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大人しくした方が良さそうです


 今の光景はなんだろう? 妙にリアルで、怖くて……。首を絞められた時の感触がわかるのがすごく気持ち悪かった。まだ、手が震えてる。

 ……って! そうじゃない! シルヴィオの手を思いっきり叩いちゃった!


「ごっ、ごめんなさいっ!!」

「……いいえ。オレの方こそ、驚かせて申し訳ありません」


 慌てて謝ったけど、シルヴィオの方が心底申し訳なさそうに胸に手を当てて謝ってくる。ああ、そんなに悲しい顔をしないで……!

 でも、まだ混乱してる。それに、ハッキリと思い出せる。あの光景に覚えなんかまったくない。だけど、怖くて仕方ない。どうしても震えがとまらない。

 ……少しだけ、一人になりたい。


「あ、あの! わ、私、シスターのところに行ってきます! あの建物の、奥にある部屋なんです。その、ギディオンと一緒に来てください……!」

「……はい。わかりました。部屋の外側でお待ちしていますからね」

「っ、ありがとう、ございます」


 傷付けてしまったかもしれない。そのこともすごく怖くて、どうしても目が合わせられなかった。

 きっと、シルヴィオはそんな私の気持ちも汲んで、一人で向かわせてくれたんだと思う。いつもは絶対に側を離れないって言うのに。


 ……ううん。もしかしたら、幻滅させたのかも。それならそれで、仕方ないよね。


 頭も心もぐちゃぐちゃで、今はとにかく心を落ち着つかせたかった。本当に最低だ。でも、逃げることをやめられなかった。

 ごめんなさい。ごめんなさい……!


 広場を突っ切り、渡り廊下を駆け抜ける。そして礼拝堂の前で一度止まり、呼吸を整えた。さすがにこの場所に勢いよく入って行くわけにはいかないから。

 まだ肩で息をしたままだったけど、シスターの部屋に着くころには落ち着くはず。静かな礼拝堂をゆっくりめに歩いて、もう少し心を落ち着けよう。


 ドアを押し開けると、変わらない礼拝堂が見えてくる。後ろ手にドアを閉め、その場で少し辺りを見回した。


 木で出来た簡素な長椅子が並び、真ん中には通路。室内はやや薄暗いけれど、深い壁を穿った穴から拡散しながら入り込む光で幻想的な雰囲気となっていた。

 夜になるとロウソクが灯って、昼とはまた違った幻想的な空間になる。私は昼のこの光景が好き。程よく明るくて、静かで、厳かで。心が洗われるような気がするから。


 自分の足音だけを響かせながら礼拝堂内を歩く。そのおかげで、シスターの部屋の前に着いた時にはだいぶ冷静になれていた。

 後でちゃんとシルヴィオに謝らないと。大丈夫、説明したらきっとわかってもらえる。シルヴィオを信じなきゃ。


 心の中で自分に語り掛けながらシスターの部屋のドアをノックした。


「シスター、エマです」


 ドア越しに声をかけると、いつもここでシスターの返事が聞こえてくる。それなのに、今はいつまで待っても声が返って来ない。

 もしかして、今はいないのかな? でも、この時間はいつもならここで仕事をしているはずなのに。


 もう一度声をかけても返事はない。おかしいな……。その時、部屋の中から小さなカタン、という音が聞こえてきた。ということは、人がいるってことで……。


 ま、まさか、シスターが倒れているとか!? 嫌な予感が過り、私は慌ててもう一度声をかけた。


「シスター!? いるんですか? あの、入りますよ!?」

「だ、ダメよ!」


 そしてドアに手をかけ、押し開けたのと同時にシスターの悲痛な叫び。

 え? と思う間もなく、室内から伸ばされた手に私は思い切り引き寄せられ、気付いた時には後ろから腕を回されて口を覆われていた。な、な、何……っ!?


「ああっ、エマ……!」

「困りますね、シスター。大声を出されては気付かれてしまいます」


 困惑した頭で室内を見回すと、そこにはこの部屋に似合わない軍服を着た五人の男が立っていた。

 その内の二人はシスターの近くで彼女を監視しており、残りの二人が私を拘束している。よく見れば、シスターは執務机の椅子に縄で縛りつけられているのがわかった。


「初めまして、聖女様。手荒な真似をして申し訳ありません。ですが、こうするしかなかったのです」


  一人だけ軍服とは違う、落ち着いた深い緑の礼服を着た男の人が丁寧な所作で近付いてきた。緊張が走り、身体が硬直する。


「貴女方を傷付ける気はありません。ただ、我が主がどうしても貴女と話したいと。アンドリュー様に何度もお願い申し上げていたのですが、了承していただけず……。仕方なく、直接お伺いしたのです」


 どことなく見覚えのある軍服、そしてこの人の佇まいや雰囲気。胸ポケットに輝く紋章……。

 そして、アンドリューの名前。この人たちはもしかして!


「ああ、ご挨拶が遅れました。私、現宰相を務めておりますルチオ・セスティーニと申します。どうぞ、ルチオとお呼びください」


 やっぱり、国王派の人だ……! それがわかった瞬間、内部から突き上げられるような恐怖を感じた。

 宰相ルチオは、口を抑えられては呼ぶことも出来ませんよね、と眉尻を下げているけど……絶対に悪いとか思ってなさそう。


「聖女様、貴女が大人しく我々に着いて来てくださるなら、このまま静かに引き上げます。もちろん、シスターも無傷で解放いたします。貴女も、あまり騒ぎは起こしたくないでしょう?」


 拒否権などないと言わんばかりのその内容に、私は頷くことしか出来なかった。

 目が、目が笑っていませんけど! 怖いのですけどっ!!


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