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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
そろそろ腹を括って聖女を名乗らねばならないようです

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自分勝手な宣言をしました


 みんなの視線が私に集まっている。え、ちょっと待って。さっきまでアンドリューの話は好き勝手なことをしながら聞いていたじゃない。


 あ、そっか。普段の私は、自分から話し始めることがないから驚いているのかも。え、ええい。臆しちゃダメ。せっかく聞いてもらえているんだから、ハッキリ言わなきゃ。

 私は小さく息を吐いて心を落ち着かせた。


「自分勝手な理由です。この世界を救うだなんて、大それたことは言えないし、思えないんです。本当に、器が小さいなって思うんですけど……」


 嫌われるかもしれない。幻滅されてしまうかも。こんな考えのヤツが聖女だなんてって。

 だけど、本音を隠す方が不誠実だと思うから。マリエちゃんのようにみんなを助けたいだなんて思えない、自分のことで精一杯な人間だけど……それが、私だから。


「私は、お姉ちゃん……マリエちゃんを救いたい。だって、恩返しを何も出来ていないから。だから、そのために急いで幻獣人をみんな解放します。そのために、頑張ります」


 この世界のためじゃない。国のためでもないし、教会のためでもない。そりゃあ、救えるならそれに越したことはないって思うし、出来ることならって思いはあるけど、それが目的じゃないんだ。

 私の望みはマリエちゃんに会いたい。ただ、それだけの自分勝手な理由のために動く。


「結局のところ、禍獣の王を倒してもらうのも危険な目に遭うのも幻獣人の皆さんなんですよね。私のこんな身勝手な願いのために動いてもらおうなんて、自分でも酷いなって思います。でも、これが本心です」


 結局、私はみんなを利用することになる。綺麗ごとを言ったって、意味がない。呆れられたってかまわない。どう思われてもいいの。目的が達成されるなら。


 自分が、こんなにも酷い人間だなんてね。薄々気付いてはいたんだ。これまではそんな自分を認めたくなくて、逃げて、遠慮して、隠れていただけ。


 私は聖女なんて存在にはなれない。けど、聖女という立場を利用させてもらう。開き直りって言われても構うもんか。絶対に、マリエちゃんに会うんだから!


「理由なんてなんでもいいのですよ、エマ様。それは身勝手ではなく、我々と利害が一致したというのです」


 全てを話しきって黙っていると、数秒間の沈黙を挟んでシルヴィオが微笑みながらそう言った。利害の、一致……?


「そうだな。勝手にこの世界に呼び出されて、姉が危険な目に遭っていて……理不尽な目に遭っているのはエマの方だ。そして、よくわからないまま幻獣人の解放をしてもらっていた」


 続けて口を開いたアンドリューが優しい眼差しをこちらに向けている。鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなるのを感じた。


「これでようやく、対等になれるんじゃないか? お互いの望みのために、協力しよう」


 な、なんでそんなに優しいことが言えるんだろう。こんなに自分勝手なのに。私はただ、自分の目的のためにみんなを利用するって言っているのに。


「真剣な顔して何を言うかと思えば。自分勝手? 規模が小さいのよ」

「ほーんと、何が飛び出すかと思ったー。エマチャンの勝手なんて、可愛いもんよー? 歴代聖女サマのとんでも要求、聞くぅ?」


 マティアスが呆れたような目を向け、リーアンがもっと酷いワガママの数々を愚痴っていく。そ、そうは言うけど、命がかかっているのに……!


「僕はどうでもいいかな。働いた分の報酬さえもらえれば」


 カノアはホールケーキを食べ終えて、マイペースにお茶をすすっているし……。あ、あれ? 私が気にしすぎだっただけ? いや、そんなはずはないと思うんだけど。なんだか基準がおかしくなってきちゃう。


「ヒヒッ、本当の自分勝手ってやつを、教えてあげたいねぇ」

「毒野郎は黙りやがってください」


 ギディオンはニヤニヤしながら誰にともなく独り言のように呟いている。それは遠慮したい、と顔を引きつらせていたらシルヴィオがピシャリと笑顔で毒を吐いた。毒を扱うギディオンに毒を吐くシルヴィオ……。


 な、なんだか自分が馬鹿みたいに思えてきたなぁ。絶対に、こんな風に軽くすませるような内容じゃないのに誰も気にしていないなんて。


 溢れてしまいそうだった涙が引っ込んじゃった。でも、これが幻獣人なんだよね。彼らの価値観なんだ。


 とても助かるけど、私はちゃんと自分の価値観を忘れないようにしたい。当たり前のように彼らを頼るようになったら、大切な何かを失う気がするもの。


「改めて、これからよろしくお願いします、みなさん」


 だから、立ち上がってしっかり頭を下げた。私のこの行動が意外だったのか、みんなが不思議そうにこちらを見てくる。ちょっと視線が痛いし恥ずかしい。あんまり見ないで……。


 誤魔化すために、私は話題を変えることにした。


「さぁ! 次は、誰を解放しに行きますか?」


 無理やり笑顔を作ってそう切り出すと、アンドリューがフッと笑って地図を出してくれた。助かりますっ!


 まだまだ解放しなきゃいけない幻獣人がいるんだもの。ここでのんびりして間に合わなくなったら困る。


 みんなでテーブルの地図を覗き込みながら、好き勝手に次はここに行こう、誰が一緒に行く、などの話し合いが始まった。いや、騒ぎ合いかな。あはは、収拾がつくかなぁ……?


 だけど、賑やかになったこの雰囲気が前のように嫌だとか苦手だとかは思わない。むしろ安心していることに気付いて、自分の変化を嫌でも思い知ることになりました。


 よ、よーし。私も話し合いに参加しなきゃ!


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