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決意を胸に前を向きました


 そこまで話を聞いて、ふと疑問が浮かぶ。そう考えるとどうしても腑に落ちないことがあるよね?


「でも、国王様はすぐに解放しろって……。それは、どうして」


 どんな理由があるにしろ、国を危険に晒すようなことを国王がするだろうか?

 いくら国王様が幻獣人や聖女を憎んでいたり、自分の立場が危うくなるアンドリューが目障りだったとしても、禍獣の王が解放されたら全員の命が危険に晒されることくらいわかるはずなのに。


「禍獣の王だ。本来、あんな愚策をとるような父ではない。禍獣の王から滲み出すオーラが、現国王である父の正気を少しずつ奪っているのだ」


 えっ!? そんなことがあるの!? で、でも、会った感じだとそんな雰囲気はなかったけど……。


「確かに妙な雰囲気を放っていましたね。遠くからでもわかりました」


 そっか、シルヴィオにはわかったんだ……。私のような普通の人間にはわからないのかもしれない。

 でも確かに、助けが来た後の王様は雰囲気がガラッと変わったよね。あれは本当に怖かった。


「あくまで父の発言からの予想だが……どうも父は、人々を救うためには幻獣人が邪魔だと吹き込まれているようだ。禍獣の王を一度蘇らせて幻獣人を滅ぼし、禍獣を操ってもらえばわざわざ討伐する必要もない、と考えている」

「うわ、禍獣の王にとってとても都合の良い考えですね」


 だからあの時、私に早く解放させようとしたんだ……。驚いていると、アンドリューは一度立ち止まって私に向かって深々と頭を下げた。えっ、ちょっと!?


「すまない。もっと早くに気付いて止めていれば……いや、気付いていてもどうにも出来なかったが。エマが幻獣人様たちを解放していくことで、父の様子はみるみる内に変化してきた。恐らく、禍獣の王の復活も近い。ヤツも焦っているのだろう」


 元々、アンドリューが頑張ってきたのは自分が王位につくためではなかったという。父である国王を正気に戻し、国を立て直すことが最善だと思って動いてきた、って。

 ただ、王様のやり方に疑問を持ち始めた人のために、そしてどうしても正気を取り戻せなかった時のために、自分が王位に就くのも手段の一つではあると語った。


 王様が禍獣の王に支配されつつあるなんて言ったら、ただでさえ不安が広がっている国中に、混乱を招いてしまうものね……。


 さらにこのところ、王城で務めている人たちも様子がおかしくなってきた者が増えてきたとアンドリューは言う。元々、王様を慕っていた人ほどそういう傾向にあるんだって。


 なんだか、嫌な手を使うよね、禍獣の王。民のことを思う気持ちを利用しているってことじゃない。そして、王様を慕う気持ちを利用してる。

 アンドリュー派だった人も、何人か洗脳されて国王派に行ってしまったのだそう。もう王城はアンドリューにとっても危険な場所になっているんだ……。


「だが、私は最後まで城に残る。私がいることで、洗脳されかけている人がギリギリのところで自我を保てている様子も見受けられるからな」

「でも、アンドリューも危険なんじゃ……」


 心配してそう言うと、アンドリューはフッと笑った。なんというか、悪人顔だ。


「城の者が束になったところで、私には勝てないから大丈夫だ」


 お強いんですね……! でも、多少の強がりが入っているのはわかる。いくら強くても、数の多さには敵わないもの。

 けど、ここは騙されておく。アンドリューにはアンドリューなりの意地があるのだろうから。


「わかりました。つまり、私が今やらなければいけないことは変わらないってことですよね?」

「ああ、そうなる。一刻も早く幻獣人様を全員解放し、禍獣の王との戦いに備えたい」


 国のことやお城の人たちのことは私にはよくわからない。下手に首を突っ込んでも意味はないから。

 私は私に出来ることをやらないと。もう、のんびりなんてしていられない。弱音だって吐いていられない。


「私、自分は聖女じゃないって思ってます。この期に及んでって思うかもしれませんが……」


 再び歩みを進めながら、私はシルヴィオのたてがみにしがみ付きながら決意を口にする。


「姉を救うためにも、そしてお世話になった教会にみんなのためにも、頑張りたいって思います。出来ることがあるならなんだってやりたい……!」


 世界を救う、ってことまで言い切れないのが私だよね。だって、私には身近な人たちを助けたいって思うだけで精一杯。無責任かもしれないけど……。


 ブツブツと呟いていると、アンドリューもシルヴィオもそれだけでも十分すごいことだと言ってくれた。自分のことだけで精一杯なのが普通だって。

 うっ、優しい。甘やかされているなぁ、私。


「エマ。それでいいんだ。国のことは私が守る。それが私の使命だからな」


 アンドリューはそう言って微笑む。それに王太子として自分の仕事を奪われても困る、とおどけて笑った。


「エマ様、オレは貴女のために、そしてマリエ様のために全てをかけますよ!」

「シルヴィオ……お前はあともう少しだけ周囲にも気を配ってくれ……」


 シルヴィオはシルヴィオでブレないなぁ。ずっと張り詰めていた気持ちがフッと楽になる。二人はすごいや。


 私も気持ちを入れ替えなきゃ。相変わらずビビりだし、頼りないし、聖女とは意地でも言いたくないけど。


「……もう、大丈夫です。急いで教会に向かってもらってもいいでしょうか?」


 しっかり顔を上げて、前を見なきゃ。


「ああ、任せろ」

「もちろんですっ! アンドリュー、のんびりしていたら置いていきますからねー!」


 二人が答える声が、なんとなく弾んでいるような気がした。


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