カーツ様は、どこまでミカエル様を侮辱されるのか!」

ミーツは、テーブルを拳で叩いた。

「そのような事なら、我慢もしよう。しかし、スロープックは、召し上げられ、ワイランドの北部を切り取り次第の国替えとは、あまりに厳しい…。」

ミカエルは、唇を噛み締めた。

「何ですと…。スロープックを召し上げて、敵の領地を切り取り次第とは、何という冷たいご沙汰。」

家臣達は、怒りに震えていた。

「しかし、今、この乱世を治められるのは、カーツ様しかおられぬのは確かだ。ここは、カーツ様の命に従い、ワイランドへ出陣する。切り取れば、切り取るだけ、我が領地ぞ。皆、力を貸してくれ。」

ミカエルは、悔しさを、押し殺して、家臣達に命じた。

ミーツ始め、家臣達は、涙を堪えながら、ミカエルに従った。

「ミーツよ。すまんが、しばらく横になる。出陣の準備を頼む。」

ミカエルは、ミーツに、声をかけた。

「畏まりました。準備が整いましたら、お声をかけさせていただきます。」

ミーツは、席を外した。

ミカエルは、皆が、いなくなると、ソファに、ドサッと倒れ込んで、ボロ雑巾のように眠った。


カーツは、陸路でキヨナに入り、軍勢を、宮廷の守りに付かせて、精鋭100人ほどで、自分の宮殿に入った。

そして、休む間もなく、挨拶に来る宮廷貴族達と面会した。

さらに、ランチ、お茶会、会談、夕食会と、分刻みのスケジュールをこなしていた。

その日は、あっという間に夜になり、その日の予定を終えたたカーツは、同伴したジェニファーと、ようやく夫婦水入らずの時間を過ごしていた。

「一体、暇な宮廷貴族どもは、何人いるんだ。もう深夜になろうとしているじゃないか。」

カーツは、ぼやいた。

「仕方ありませんわ。皆、カーツ様を、恐れていらっしゃるのですから。機嫌の一つも取ろうとお思いなのでしょう。」

ジェニファーは、カーツにお茶を入れた。

「まあ、確かにな。これからの世の中に、奴らは、いらんからな。焦りもするだろう。」

カーツは、吐き捨てるように言った。

「また、そのような事を…。そのような露骨な態度では、敵を作るばかりですよ。」

ジェニファーは、ため息を付いた。

「ああ?分かった、分かった。そんな事よりも…。ジェニファー、プライベートの時間で、一緒に茶を飲むのも、久しぶりだな。」

カーツは、ジェニファーの肩を抱いて言った。

「そうですわね。いつも、あなたは、私の事は、そっちのけですからね。」

ジェニファーは、カーツの頬をつねって微笑んだ。

「痛てて。お前は、嫁いで来た時から、何も変わらんな。これからも、ずっと、そのままでいてくれよ。」

カーツは、ジェニファーの耳元で囁いた。

「どうしたのです?そんな弱気な事を言うあなたは好きではありませんわ。」

ジェニファーは、少し、拗ねた顔をした。

「ふん…。相変わらず、口だけは、達者だな。まあいい。ジェニファー、天下が、完全に治まったら、俺は、マイラに全て任せるつもりだ。もちろん、いい婿も探す。そうすれば、あの、じゃじゃ馬も、少しは、落ち着くだろう。それを見届けたら、お前と海に出たい。この小さな島国の周りには、大きな大陸があると言うではないか。それを見て回ろう。」

カーツは、目を輝かせて言った。

「まあ!そんな事を、考えてらしたの?マイラに貧乏くじを引かせて、自分は物見遊山だなんて、愉快ですわ。ぜひ、お供いたします。」

ジェニファーは、声を上げて笑った。

「そうか!楽しみだな。マイラには、文句を言われそうだがな。」

カーツは、大声で笑った。


どこからともなく、声が聞こえていた。

「ミカエルよ。伝統と格式ある帝国政府を取り戻すのだ。私が、頼みにするは、ミカエル、お前一人ぞ。カーツは、人の顔をした魔王に相違ない。ミカエル、カーツ討伐を命ずる。」

