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つい涙腺が緩んでしまいます


 私の不安をよそに、シルヴィオはマイペースに私の世話を焼き、ギディオンもマイペースに食事を摂りつつ出発までの時間を過ごした。

 ギディオンはそうでもないけれど、シルヴィオがあからさまにギディオンをいないものとして扱うので私は気が気ではない。


「ふわぁ、おはよー。みんな早いねー」

「あ、おはようございます、カノア。すみません、早起きしてもらっちゃって」


 しばらくすると、眠そうに目を擦りながらダイニングにカノアがやってきた。

 んー? とこちらに顔を向けつつ首を傾げた拍子に、モノクルを繋ぐチェーンがシャラッと鳴る。


「別にぃ。ドアを出す約束だったし。また寝直すから」


 どこか寝ぼけた様子のカノアは少し可愛い。あ、寝癖がついてる。


「そんな調子で大丈夫ですか、カノア。ちゃんと教会へのドアを開けられます?」

「だぁいじょうぶ。そんなの寝ていても出せるくらい簡単だからー」


 シルヴィオの心配にも目を擦りながら返事をしたカノアは、片手でちょちょいとドアを出した。ほ、本当に簡単に出すなぁ。


「じゃ、戻ってきたらちゃんとドアを閉めてね」


 例のごとく、このドアは私たちしか通れない仕組みになっており、館に戻って閉めたら消えるという便利な仕様。

 そもそも、他の人にはドアを視認することさえ出来ないっていうからすごいよね。魔法って本当に不思議。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい! あ、ギディオンも、よろしくお願いしますね」

「ヒヒヒッ、覚えていてくれたんだ? ありがたいねぇ」

「チッ」


 シルヴィオに促され、ドアを通り抜ける。あわよくばギディオンを置いて行こうと思っていたのだろう、私が彼に声をかけたら舌打ちをしていたけれど聞かなかったことにします……!


 ビクビクしながらも一歩通り抜けると、フワッと鼻腔をくすぐる草の香り。私の黒髪が風に吹かれて微かに揺れ、所々で銀色に変わった部分が陽の光を受けてキラキラと輝いていた。


 そして、目の前には懐かしい光景。


「きょ、教会だぁ……!」


 懐かしい建物を目にした瞬間、私は思わず駆け出した。実際にはそこまでの時間は経っていないんだけど、気持ち的には数年ぶりだよ!


 シルヴィオがすぐ後ろから追いかけてきてくれているのがわかったけれど、足は止まらない。ごめんね、でも今だけ許して! そう思いながら走り続け、やがて広場でワイワイと遊ぶ子どもたちの姿が目に入ってきた。


「みんなーっ!!」


 我慢出来ずに叫ぶと、その声を拾った子どもたちが一斉にこちらに顔を向けた。大きく手を振りながら駆け寄ると、「エマお姉ちゃんだ!」「帰ってきたぁ!」という声が私の耳に届く。


 次第にその姿が近付いてくると、可愛い獣の耳や尻尾がよく見え、顔が綻ぶ。


「エマお姉ちゃんっ!!」

「みんな! 久しぶり。元気にしていた?」


 最初に飛びついてきたのはメアリー。狼なだけあって走るのがすごく速い。大きな耳が頰に触れてちょっぴりくすぐったい。

 続いてクマ耳のダニエルがよちよち歩きのミサーナを抱えて駆け寄ってきてくれた。さすがクマさん、力持ちだから抱っこが安定しているね。


 この二人は子ども組の中でも年長さん。しっかり年下の面倒を見ているんだなぁ、って感じて胸がいっぱいになる。


 それからあっという間に子どもたちに囲まれて、私は質問攻めにあっていた。でもうるさいだなんてまったく思わない!

 こんな風に出迎えてくれるなんて嬉しすぎるよぉ!


「心配したんだよ? 大丈夫? 元気だった?」

「突然いなくなるんだもん、すっごく悲しかったんだからな!」

「エマおねーちゃ、どこいってたの?」

「みんなごめんね、本当に。でもほら、この通り私は元気だよ」


 嬉しそうに笑ったり、心配そうにしたり、少しだけ怒ったり、子どもたちは目まぐるしくその表情を変えてたくさん話しかけてくれる。うぅ、可愛い!


「エマ! 良かった。思っていたよりずっと元気そう」

「か、カラぁ……!」


 一番最後に、とても安心したような顔でカラが声をかけてくれた。なんだかその顔を見た瞬間、込み上げてくるものがあってつい涙目になってしまう。


「もうっ、泣かないでよ。そんなことされたらあたしも泣けてきちゃうじゃないの……!」

「うぅ、ごめん。だって、嬉しいんだもの」


 私たちが二人して泣き始めると、子どもたちがみんなしてハンカチを差し出してくれたから余計に泣いてしまった。みんな、優しい子たちっ!


「グスッ、いい加減に泣き止まないといけないわね。幻獣人様も待っていらっしゃるし」

「あ! そうだった!」


 つい自分達だけで盛り上がって、シルヴィオとギディオンのことが頭から抜けてしまっていたよ。本当にごめんなさい。


 すぐに振り返って改めてみんなに二人のことを紹介すると、子どもたちは興味津々で二人のことを観察し始めた。

 とはいえ、シルヴィオとは面識があるから、初めて見るギディオンに注目が集まっているけれど。


「子どもたち、あの毒……ギディオンは少し意地悪な人なのであまり近付かないようにしてくださいね」

「えー、意地悪なの? 幻獣人様は、僕たちを守ってくれるのに?」

「お目目が見えないねぇ。どうして隠しているの?」

「どうして意地悪するの?」


 シルヴィオが本音をどうにか隠しながらみんなにやんわりと注意をすると、さすが子どもは好奇心の塊というべきか、余計に気になってたくさんの質問がギディオンに飛ぶ。

 だ、だ、大丈夫かなぁ? ソッとギディオンに目を向けると、意外にも彼は面白そうに口元に笑みを浮かべていた。

 これなら安心かな、そう思いかけた時。


「あ、たぶん余計なことを言いますよ、あいつ。今から」


 シルヴィオがスッと真顔になってそう呟いた。えっ、そうなの!? ちょ、余計なことって何!?


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