みんなで封印の真実を聞きました
教会の安全が保障されたことで、館に戻ってみんなで話し合いをすることになった。私はシスターとカラに声をかけてから館に向かう。
普段は館の中でカノアの扉を使うから、こうして外から玄関を通って館に向かうのはなんだか新鮮でドキドキする。
こうして戻ってきた久しぶりに感じる談話室。ソファーではリーアンが横になっており、ダイニングテーブルではマティアスが優雅にお茶をしていた。め、めちゃくちゃ寛いでる……!
「あら、帰ってきたのね? ドジをやらかしたんですって?」
「あ、おっかえりー! エマチャン、元気そうじゃーん」
しかもノリが軽い! 私が国王派の人たちに捕まったことを知っている口ぶりだけど、あんまり心配はしていなかったみたいだ。
酷いだなんて思わないよ? むしろ、気が楽になった。心配されてしまう方が私にとっては居心地が悪く感じるんだよね。面倒臭いヤツですみません。けど本当に助かってます、ありがとう。
みんなが集まったところで、まずはアンドリューがこれまでにあったことや今の状況を話し始める。カノアやギディオンも完全に把握していないことがあるだろうからね。
「マリエが禍獣の王と一緒に封印ですって? それ、話が違うんじゃない?」
「オレっちもそう思うー! だってさ、だってさ? マリエチャンが禍獣の王を封印したのはオレっちたちも確認したじゃん。おかしくねー?」
話を聞いたマティアスとリーアンは揃って不服そうな反応を見せた。
え、そうなの? みんなの前で封印した……? 思い違い、って感じではなさそうだよね。幻獣人みんなが頷いているし。
「考えてみれば、僕たちの封印もなかなか強引に進めたよね。やけに急いでいたし。ダメージを負っていたのは確かだし、早く治すためだからって言われちゃあ、断れなかったんだよね。想定より早くに禍獣の王が復活するかもしれないとも言われたっけ。どのみち聖女に命令されたら拒否できないんだけど」
「ヒヒッ。次に禍獣の王が解放された時、万全の状態で倒すために、だっけぇ? 随分と僕らを酷使するなぁって思ったものさ」
カノアとギディオンからも気になる発言が飛び出す。マリエちゃんは、言いたくなかったのかな? 心配させたくなかった、とか?
「オレたちが封印される時、禍獣の王はまだ封印されてなかったってことですか? でも、確かに封印の瞬間は見ていました。……アンドリュー。貴方は全てを知っているのですね?」
最後に、シルヴィオが真剣な目でアンドリューに顔を向けると、アンドリューは神妙な面持ちで頷いた。
「……ああ、知っている。そして、幻獣人様たちには黙っていてほしいと、他ならぬマリエに頼まれていたんだ」
「お前……っ!」
「まー、まー、シルヴィー落ち着こー? 当時のアンディーはまだ子どもだよー? 聖女サマに言われて頼みを聞かないわけにはいかないっしょー」
あ、そっか。マリエちゃんがここにいた当時は、アンドリューは子どもだったんだっけ。それなら仕方ないよね。子どもだったのなら、状況を理解していなかったと言われても納得出来るくらいだし。
「私は無力だった。ずっと悩んではいたんだ。黙っていてもいいのかと。けれど、結局何も言えないまま幻獣人様たちは封印され、マリエは自らの意思で禍獣の王とともに封印された」
アンドリューも悩んでいたんだね……。もう、マリエちゃんったら。絶対に文句を言って叱ってやらないと。それはきっと、私の役目だもの。誰にも譲れない。
「幻獣人様たちが見たという、禍獣の王の封印は確かに行われた。それは事実だ。だが、完全ではなかったんだ。封印をした直後、それがマリエにはわかったらしい」
アンドリューは当時のことを話し始めてくれたけど、真剣に彼に目を向けるシルヴィオやマティアスに対し、寝そべったままのリーアン、ケーキを食べ続けるカノア、ウロウロしているギディオンとまとまりはない。
本当にマイペースな人たちだな、幻獣人って。でもそれがちょっと気持ちを楽にさせてくれるのは正直ありがたい。
さて、アンドリューの話によると、マリエちゃんの言葉を聞いた後、国王の指示により封印の調査が行われたという。すると、確かに封印にヒビが入っていたのがわかった。
見立てでは二、三年ほどで禍獣の王が封印を解いてしまうだろうという結果だったそうだ。
「うわ、あんだけ弱らせたのにダメだったってことぉ? ガチであの禍獣の王はこれまでと強さがレベチなんだけどー! オレっちたち、満身創痍だったのに!」
「二、三年だと……確かにアタシたちの回復は不完全ね」
「その状態で戦っていたら、間違いなく全滅だったでしょうね」
リーアンの驚愕の叫びや、マティアスとシルヴィオの真剣な様子に私も怖くなって身震いしてしまう。こんなにすごい人たちが全滅だなんて……。
「とにかく、時間を稼ぐ必要があった。そのためには、自分も一緒に封印すればいいと。時間を稼ぐから、それまでに対策を考えてってマリエに明るく笑われたな。無茶を言う、と思ったのが懐かしい」
「本当に無茶を言うね。まー、マリエらしいけど」
「他に方法がなかったからな。今諦めたらすぐに全滅だが、時間さえあればなんとなる可能性が上がる、と」
最悪な状況に変わりはないけれど、確かに時間があったらいい案が浮かぶかもしれないもんね。マリエちゃんの言うことにも一理あるけど……。
まぁ、無茶振りには変わらないよね。明るく笑うマリエちゃんが目に浮かぶな。
「結果的に、なんとかなるかもしれない希望が現れた。エマ、というな。マリエは大きな賭けに勝ったんだ」
「ヒヒッ、賭けねぇ? 頼りない聖女が来ちゃったのは勝ったと言えるのか疑問だ」
あ、本当にそれだよ、ギディオン。だからずっと言っているじゃない、私は聖女なんかじゃないって。
でも、幻獣人たちを先に解放することは出来る。それだけ、ではあるんだけど。
「国王もおかしなことになっているみたいだしね? アタシたちが封印されている間に禍獣は増えているし、状況的には前に戦った時よりも不利よ」
「作戦を立てるなり、戦力の増強をしないと確実に負けるよ。結局、問題の先延ばしになっただけ」
「しかも前より無理ゲー! 詰んだねー! オレっちだけは復活しちゃうけどー! あははっ!」
それぞれが言う内容は本当に絶望しかないって感じだけど、声には絶望の色を感じない。それが強がりなのか、諦めなのか、他の感情なのかはわからないけど暗い雰囲気になるよりずっといいなって思う。
「結局、今出来るのは一刻も早く全員の解放をすることだ。そして全員で作戦を立てる時間も確保したい。本格的な話はそれからになるだろう」
アンドリューはそう話を締めくくると、私に目を向けた。つまり、幻獣人の解放を急いでほしいって言いたいのかな? それはわかるし、私も賛成だ。
けどその前に、私の考えを伝えないといけないよね。
「私、覚悟を決めようと思います」
私は震える手をギュッと握りしめ、みんなに向かって声をかけた。




