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こんな私でも力になれるかもしれません


 私の言葉を聞いた後、数秒ほど沈黙が落ちる。それからまず、マティアスがグッと言葉を飲み込んでからヤケになったように叫んだ。


「ほんっとに嫌になるわ! やるけど!!」

「ヒヒヒッ、人使いが荒いねぇ。前の聖女よりはマシだけど」


 えーっと。一体、どれだけのことをしたんだろう、マリエちゃん……。でも、文句を言いながらもどことなく楽しそうにも見える。

 私も無茶をお願いした気はしたけど、この調子なら意外と大丈夫、かな?


「ギディオンとジーノはダメ聖女の護衛を。ジュニアスはアタシと来なさい。久しぶりに暴れようじゃない」

「! うん……!」


 ニヤッと悪そうな笑みを浮かべながら指示を出すマティアスに、ジュニアスの顔がパァッと明るくなる。す、すごく嬉しそう。「うん」だって。可愛い一面を見た……!


 そんなやり取りを、ジュニアスからジーノの腕に受け渡されながら見る私。ずっと抱えられっぱなしだな……。その方が、いざという時に逃げやすいから大人しく受け入れますが。


「ジーノ、よろしくお願いします……あ、私はエマです」


 縦抱きにされ、目の前でジーノの鋭い眼光を直視する。こんな状態で最初の挨拶だなんて締まらないけど、挨拶をしないのもどうかと思うし。

 ジーノはそんな私の挨拶に小さく頷くと、そのまま視線をマティアスとジュニアスに向けた。寡黙な人なんだなぁ。


 よし、気持ちを切り替えよう。私が頼んだんだもの。あの二人の無事を祈るくらいはしっかりやらせてもらいたい。


 二人が向かった先はまさしく戦場だった。本物の戦場を見るのは初めてだから、すごく怖い。怖いけど、離れた場所から見ているからか現実味がないような錯覚もある。

 でも、そんなんじゃダメだよね。しっかりしなきゃ。これは現実なのだから。


 禍獣との戦いで精一杯の国王軍は、私たちに気付いていないみたいだった。けど、そこへマティアスの放つ水龍が戦場を駆け抜ける。

 す、すごい……! 消防車の放水が十本くらい束になったような勢いだ。しかもグネグネと生き物のように動いている。


 さすがにそれによってようやく幻獣人の介入に気付いた国王軍は、どことなく困惑気味なのが見て取れる。

 ま、まぁ、本来なら敵という立場だものね。自分たちの目的が目の前にいるんだもの。どう行動すべきか迷うのも仕方ないかも。まずは命を大事にして! って思うものだけど、当事者じゃないからその心情はわからない。


 そんな混乱の中、ジュニアスもまたものすごい大立ち回りを披露してくれていた。

 思いっきり足を踏み鳴らすことで、禍獣の集まる地面がビキビキと大きな音を立てて崩れていく。その振動が離れた位置にいる私たちのところにまで響いてビックリした。


 もし、私が自分の足で立っていたら、転んでいたよ、絶対。だって、震度六か七くらいある地震だよこれぇ……!

 もちろん、ギディオンやジーノは気にもしていない様子ですが。ですよね!


「す、すごい。本当にあれだけの禍獣を倒せちゃうかも……」


 思わず私がそう呟くと、頭上からものすごい早口の低音ボイスが降ってきた。


「それはない。なぜなら聖女が国王軍を助けたいと願ったからだ。国王軍を傷付けずにあれだけの禍獣を倒すことは難しく、優勢に見えるかもしれないがその実、かなりの劣勢だ。幻獣姿になれば一掃も出来るがそうなると国王軍を派手に巻き込むこととなり、任務の遂行は困難。とはいえ人型のままではやはり国王軍側の被害は抑えられない。禍獣の群れを足止めしつつ前線の群れを少しずつ削る手段しか取れない分、効率も非常に悪い。一撃で仕留められないためすり抜けて国王軍を攻撃する禍獣も増えていく。結論としてあまり長引くと彼ら二人の身も危険となるだろう」


 ……! す、すっごく喋った!

 って、そうじゃない。そ、そっか。そんなに危険な状態だったんだ。私ったら本当になんにもわかっていないんだな。今更だけど後悔が酷い……。


 そういえば前にもカノアが言っていたっけ。幻獣の姿になると力がコントロールしきれないって。人型の状態で幻獣の力を百パーセント出せたらいいのにって。


 人型は力を上手くコントロール出来る分、本来の力を発揮することが出来ない。人の姿になることで自然とその力が封印されるような仕様なんだったっけ。

 カノアの場合、その力が強大すぎるから他の幻獣人よりも多くの力が封印されている、とか。


 ……ちょっと待って。封印?

 もしかして、人型の彼らは自然と力を封印されている状態ってことなのかな。それなら、その姿の状態で封印を解いたら?


 暴走、するだろうか。でも、人型を保てるのならコントロールだって出来るんじゃ?

 い、いや、魔法のことさえ何もわからないんだから、勝手な推測は危険だよね。


 でもこのままだとみんなが危険な目に遭う。試す価値はあるんじゃないだろうか。


 私はすぐにジーノとギディオンに問いかけた。


「あ、あの。マリエちゃんは禍獣を封印することが出来たんですよね? その、具体的にはどのようにしていたんですか?」


 そもそも、出来るかどうかもわからない。まずはやり方を確認しないと。この質問にはジーノがまたしても早口で答えてくれた。


「封印したい対象に少し近付き、紋章の入った右手のひらを対象者に向けて『封印せよ』と言っていた。解除は任意で可能だったようだが、一度に二、三体しか出来ず、群れで来た時は逃げの一手だったな」


 ……うん。たぶん、出来る気がする。根拠なんてないけれど、不思議と出来るという確信はあった。


「あの、マティアスとジュニアスにギリギリまで近付くことは出来ますか?」

「ヒヒ、何か策でも思いついた?」

「はい。その、無事で済むかもわからないんですけど」

「おやおやぁ、エマサンにしては珍しく過激なことで」


 私は、さっき考え付いたことを二人にも簡単に説明した。だって、試してもらうのは幻獣人たちだものね。本人たちの意見をぜひ聞かせてもらいたい。


 ちょ、ギディオンはなんでそんなにニヤニヤしているの!


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