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他人事はここまでのようです


 青ざめた私を見て、シルヴィオがそっと肩を支えてくれた。話の続きは一度教会に戻ってからにするかとアンドリューが提案してくれたけど、私は首を横に振って今すぐ続きを話してくれるよう頼んだ。

 だって、こんな状態で教会に帰ったら余計に心配をかけてしまう。出来ることなら、大丈夫だよって笑って帰りたいから。


「エマ様は本当にお優しいですね……」

「優しいんじゃ、ないです。ただ、迷惑をかけたくないだけ。すでにたくさんかけちゃってるんで、今更なんですけどね」


 自嘲気味に答えると、そんなことはありませんとシルヴィオには少しきつめに言われてしまう。ああ、またネガティブが出ちゃったね。ごめんなさい。


「と、とにかく、もう少し気持ちの整理をつけてから戻りたいんです。道すがらでいいので、話してもらえませんか?」


 中途半端に聞いてしまっては、気になり過ぎて余計に挙動不審になる自信があるもの。

 こうしてちゃんと質問が出来る程度には落ち着いたし、周囲にあまり人がいない間に聞いてしまいたいっていうのが本音だった。


「わかった。出来れば急いだ方がいいんだが……話の間は少しゆっくり移動しよう」


 急いだ方がいいという言葉に軽く首を傾げると、教会にギディオンを護衛として残しているのだ、とシルヴィオが嫌そうな顔で教えてくれた。


 そ、それは確かにちょっとだけ不安かもしれない。でも、今の教会に誰も残さないっていうのもそれはそれで不安だ。


 王国派の人たちが教会の人にまで手を出すとは思いたくないけど、シスターを拘束していたものね。ギディオンを残すことが正解だったかはわからないけど、誰もいないよりはずっといい……と思う、たぶん。


 あー、でも……ちょっとだけ、急ごうかな?

 ということで、ユニコーンの姿に変化したシルヴィオの背に乗り、早歩き程度の速度で移動しながら話を聞くことにした。

 ちょっと気持ちが昂っていたから、ギディオンの話を聞いてなんだか脱力しちゃった。今はそれが助かるけどね。


 早速、アンドリューが神妙な顔で説明を始めた。


「本来、禍獣の王は一度倒せば百年以上は復活することがない。つまり、聖女がこの世界に呼ばれるのも数百年に一度のことのはずだった」

「あれから、二十年ほどしか経っていないみたいですしね。子どもだったアンドリューが大人になる姿を見られるとは思ってもみませんでしたよ」


 シルヴィオの言葉にアンドリューが頷く。自分も生きている内に別の聖女に出会えるとは思っていなかったと彼は言った。

 そ、そうだったんだ……。その辺りは疑問にも思っていなかったな。ううん、あまり知ろうとしていなかったのかも。


「だが、エマは聖女としてこの世界に招かれた。禍獣の王を倒すために必要な聖女が、身動きの取れない状態だからと世界が判断したのか……詳しいことはわからないが一つ言えるのは、まだ前回の禍獣との戦いが終わっていないことを意味している、ということだ」


 つまり、まだ戦いの最中ってことなのかな。休戦、みたいな。


 禍獣の王が封印されていることを知っていたアンドリューは、いつまた復活してしまうかをずっと恐れていたそうだ。復活したら国が危ないっていうのはもちろんそうだけど……何より、錠の聖女であるマリエちゃんが真っ先に殺されるんじゃないかって。


 だから、今すぐに封印を解くわけにはいかなかったんだ。たとえその手段があったとしても。


 私が考えなしに解放していたら、一生後悔することになっていた。止めてくれて本当に良かった。私は取り返しのつかないことをするところだった。


「幻獣人様たちを封印することになったのは、そのダメージが大きかったからだと聞いている。禍獣の王を倒すのではなく封印すると決めた時に、それならば回復を早めるために幻獣人様も封印しようとおっしゃったのだ」

「確かに、普通に生きているより安静に眠り続けた方が回復しますね。それも、聖女様の魔力に包まれているのならより早まるでしょう」


 今は倒せないけど未来なら、と希望を託したんだ……。そのためには禍獣の王が封印を解く前に、幻獣人たちが回復していることが必要不可欠だったんだね。


 でもこの作戦は綱渡りだ。だって、未来に禍獣の王を倒せるだけの戦力があるとは限らないもの。それどころか、むしろ当時よりも少ないことだって有り得る。

 アンドリューの話によると、禍獣の王の封印が解かれると同時に幻獣人の封印も解かれる予定だったという。つまり、幻獣人たちは解放されたその瞬間、再び禍獣の王と戦うはずだったんだ。


 それって、言ってはなんだけど当時と何も状況は変わらないよね。互いに万全の状態に戻っただけだから。

 それどころか、下手したら一緒に封印されているマリエちゃんが最初に死んでしまう可能性が高いんだもの。


 それに、幻獣人が動けないのだから禍獣を減らすことが出来ない。敵となる禍獣が多いわけだから、戦局はむしろ不利になっている。


 それでも、守りたかったんだろうな。今、このまま戦っても負けてしまうのがわかったから。問題の先延ばしになるとわかっていて、それでも守りたかったんだ。その時の「今」を。


「だからエマがこの世界に来た時、心底安心した。これで戦いに備えることが出来る。万全の態勢を整えられる。そして決戦の時、マリエと禍獣の王の封印を解けば彼女を救えるかもしれない。それが、私の考えだ」


 折を見て私にもその説明をするつもりだった、とアンドリューは申し訳なさそうに言う。

 謝ることなんてない。だってそれは、きっと私の覚悟がなかったからだ。謝らなければいけないのは私の方。


 そして、私もその作戦が一番だと思う。戦いを避けることは出来ないのだから、せめて準備を万端にしないといけないんだ。


「だが、前にも言ったように禍獣の王も傷が癒え始めている。いつ封印を解いて世に解き放たれるかわからない状態だ」

「だから、一刻も早く幻獣人たちを解放する必要があったんですね……」


 アンドリューが急いでいる本当の理由がようやくわかったよ。それでも、私を気遣って焦らなくていいって言ってくれていたんだ。

 自分がすごく甘えていたんだってわかる。どこかで、自分には関係のないことだからって思っていた。


 でも、もう他人事じゃない。

 現実を突きつけられて確かにショックを受けた。でも、絶望じゃない。いい加減、ぬるま湯から出なくちゃ。


 しっかり向き合わなきゃいけないところまできている。私はギュッと拳を握った。


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