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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
なんだか急展開ってやつじゃないですか!?

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何か嫌な予感がしてきました


 ちょ、ちょっと待ってね。私、てっきり前聖女はこの世界にはいないものだと思ってた。禍獣の王を封印し、幻獣人たちを封印した後に彼女がどうなったのかは知らないけれど……なんとなく、もういないんだなって。


 だって、幻獣人たちは彼女のことを話してはくれたけど、その後の行方は話さなかったもの。何か、言いたくない理由があるのかなって思って聞けなかったんだよね。


 でもまさか、その聖女に会えるなんて。あ、いやいや。まだ前聖女に会えるとハッキリ聞いたわけじゃない。決め付けるのはよくないよね。


「あ、あの。前の聖女に、会えるんですか……?」


 まずは確認だ。何ごとも! 先走るのは良くな……


「会える。会いたいか? エマよ」

「っ!」


 これはもう疑いようがない、よね。前聖女に会えるんだ……。


 それなら、また聖女になってもらえないか聞ける、かな? だって、どう考えても私じゃ勤まらないもの。

 もし断られたら……さ、さすがに押し付けるわけにはいかないよね。自分のわがままで嫌がることをやらせるわけにはいかない。

 でも、色んな話は聞けるかもしれないよね。せめてアドバイスが欲しい!


「……会いたいです。あの、会わせてください」


 だから、迷わずそう返事をした。王様はニヤリと不敵に笑った。


 今すぐ案内しよう、と王様は立ち上がり、付いてくるようにと告げて部屋を出る。ルチオにも目で促された私は黙ってその後に続いた。

 さっきの不敵な笑みが少し怖くて、ちょっとだけ会いたいと言ったことを後悔する。けど、もう遅い。だ、だって王様の側にいた兵士さんが二人も私を囲むように斜め後ろからついて来ているし、ルチオも笑顔で隣を歩いているんだもの!


 逃がさないぞ、という圧を感じる。え、前聖女に会うだけだよね? どうしてこんなに不穏なの。


 その理由も歩を進めるごとになんとなく察し始めた。だって、王様が向かったのは建物の地下。明らかに怪しげな暗い階段を下りていくからさすがに躊躇って足が止まってしまう。


「さぁ、お手をどうぞ。暗いと足下が危険ですからね。ころげ落ちてしまっては大変です」


 けれど、それもルチオが半ば強引に手を掴んできたことで進まざるを得なくなる。普通に怖いんですが!? なんで地下なんかあるんですかぁ!?


「はっはっはっ。聖女様は怖がりなのだな? 安心してほしい。暗いのは階段と通路だけで、向かう先の部屋は明るいからな」


 先頭を行く王様が笑いながらそう言ったけど、そうじゃない。確かに暗いから怖いっていうのもあるけど、明らかに怪しげな雰囲気だから怖いんですよっ!

 そうは思っても何も言えない小心者な私。というか、この状況でハッキリ発言出来る人の方がすごいよね。


「前聖女は強気な女だった。こうして道案内をしても、どこへ連れて行こうというのかと食って掛かってくるような、な」


 いた、ハッキリ発言出来る人。前聖女さん、さすがすぎます。やっぱり私には聖女なんて無理ですね、よくわかりました。


「だから、エマは大人しくて助かる。じゃじゃ馬よりも遥かに聖女らしい」


 でも、王様は私とは正反対のことを言った。違うでしょう、大人しい私の方が扱いやすいからそう言うんでしょう?

 はぁ、自分のこういうところが嫌だな。言いたいこともハッキリ言えない、根暗な自分なんて大嫌いだよ。


「最後の最後まであの女は抵抗して、本当に大変だったのだ。まぁ、結果的にはこちらの望んだ通りにはなってくれたのだが」


 ……ちょっと、待って。最後の最後まで、ってどういうこと?

 というか、さっきから前聖女については過去形で話してない? 今、私はその前聖女に会いに行くんだよね?


 ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。わ、私は今、どこに向かっているというのだろうか。そういえば王様は最初、私に「見せたいものがある」って言った。その後に、前聖女に会いたいか、って。


 怖い。何があるというの? 王様も、ルチオも、兵士さんたちも、なんだかさっきよりも雰囲気が怖く感じる。これは気のせいではないと思う。


「さぁ、着くぞ。あの部屋だ」


 長い螺旋階段が終わり、その先に大きな扉があるのが見えた。あの部屋に前聖女がいるの? だとしたら、ここから出られない状態ってことだろうか。

 怖い。けど、もしそうなら助けないと。だってこんな地下に閉じ込められているんでしょう? でも、どうやって? 今だって、怖くて震えることしか出来ないのに。


 でも。それでも。

 私と同じようにある日この獣人だらけの世界に飛ばされて、聖女って言われて、不安じゃないわけなかったはず。私よりもずっと強くて、頼もしい聖女だったかもしれないけれど、怖くないわけがなかったはずだ。


 同じ境遇にあったその人が、もしも今困っているというのなら。勇気を出して助けたい……! 私に、出来ることがあるのかはわからないけれど。


 ルチオが王様の前に出て、扉に手をかけたその時だった。


「エマ様ぁぁぁぁぁっ!!!!」


 何かが爆発したような大きな音とともに、私を呼ぶ大声が耳に飛び込んでくる。と同時に、立っていられなくなるほどの大きな揺れがっ! な、何!? 今度は何が起きたの!?

 でも、今の声は……シルヴィオだ!!


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