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改めて大切な場所だと実感しました


 急いで行かなければならないのはわかっているけれど、いつも以上に気合いが入った走りだったのではないでしょうか?

 目まぐるしく通り過ぎて行く景色を楽しむどころか、ほぼ何も見えませんでしたよ……? シルヴィオの本気を垣間見た気がします。


 そのせいか、アンドリューは途中から引き離されてしまったようで、教会に着いた時は私とシルヴィオの二人だけだった。アンドリューだって決して遅いわけではないはずなのに。

 ま、まぁ目的地は同じだし、はぐれてしまっても問題はあまりないと思うけれど。


「そ、それにしても……」

「ええ、エマ様。言いたいことはわかります」


 教会では、私が連れ去られてシスターが捕まっていたことから皆が礼拝堂に集まっていた。それはアンドリューが指示を出したことだそうなのでわかる。


 呆気に取られてしまったのはギディオンが一番後ろ、ドアの近くの長椅子に横になって思いっきり眠っていたからです。

 え、ええ……? 確か、ここの守りを任されていたんじゃ?


「エマ!」

「あ、カラ……」


 私たちが礼拝堂に入って来たことに真っ先に気付いて駆け寄ってきたのはカラだった。カラは私に駆け寄るとそのままの勢いで抱きついてくる。

 よろけそうになったのをソッとシルヴィオが支えてくれた。ありがとう。


「心配したのよ!? 怪我はない?」

「ごめんなさい、カラ。私は大丈夫。あの、シスターは……?」

「もちろん無事よ。怪我一つないわ」


 それを聞いて本当に安心した。ルチオが大丈夫とは言っていたけど、やっぱり心配だったから。


 というか、禍獣の王のオーラのせいでおかしくなっているって聞いた今、本当にこの程度で済んで良かったって思う。

 だって、もっと正気を失っていたらシスターも私も、そして教会のみんなにも配慮なんてされなかったかもしれない。


「……みんなに迷惑をかけて、本当にごめんなさい。私さえここに……」

「いなければ、とか言うのはなしよ。だって、エマには何一つ悪いところなんてないんだから」

「え……」


 私の言葉を遮るようにカラは言う。やや怒ったように頬まで膨らませて。

 悪いところなんてないって言うけど……それでも原因は私の存在なんだから、そこまで断言は出来ないはずなのに。


 教会の人たちはみんな優しいから、そう言ってくれるだろうとは思っていたけど。でも、本当に、本心からそう言っているのがわかって戸惑ってしまった。


「そうだよー! エマお姉ちゃんはいつも優しいもん!」

「俺たち、どんなヤツらが来たって平気だよ! 戦う、のは無理だけど逃げ足は速いんだから!」


 子どもたちからもそんなことを言われて、本格的にどうしたらいいのかわからなくなってきた。だって、子どもたちったらものすごく純粋な眼差しで見つめてくるんだもん! 心が綺麗すぎて辛いっ!


「エマ」

「シスター……」


 最後に、シスターが微笑みながら近づいて来てくれた。私も歩み寄ってシスターの前に立つと、彼女はそっと私の手を両手で包み込みながら目を伏せた。

 優しいけれど力強く握ってくるその手に、謝ろうと出かかっていた言葉が口から出てくる前に止まってしまう。


「謝るのは、お互いにこれきりにしましょうね。エマ、私が捕まってしまったばかりに危ない目に遭わせて本当にごめんなさい」


 それは深い謝罪の言葉だった。ち、違うのに。そもそも私のせいでシスターが怖い目に遭ったのだから。

 私は慌ててさっき止まってしまった言葉を口にした。


「そんなっ、わ、私の方こそシスターを巻き込んで……本当にごめんなさい!」


 手を握り返しながら、思い切り頭を下げる。申し訳なさ過ぎてとても顔を上げられない。

 だけど、シスターが頭上で小さく声を出して笑うのが聞こえたから、驚いてゆっくり顔を上げた。


「はい、これでおしまい。謝り続けていたらキリがないもの。私も貴女も無事でここに戻ってきた。もうそれでいいでしょう?」

「し、シスター……」

「さぁ、お腹が空いているのではないかしら? 私たち、結局まだ何も食べていないの。食事にするからエマ、手伝ってくれるかしら」


 きっと、シスターもまだ言いたいことや聞きたいことがたくさんあるはずだ。それは私も同じだけれど……。

 でも、その全てを飲み込んでこれでこの話はおしまいだと言っているんだよね。


 ああ、やっぱり私はこの場所が好きだな。この人たちの温かさが大好き。だからこそ守りたいし、巻き込みたくない気持ちもある。

 ……ここにいたいって気持ちは、我慢しなきゃいけないよね。


「はい。もちろんです……」


 でも、今だけは。久しぶりに心を休めたいな。チラッとシルヴィオに目を向けると、ニコリと微笑みながら頷いてくれる。


 ホッと安心したのも束の間。シルヴィオはクルッと後ろを向き、何やらどす黒いオーラを放ち始めた。視線の先には……未だに横になってスヤスヤ眠るギディオンが。


 あー……。あー、あー。えーっと。し、シスター! ちょっとだけ、ちょっとだけ待っていてください! 見ていないところで喧嘩される方が怖いので!

 うう、アンドリュー、早く来てーっ!!


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