天に浮かぶ大帝の姿をが、雲に吸い込まれるように消えていった。

「大帝…。」

ミカエルは、ハッと目を覚まして飛び起きた。

「夢か…。」

すでに夜は更けていた。

ミカエルは、変な汗をかいていた。

「もう夜更けか…。すっかり眠ってしまったな…。何という夢を見るのか…。それとも…、天のお告げとでも言うのか?」

暗闇の中で、ミカエルは、スッと立ち上がった。

「ミーツ!ミーツはいるか?」

ミカエルは、大声で、ミーツを呼んだ。

しばらくすると、ミーツが小走りでやって来た。

「お呼びでしょうか?ミカエル様。いかがなされました?こんな暗闇で、灯りも点けずに…。」

ミーツは、部屋の灯りを点けた。

「すまん…。少し寝すぎたようだ。ところで、出陣の準備は、できているか?」

ミカエルは、尋ねた。

「は!いつでも出陣できます。」

ミーツは、そう答えた。

「よし!ワイランドへ向けて出陣する。」

ミカエルは、心の中に、迷いを持ちながら甲冑に身を包み、ミーツと共に、20000の兵を率いて出陣した。

そして、キヨナとワイランドへ繋がる分岐点に差し掛かると、ミカエルは、一旦、進軍を止めた。

どのぐらい止まっていたのか?

しばらく馬上で考え込んでいたミカエルは、思い立ったように宣言した。

「我軍は、キヨナへ向かう!よいか!我々は、カーツを討つ!」

ミカエルは、ミーツ始め、諸将に告げた。

「今、今、何と?」

ミカエルは、思わず聞き返した。

「もはや、カーツは、信じるに足らず!我軍は、キヨナへ向かい、カーツを討ち、大帝をお支えし、宮廷を中心とした伝統と格式ある帝国政府を再興する。」

ミカエルは、そう演説した。

「は!畏まりました!」

ミーツは、声を震わせながら、全軍に伝令した。

それを、見届けると、ミカエルは、剣を抜いた。

「敵は!キヨナにあり!全軍!我に続け!」

ミカエルの号令に、地響きのような歓声が湧き上がった。

そして、ミカエル軍は、闇に紛れて、キヨナへと進軍を開始した。


明け方近く、まだ、陽は昇っていなかった。

カーツとジェニファーは、キヨナの宮殿で、まだ寝室で眠っていた。

「ん?」

カーツは、何か、外の異変を感じて、目を覚ました。

カーツが、体を起こしたのに気づいて、ジェニファーも目を覚ました。

「どうかなさいましたか?」

ジェニファーも、体を起こした。

「外が騒がしい。」

カーツは、呟いた。

すると、部屋の外から、ドアを大きくノックをする音が聞こえた。

「お休み中に、失礼いたします。」

ドアの外から声がした。

「構わん!入れ!」

カーツが、大声で怒鳴った。

「一大事にございます。カーツ様!宮殿が、何者かの軍勢に囲まれております。」

近衛騎士の小姓、ラル フォレストが、ドアを勢いよく開けると、跪いて、急を告げた。

「何!どこの軍勢だ!」

カーツは、立ち上がった。

「旗印は、桔梗の紋章。ミカエル様、謀反にございます!」

ラルは、的確に報告した。

「ミカエルが謀反だと…。」

カーツは、一瞬、言葉を失った。

「カーツ様…。」

ジェニファーが、カーツを見つめた。

すると、カーツは、大声で笑った。

「ミカエルめ、まんまと、やりおったわ。この期に及んでは、是非に及ばず。ジェニファー、お前は、女達を連れて、裏から脱出しろ。ミカエルは、女子供を手にかける奴ではない。急げ!」

カーツは、ジェニファーに命じた。

「でも、カーツ様は、いかがなされるのです。」

ジェニファーは、カーツの視線から目を逸らさずに言った。

「今は、女達を逃がすのが先だ!急げ!」

カーツは、ジェニファーに、強い口調で命じた。

「はい…。」

ジェニファーは、寝間着のまま、部屋の外へ走っていった。

「ラル、兵達を一階のテラスに集めろ。バリケードを築き、敵を一歩も近づけるな!」

カーツは、ラルに命じた。

「は!」

ラルは、部屋を出て、伝令に走った。

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