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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
聖女(仮)として出来ることをやってみます!

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弱い人間なのはそれはそれとして


 私がジュニアスに抱えられたことで三人はまたしてもとんでもないスピードで走り出した。肩に担がれていた時と違ってだいぶ楽だけど速すぎるので舌を噛まないように必死です。

 ジュニアスの首が締まるんじゃないかなってくらいの勢いでしがみついているけど、私程度の力ではビクともしないのはわかっているので驚きませんよ!


 それにしても速い。これは当分、国王軍とは遭遇しないのでは? という気がしてくる。つくづく幻獣人ってすごいんだな。私のような非力な人間など指先だけでやられちゃうよ……。


 ちなみに、道中はマティアスが事情をジュニアスに説明をしてくれていた。

 こんなスピードで走りながら淀みなく、息も切らさずに話せるなんてやっぱりすごいよね。どうなってるの。いや、考え出したらキリがないからやめておこう。


 そうして走り続けること十分ほど。意外と早くに次の目的地についたみたい。

 というか、かなりの距離を移動した気はするんだけどね。速度が、ほら、ね。


「洞窟……?」


 さて、次の幻獣人が封印されているのはどうやらこの洞窟の中みたいだった。

 常に毒の霧が舞っているコクだけど、この洞窟の奥はさらに霧が濃くなっている気がします……。たぶん、気のせいじゃないよね。


「こういう場所には毒もそうだけど禍獣が好む負のオーラなんかが溜まりやすいのよ。アタシは絶対にこんな場所に封印されたくはないけれど、他の連中も迂闊に近付けないことを思えば悪くない場所ね。アタシは嫌だけれど」


 二回言った……!

 うん、でも気持ちはわかる。そんな中でこの場所への封印を了承したジーノはとてもいい人か、あるいはそんなことを気にしない人か。幻獣人だから後者かな……?


「じゃ、頼んだわよ」

「え?」


 ビクビクしながら洞窟内部を覗き込んでいたら、マティアスが洞窟の入り口の壁に寄りかかってそんなことを言い出した。え、あれ? 中には行かないの?


「追手が来た時に対処する人がいなきゃダメじゃない。この中は毒が多いからギディオンは絶対でしょ? あと、内部に禍獣がいた時のためにジュニアスよ」

「ハイハイ、相変わらず人使い荒いよね」

「承知」


 そ、そっか。すごいなぁ、そんなことを瞬時に考えられるなんて。本来なら私が指示を出すべきところなんだよね。永遠に出来そうにない。

 一人だけマティアスが外で待機なのは一人でも敵を追い払えるくらい強いから、だよね? 中に入りたくないからってわけじゃないよね? 一石二鳥、的なことかもしれないけど。深く考えたら負けですっ!


「ねぇ、エマサン。君ってどの程度の弱さなの? もう少し防毒を強くしておくべき? このままでも大丈夫なの? すでにかけすぎってくらいかけてるけどさぁ」

「そうは言われましてもですね……。今がどんな状態で自分がどれほど耐えられるかなんてわからないです」

「はぁ、本当に解放以外なーんにも出来ないね? ま、壊れやすい鍵を携帯していると思えばいいかもだけど? 人型な分、場所を取るし食事代もかかるしプラマイで言ったらマイナスだよねぇ」


 いや、本当にその通りですよ。何度でも言いますけど、何も私のようなダメダメなヤツに重要な役目を託さなくてもいいじゃないですか、この世界。

 ギディオンの言う通り、ただの鍵にでもしておけばよかったのに。


「重ねがけしておきなさい、ギディオン。アタシたちの常識の十倍は過保護にしないと。失敗したら取り返しはつかないんだから。死なれたらその時点でこの世界もアタシたちも詰みよ」

「ヒヒヒ、わかりましたよーっと」

「それからジュニアス。洞窟内でエマを離しちゃダメ。力加減も間違えないで。それが守れなかったらエマは死ぬと思いなさい」

「…………承知」


 なんか、コクでの旅はひたすらダメの烙印を押されている気がする。この場所、というかこのメンバーだからかもしれないけれど。

 もともと私の自己評価なんてこれ以上は下がらないくらい低かったけど、そろそろ浮上も出来なくなりますよ? ……ちょっとだけシルヴィオが恋しい。


 何はともあれ、マティアスのおかげで洞窟内に向かうメンバーは決まった。かなり引き離したとはいえ追手がいつ来るかわからないし、早めにジーノを解放しないとね。


 ……ただ、本当に内部は暗い。怖い。ジュニアスに縦抱きにされるのは恥ずかしいけれど、今だけは助かりますっ!

 なぜなら、私だったらしばらく立ち往生していただろうけど、抱っこ移動のため有無を言わさずズンズン中に入って行くからですね! ひぃぃ……!


「ま、真っ暗で何も見えないですね……」

「え」

「……この明るさで見えないなんて人間っていうのは不便な生き物だねぇ。ヒヒッ、よく生きていられるよ」


 まるでこの程度は暗いうちに入らないとでも言いたげな様子じゃないですか。ジュニアスも驚いたような声を出すし。


 なんだか貶すのを通り越して呆れられていませんか……? それに、私も言われ慣れてきた気がします。

 実際、彼らは人間や獣人より遥かに強い存在なんだもの。彼らにとって特に弱い私が珍しいのは仕方ないこと。そう思えば気にもならないかも。


「私のような人間にとって、この世界は本当に危険ですよ。冗談ではなく生き辛いと感じます」


 私が特に引きこもりがちで体力がないというのもあるけれど、この環境下で保護もされずに生き延びられる人間は少ないと思う。

 身体能力が桁違いだし、そういった彼らを基準に町がつくられているのだろうから。


「でも、この世界で生きていくしかないのですよね。いくら頑張ってもきっと私は弱いままですが、それを言い訳にはしないつもりです。弱音だってもう吐かないって……もう決めたので」

「ヒヒ……なんだ、いじめ甲斐がなくなってきたみたいだ。弱い癖に生意気だねぇ」

「……はい。私は弱いので強がるしかないんですよ」


 それが弱い私なりの意地で、強さなんだから。


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