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通訳がほしいです、切実に


 若木に触れるといつものように下から勢いよく風が巻き上がった。そのせいで毒水も噴き上がってきたけれど、どういうわけか私とギディオンには当たらない。

 よくわからないけど、ギディオンの力かな? 毒だから避けられるとかそういう。推測でしかないけど。


 それにしても相変わらずすごい風……! フワッと身体が浮きかけるのを感じた瞬間、ギディオンの私を抱き締める力が少し強められた。

 す、すごい! ちゃんと支えてくれている! 疑ってごめんなさい、ギディオン。おかげでついに脱こいのぼりですーっ!


 それからしばらくして、若木から茶色と水色のグラデーションの光が飛び出した。あれが、ジュニアス……?

 そのまま目で光を追っていると、光は形を少しずつ変えながら地面に着地した。その姿は牛のような、サイのような、とにかくがっしりとした四足歩行の動物の姿で、角と牙が美しく銀色に輝いていた。つ、強そう。これがベヒモスなんだ……。


 そうして目を奪われている間に今度はベヒモスが人型へと変化していく。シルエットをずっと見続けていたんだけど、これ以上は直視出来ない。眩しいーっ!


 ギュッと目を瞑って数十秒後、風も収まったところで恐る恐る目を開けると、ベヒモスがいた場所には長身の男性が立っていた。

 髪の色は茶色から水色のグラデーションになっており、フワフワとした肩までの長さで水色の瞳がこちらに向いていた。わぁ、色が違うだけでその姿はまるで……。


「マティアス……?」

「!」


 いや、違った。ジュニアスなんだよね。でも本当にそっくりなんだもの! 身長も佇まいも髪型も、瓜二つだからビックリしてしまった。

 マティアスの髪は紺色だけど、ジュニアスは茶色。毛先の色は同じだし、それしか違いが見つけられないくらいだった。


 双子だって聞いてはいたけど、幻獣の姿は全然似ていなかったからビックリです。予想外!


「お前、兄さん、知ってる」

「えっ、あ、はい」

「どこ」


 私がマティアスの名前を口にしたからか、ジュニアスはずんずんこちらに近付いて至近距離で訊ねてきた。私との間はほんの十センチほどしか開いていない。待って、近くないですか?


 しかし聞かれてはたと思い出す。そうだ、マティアスは今一人で国王軍を足止めしに行ってくれているんでした!


「あ、あっちで戦ってくれています! えっと、私たちは今禍獣の王に操られている国王軍に狙われていて……」

「あっち」


 とにかく急いで説明しようと思って焦って伝えたんだけど……あれ? なんだか、あっちにマティアスがいるって情報しか聞いてなくないですか? 気のせい、じゃないよね?

 つい説明を止めてジュニアスに目を向けると、彼は私が指差した方に向かってすぐ走り出してしまった。えっ、ちょっと!


「じ、事情も何も言ってないのに」

「ヒヒヒッ、相変わらずの兄馬鹿だ。ヤツにはそれ以外の情報は必要ないのさ」

「……あの、彼がジュニアスで合ってます?」

「あれ以外にジュニアスがいたらビックリだね」


 あまりにも急な行動だったから呆気に取られてギディオンに変な質問しちゃった。ですよね。

 このままマティアスと合流するのかな、私たちも行くべきかな、と考えつつジュニアスの背を呆然と見つめていたら、突然ジュニアスが立ち止まった。それからくるりと振り返り、走って私たちの下へ戻ってくる。今度はどうしたんだろう?


「お前、聖女?」

「えっ、あ、はい。一応……」


 ジュニアスは私の目の前で立ち止まると私を目だけで見下ろしながらそう聞いてきた。ちょっと怖いです。そしてやはり近い。距離感ーっ!

 ビクビクしながら答えると、ジュニアスは黙ったまま腕を組んでさらにジッと見下ろしてくる。訂正、かなり怖いです。どうしたらいいのこの状況?


「聖女、次の場所、解放」


 ジュニアスはそう言うやいなや、私の腕をガシッと掴む。え? え? 単語しか言わないから意味がわからない。ど、どうしよう。


「走る」

「え? えぇっ!?」


 な、何かわからないけど単語から察するに今すぐジーノの解放をしに行けってこと、かな? 走って? 自信はない。


「で、でも、マティアスは……!?」

「兄さん、指示」

「ヒヒッ、双子って便利だねぇ。マティアスの指示だってさ」


 ギディオンにはわかったらしい。え、でもマティアスの指示ってどういうこと? 姿も見えないのに……そう思って首を傾げていたら急にグンッと腕を引っ張られる。痛ぁっ!?


「禍獣、気配。解放、急ぐ!」

「わ、わかりました! わからないけど! で、でも待って! 腕っ、痛いからぁっ……!」


 ジュニアスが腕を掴んだまますごい勢いで走り出したので、私はそのスピードについていけず身体が浮いてしまっていた。解放した時のこいのぼりは回避したと思ったのにぃっ!

 そんな私の主張が聞いてもらえたのかなんなのか、再び腕を引っ張られ、さらに浮遊感が私を襲う。


「ぐえっ」

「ヒヒッ、口を閉じていないと舌を噛むよ? エマサン」


 どうやらジュニアスの肩に担がれたようだ。米俵ってこんな気持ちなんだぁ……?

 というか扱いが荒すぎて痛いし苦しい! 腕も引っ張られすぎて肩が外れるところですよっ!?


 でもたぶん、そんなこと言っていられない状況なのだろう。ジュニアスはなんだかすごく真剣な様子だし、ギディオンもふざけた調子ではあるけど真っ直ぐ前を向いてものすごいスピードで走っているから。


 国王軍が予想以上にたくさんいたのか、はたまた気配がするらしい禍獣が多いのか。

 マティアスのことは心配だけど、だからこそ急いでジーノを解放しないといけないってことはわかった。ジュニアスは単語しか言っていなかったからたぶんだけど、そういうことなんだと思う。……きっと。


 い、いや。そうだと仮定して!

 それならせっかく時間を稼いでくれているのだから無駄にしないように行動しないと。今の私は肩に担がれて揺られるだけのお仕事だけれど。

 ううっ、酔いそうーっ! ぐえぇっ……!


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― 新着の感想 ―
[一言] 福利厚生について話し合う時が来たようです エマ『力加減というものをですねぇっ!』 幻獣人一同(だって人間…ていうか、エマが脆すぎるだけだと…)
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