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やはり不安は拭えません

※本日2話目の更新です。


 目を覚ました時、私は泣いていた。

 上半身を起こしながら涙を拭い、今見たばかりの夢を思い返す。


「お姉ちゃん。そうだ、あの子は私のお姉ちゃんだ。だからいつでも側にいて、私を守ってくれていた……」


 うん、顔も覚えている。私と同じ黒髪で、長さも今の私と同じくらいだったかな。ただ、私よりも癖のある髪質で、パーマがかかっているように見えたっけ。


 いつも笑顔で、明るくて、自信に満ちた顔をしていた。

 でも、お姉ちゃんは大丈夫だったのかな? 私は家で、たぶん……両親に虐げられていた。

 一緒に暮らしていたなら、お姉ちゃんも同じように嫌な目に遭っていたんじゃないかな? だというのにあれだけ明るく振舞えるのは、すごい精神力だ。


 私とは大違い……。自分の情けなさに落ち込んでしまう。


「ああ、ダメ。それ以上は思い出せない……」


 細かい事情は相変わらずわからない。自分がどのように虐げられていたのかも。

 でもたぶん、この部分は思い出さない方がいい気がする。自分が痛めつけられる記憶なんて、知らない方がいいに決まっているもの。


 緩慢な動きで私はベッドを下り、顔を洗いにいく。鏡に映った私はまだどことなく沈んだ顔をしていたけれど、目元は腫れておらず、泣いていたとはわからないはず。


 気持ちを切り替えなきゃ。だって今日はようやく教会に行ける日なんだから。

 シスターやカラ、子どもたちに久しぶりに会うのに、こんな顔をしていたら台無しだもの。


「そう、楽しみ。そうでしょ、エマ? 今日は楽しみな日なんだよ」


 鏡の自分に向かって声をかけると、ちょっとずつ表情が解れていく。よしよし、これでいい。


「ただ、ギディオンが一緒っていうのが少しだけ不安だけれど……」


 シルヴィオがものすごく警戒していたなぁ。アンドリューでさえ最後まで心配していたっけ。


『心配性だねぇ? いいよ、それじゃあ契約してあげよう。明日は一日、聖女サンには触れない。自分からは話しかけない。ね? これならどう?』

『いざとなったらエマを守る、これも付け加えられるか』

『ヒヒヒッ、いいよ。いやぁ、楽しみだなぁ。エマサンと教会にお出かけだなんてさ』


 それで、本当に魔法を使った契約まで交わしちゃったんだよね。それはそれで複雑な気持ちになったよ……。

 しかも、そこまでしたのにみんなが揃って胡散臭そうな目でギディオンを見ていたから、私まで不安になっちゃったんだよね。

 当の本人はそんな視線を気にすることなく、鼻歌交じりでまた部屋に戻ったんだけれど。


 ギディオン、本当に貴方は何を考えているの? 今日でそれが少しでもわかるといいなぁ。


 考えていたって仕方ない。身支度を終えた私は一度大きく深呼吸をしてから部屋を出た。


「! ぎ、ギディオン!?」


 部屋から出ると、数メートル離れた廊下の壁にギディオンがもたれかかるように立っていた。毛先が緑の灰色の髪は、今日も変わらず彼の目を隠している。

 ビックリして思わず声をかけると、ギディオンは口元だけでニタァッと笑い、私の方に顔を向けた。


「なんだい、エマサン?」


 そして、それだけを口にした。あ、そうか。今日は一日、彼は自分から私に話しかけることは出来ないんだっけ。でも今、私が先に彼の名を呼んだから返事をしたんだ。契約をちゃんと守っている。


「お、おはようございます。朝、早いんですね……?」

「ヒヒヒッ。ああ、おはよう。まぁね。お出かけが楽しみでさ」


 ……会話が終わってしまった。それがギディオンの本心かはわからないけれど、別におかしな会話ではない、よね?


「あ、あの、これから下で朝食の準備をしますけど……一緒に食べます、か?」

「それはそれは、お優しいねぇ。さすがは聖女サンだ。それとも僕を懐柔させる作戦なのかなぁ? だとしたら、それは打算って言うんだけどねぇ……?」


 ギディオンったら、大げさな身振り手振りで答えるものだから、まるで舞台俳優さんみたい。そう思ったらついおかしくなって、フフッと笑っちゃった。


 って、笑っちゃダメじゃない!? かなり失礼だったかも!

 慌ててギディオンを見ると、口をポカンと開けて固まっている。し、しまった。嫌な気持ちにさせちゃったかな……?


「ごっ、ごめんなさい。えっと、じゃあ、一階に行きましょうか!」

「……ふぅん、なかなか手強いねぇ」


 手強いって、何がだろうか。自分で言うのもなんだけど、私ってかなり単純だし騙されやすい、いわゆるちょろいヤツだと思うのですが。


 本当にギディオンの真意が掴めなくて、ドキドキしながら前を歩く。律儀に彼は私から数メートルの距離を保ちながらついて来ているみたいだけど、なんとなく緊張した。


「エマ様! 大丈夫でしたか!?」

「お、おはようございます、シルヴィオ……。あ、あの、大げさですよ?」


 階段を下りている途中、すでに一階にいたシルヴィオが私の姿を見付けるとパァッと笑顔を見せ、そして背後のギディオンを見付けると血相を変えて駆け付けてきた。

 その速さたるや風の如し。白い影しか認識出来なかったよ……。いや、本当に大げさな。


「何もされていませんか? 嫌なことを言われたりは!? ああっ、オレとしたことが! エマ様の部屋の前で待っているべきでした! 先に朝食をご用意しておこうと思ったばっかりに!!」

「ヒヒヒッ、酷いなぁ。昨日契約もしたじゃないか。僕に何が出来るっていうのさ」

「存在だけで悪影響を及ぼしかねねぇだろうが。毒野郎は黙っていやがれ」


 あ、相変わらず豹変っぷりがえぐい。シルヴィオはまたパッと私に優しい笑みを向けると、ギディオンの視線から守るように腕を回して階下までエスコートしてくれた。


 うーん、今日一日、先が思いやられるなぁ。だ、大丈夫かな?


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