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のんびりしている暇はなさそうです


 そもそも、マリエちゃんはどうして自分がそういった力を使えるってわかったんだろう。ここはストレートに聞いてみた方がいいよね。


「ど、どうして使えたんでしょう? 私にも何か出来ることがあるんでしょうか」

「だから知るわけないでしょ。過去の聖女たちも、力が使えたり使えなかったりしたらしいから、人によるんじゃない?」


 人による、か。私には使えないだろうな。神頼みみたいに何かすごい力に頼ろうと考えるのなんて烏滸がましいよね。でも、ちょっと憧れちゃう。


「どうやって使っていたのかはわかります?」

「そうね……確か、封印したい対象に手のひらを向けて『封印』って言っていたかしら」

「意外と簡単なんですね……」

「あら。アタシたちが特別な力を使うのには特に何も言葉はいらないわよ。言わなきゃいけない分、面倒よ」


 幻獣人からしたらそうなのかもしれないけど……! 感覚がだいぶ違うみたいだぁ。


 おもむろに自分の手をじっと見つめる。手の甲には紋章が刻まれているけど……特別な力なんて感じない。封印を解除する時はなんとなく熱くなるけど、そのくらいだし。


 だいたい、私なんかに特別な力があるわけないんだから。地味だし、根暗だし、マリエちゃんのようにはいかないってことくらい最初からわかってたことだよ。

 私に出来ることは彼らの封印を解くことだけ。そして、祈ることくらいなんだろうな。それならせめて足手纏いにならないよう、逃げ隠れだけはうまくなっておきたいところです。


 ふぅ、それにしても薄暗い……。きっとこの黒い霧のようなものは全部が毒なんだろうな。そこを平然と歩き続けているギディオンを見ていると、毒の耐性があるってわかっていてもヒヤヒヤしちゃう。

 マティアスも、少しだけギディオンに防護の膜を張ってもらっているみたい。ちなみに私には厳重に何層も膜が張ってあるとのこと。お手数をおかけします……。脆弱なもので。


「そろそろつきそうね」

「あー、アレじゃないの?」


 代り映えのしない霧の中を歩いていると、マティアスが声を上げ、ギディオンが指を差した。その方向に目を凝らしてみると、うっすらと池のような沼のような場所が見える。


 まさかとは思うけど、その中に入れってことはないよね? ね? でも、水中だとしてもマティアスがいるから大丈夫、かな。出来れば入りたくはないけれど。


「ジュニアスが封印されているわね。近付いたら反応が強くなったもの」

「僕にはわからなかったけど、お兄ちゃん大好きなアイツならそうでしょうなぁ」


 マティアスにはわかったんだ。兄弟の絆みたいなものかな? 封印前に気付けたのはすごいよね。ちなみに、ジュニアスはあの池の中央にある若木に封印されているのだそう。


 若木……確かにあるけど、よくこの環境で育つなぁ。毒を栄養にして育つ毒の植物だったりして? あり得そう。

 ともあれ、水中じゃなくて良かった。そこだけは本当に良かった。だって絶対に毒の沼でしょ? 怖すぎる。


「ほら、ダメ聖女。ササッと解放してきてちょうだい」

「は、はいっ。あ、でも、そのぉ……」


 国王様のところに行っていたからなんだか解放が久しぶりに感じるんだけど、忘れてはならないことが一つある。けど、ちょっとあまりにも情けないから言い淀んでしまう。


「なによ! ハッキリおっしゃい!」

「は、はいぃっ! 解放する時、身体が吹き飛ぶので押さえていてくださいぃっ!!」


 恥を忍んで勢いに任せて叫ぶと、ため息交じりにそうだったわね、と頭上で呟く声が聞こえてきた。すみません。


「アタシは嫌よ。あの沼に行ったら汚れそうだもの」


 そしてキッパリと断られた。私は汚れること決定ですね。ソーっと歩きたいところだけど、どのみち解放した時の衝撃で沼の毒水は吹き上がりそうだから諦めます。はぁ……。


「ヒヒ、仕方ないね。僕が支えといてあげる。でも、吹き飛ぶ聖女サンも見てみたいね」

「勘弁してください……」


 ギディオンが私を押さえてくれるそうだけど、今の口ぶりからすると試しに手を離してみよう、とかされそう。手はくっ付いたままだから空の彼方へ吹き飛ぶことはないけど……はぁ。


 不安がっている場合じゃないよね。今は時間が惜しいんだから。いつ国王派の人たちが来たっておかしくない状況なんだもの。


「まずいわ、国王軍の気配が近いわよ」


 そうそう、国王軍が……えっ!? 本当にまずい状況だった!


「アタシが食い止めている間に解放して! さすがに全軍相手にするのは取りこぼしがあるだろうから、人数は多い方がいいわ! ギディオンは戦力にならないし」

「あー、コクに来るなら毒対策しているだろうしねぇ。ヒヒッ、僕は役立たずってわけ」

「うっさいわね! 自覚があんならサッサとダメ聖女を封印の場所に連れて行きなさいよっ!!」


 一気に慌ただしくなってきた。うぅ、怖い。けど、身を守るためにもこちらの人数を増やす必要があるってことだよね。

 マティアスが国王軍が来るらしい方向に歩を進めたのを見届けて、私とギディオンは沼にある若木の下へ急いだ。


 若木は沼から生えているみたいだった。根っこは沼の底なのかな……? レンコンみたいな感じ? って、それどころじゃない。


「じゃ、じゃあ、解放します!」

「はいはい、じゃ、身体を支えるよ。失礼」

「ひえ」

「ヒヒッ」


 支える、と言いながら後ろから両腕を回してギュッと……こ、これはハグというのでは?

 耳元でギディオンの笑い声が聞こえて反射的に顔が赤くなってしまった。シルヴィオの距離感に慣れてきたとはいえ、他の人に近付かれるのはまだ慣れないっ!


「なるほど。こうすると君はそんな顔を見せてくれるんだ? 嫌がる顔が見たいところだけど、その顔も悪くないねぇ」

「か、勘弁してくださいぃっ!!」


 絶対に楽しんでる……! ええい、負けるな私! マティアスのためにも急がないといけないんだから!


 背中に密着しているギディオンを気にしないようにしながら、私はソッと若木に手を伸ばした。


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[一言] 何かを感じ取り、虚空を睨みつけるシルヴィオさん
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