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王様が気さくすぎて怖いです


 ルチオの言っていたように、建物の内部はものすごく豪華な造りだった。

 魔道具を使った煌びやかな照明、フカフカな絨毯、高そうな絵画や彫像に大理石のようにも見える磨き上げられた床。こ、これは外観を見ていなければ王宮といえるかも……。


「ふふ、その顔が見られただけでも連れて来た甲斐がありますね。でも、よく見ればわかりますが外観にも一流の資材が使われているのですよ? ありきたりな館に見えるようにするのにもかなりの技術が必要ですし」


 言われてみればそうだ。普通に豪華に造るよりも技術やお金がかかりそう。さすがは王様って感じかな。

 ……そ、そういえば王様に会うんだよね? 今更ながらに緊張してきた!


「あ、あの! わ、私は一般人なので、王様に対する態度とか……わかりません、よ? 失礼があるかもしれません」


 小心者ですよ、ええ。私は本当にただの一般人なのだから。突然、国で一番偉い人に会っても上手に話せません。不敬だ! って処刑されたらどうしよう……。


 だけどルチオは一瞬、目を丸くしてからクスクスと笑う。笑いごとじゃないです。


「おかしなことをおっしゃいますね? 貴女は聖女様なのですよ? 王と同等、いえ、王よりも立場的には上なのですから、不敬もなにもあるわけがないでしょう」


 突然、ゾクッと背筋が凍った。

 な、なんだろう。言っていることは気にしなくていいという気遣いの言葉だったのに、本音は別のところにあるように感じる。聖女という存在が王よりも上とは絶対に思っていないよね、この人。

 不敬だと言われることはないけれど、態度には気を付けないと反感は買いそう……。たぶん、ルチオは王様を本当に尊敬しているんだ。


 そうだよ。国王派なんだもの。王様を立てたいに決まってる。気は抜けないな……。うぅ、怖いよぅ。


「おや、まだ緊張したお顔ですね? 本当に大丈夫ですよ。謁見とは違うのです。あくまでここは王の私室。ほら、周囲にも最低限の兵と私しかいないでしょう? 王からは友人だと思って楽にしてほしいとも言付かっていますし」


 急にフッとさっきの冷たい雰囲気を消したルチオは、やんわりとそう言った。

 ちょ、友人とか、思えるわけないでしょう!? わざとだ。私がさっきの冷たい眼差しに怖がっていたのも絶対に気付いている。性格が、悪い。


 怖い。でも、逃げられない。それなら、少しでもこの状況を覚えておこう。ここから帰れるかもわからないけれど、私に出来るのはそのくらいだから。


「さぁ、着きましたよ。王がお待ちです」


 心を奮い立たせ、私はルチオに続いて王様が待つという応接間へと入って行った。


 ルチオは応接間に入ると、部屋の中央にあるソファに向かう。そしてそこに座る人物の斜め後ろに立つと、戸惑う私に向かい側のソファに座るよう手で示した。

 間違いなく、座っている人が王様だ。でも、まさかここまでラフな対面になるとは。


 とはいえ、漂うオーラが人とは違う。畏まった謁見の間だと錯覚を起こしそう。それに……。


「よく来てくれた、聖女よ。歓迎するぞ。私はエドゥアール・レクス・ベスティア。よければ其方の名も聞かせてくれないか」


 赤い髪に金の瞳。そして頭から生える立派な角。国王はアンドリューに、よく似ていた。親子なんだなぁ……。親子で、争っているんだ。

 なぜだかわからないけれど、そう考えたらアンドリューの気持ちがほんの少しだけわかる気がした。


「は、初めまして、エドゥアール王様。私は、エマ、です」


 とても一国の王様に対する話し方ではないと思う。でも、今ここで敵対する意思はありませんよというのは伝わった、はず。伝わってください……!

 頭を下げながら祈るように目をギュッと閉じた。


「そう震えずとも良い。取って食ったりはせぬ。それに、私と其方は対等な立場。いや、敬うのはこちらの方であったか?」

「い、いえ、そんなことは……」

「ははは! お互い、堅苦しいのはやめようではないか。エマと、そう呼んでも良いか? そして私のことは気軽にエドと呼ぶがよい」


 い、いやいやいや! なんて無茶ぶりをしてくるの!? それに、ものすごくフレンドリーで笑顔だけど、それが逆に怖い。本当にただの親切だったら申し訳ないんだけど……。私が警戒しすぎなのかな?

 ……ううん、国王派が阻止したかった幻獣人の解放をする私は、どう考えても彼らの敵だ。警戒しすぎなくらいがちょうどいいかもしれない。


「こ、国王様に、それは、ちょっと……」


 とにかく、一瞬一瞬を乗り切らなきゃ。


「ふむ、つれないな。まぁよい。ここで問答をしていては時間がなくなってしまう。早速、本題に入らせてもらう」


 意外にも食い下がることなくエドゥアール王は腕を組み、口角を上げた。


「今回、無理にでも君を呼んだのは見せたいものがあったからだ」

「見せたいもの、ですか」


 異世界から来て、この世界のことも国のことも何も知らないのに一体何を見せようというのだろう。相変わらず目的がわからなくて眉を寄せてしまう。


「どちらかというと、会ってもらいたい人物がいる、の方が正しいな」


 え、あの。よりわからなくなったんですが? ますます眉を寄せて首を傾げていると、エドゥアール王は思いもよらない人物の名を告げた。


「聞いていないか? 前聖女マリエの話を」


 前聖女……? え!? ま、まさかこれから会う人ってその前聖女なの!?

 あまりにも予想外過ぎて、私は思わず口をポカンと開けて言葉をなくしてしまった。


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