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思いがけず朗報を聞けました


 セイの都市に向かい、マティアスとギディオンという二人の幻獣人を解放してから七日程。私は館で平和な日々を送っていた。


 ……平和な、日々を。


「散れ、毒野郎」

「ヒヒッ、今日もダメかぁ。僕はただ、エマサンと話がしたいだけなのになぁ?」

「必要がねぇって何度言わせんだ、あぁっ!? いいからさっさとエマ様の視界から消え失せろ!」


 ……いやぁ、平和な日々ですね。

 嘘です、表向きが平和なだけです、すみません。


 いや、これといった被害が出ていない、という点では平和と言えるんだけど。今みたいにギディオンが私に近付いてはシルヴィオに追い返される、というのが頻繁に起きているんだよね……。


「あの、話くらいならしてもいいと思うんですが……」

「甘いです。エマ様はお優しすぎるので、すぐギディオンの言葉を信じてしまうでしょう? 現に、今も同情しているではありませんか。知らない間に術中にハマるのが目に浮かびますっ!」


 否定は出来ない……! それならせめて、シルヴィオも一緒に会話を、という試みもしたんだけど、人の神経を逆撫でするギディオンの言動にシルヴィオがすぐ腹を立ててしまうから、数秒と持たないんだよね。これではギディオンを知るタイミングが掴めない。


 私だって、別に無理に交流をしたいとは思っていない。そもそも人との会話は苦手だし。交流っていったって、どうしたらいいのかわからずに黙るコミュ障だし。

 ただ、どうせ聖女の仕事をしなければならないのだから、いざという時のための憂いを少しでも減らしたいだけなのです。


 与えられた仕事はやらないと。色々逃れられないのは理解してきたし、私にだってそのくらいの責任感はあるつもり。……聖女ではないけどっ!


 でもなぁ、ギディオンに関しては前聖女も苦労したっていうし難しそうだよね。まず普通の会話がとんでもなく困難。はぁ……。


「ただいまーっと! やーっぱマティーがいるだけで狩りが捗るねー! めっちゃ楽しいんだけどー」

「はぁ、こっちは脅かしてそっちに追い込むだけだから楽でいいけど、便利道具扱いされるのは癪ね」


 ギディオンが去ったところで、今日も禍獣の討伐に向かってくれていたリーアンとマティアスが戻ってきた。

 一人の時もウキウキしていたけれど、マティアスと一緒の討伐になってからはリーアンがものすごく楽しそう。


 最初は心底嫌そうにしていたマティアスだったけど、素直に同行してくれて本当に助かります! 嫌そうだった理由は言わずもがな、リーアンと一緒、という部分である。うるさそうにいつも耳を押さえているからね。


 嫌な仕事をさせて申し訳ない気持ちはあるけれど、増えすぎた禍獣の討伐をものすごい勢いで進めてくれているので二人体制にして正解だとは思う。

 だからこそ、ちゃんとマティアスが好きなことをして過ごす時間は多めに確保してあげたいところです。バスタイムとかね!


「ところでダメ聖女。次の幻獣人を解放しにいかなくていいの? 早くメンバーをそろえておくに越したことはないでしょ」

「そうですね。そろそろ向かいたいとは思うのですが……。最近、アンドリューと話せていなくて」


 魔力補充用の魔石と補充済みの魔石を受け渡したり、カノアのケーキを受け取ったりなどでアンドリューの部屋には行くんだけど、本人とは会えずにいる。たぶん忙しいんだろうな。


「なんでアンドリューが出てくるのよ。解放するのに許可なんかいらないでしょ」

「許可はいらないと思いますが、その、現状報告はした方がいいと思って。何かあった時に、お互いの状況を知らないと困ることもあるでしょうし……」


 アンドリューが知っているのはマティアスとギディオンの解放まで。だからひとまずそこが完了したことを報告してから次に進んだ方がいいかなぁと。だからお休みも兼ねてアンドリューからの連絡を待っていたんだけど……。


「オレっちは別にどっちでもいいけどさー。ことを早く進めたがってたのはアンディーじゃん。気にせずやっていいって言うと思うけどー?」

「そ、それも思うんですよね……」


 リーアンの言うように、待っている時間さえ惜しい気もするのは確かなのです。

 だけど、ほら。私はこんな性格だから、率先して次はこうします! って言えるようなタイプじゃないんですよね! リーダー資質がゼロなんです! 人から指示してもらわないと不安なんですぅぅぅ!!


「だからここはさー、ビシッとエマチャンが次に行こうって指示だしてよー!」

「ひえぇ……」


 リーアンが肩を組んできそうな勢いで近付いてきたけど、シルヴィオが恐るべきスピードでその手を払った。起こった風で髪がフワリと舞い上がる。


 そんななんとも言えない雰囲気が漂ったその時、アンドリューの部屋と繋げていた扉が向こう側から開かれる。

 開けたのはもちろん……!


「アンドリュー!」

「ああ、久しいな。しばらく連絡が出来ずにすまない」


 救世主ーっ! 両手を組んで祈るように彼の名を呼ぶと、シルヴィオの舌打ちが至近距離で聞こえてきた。


 と、ともあれ、これで少し話が進められそう。そう安心した時、アンドリューから真っ先に告げられたのは思いがけない朗報だった。


「エマ。一時的にではあるが、教会に行けることになったぞ」

「え。ええっ!? 本当ですか!?」


 私が思わず立ち上がると、みんなの驚いたような丸い目がこちらに向けられる。あ、ちょ、ちょっと声が大きすぎたかも……? 注目を集めてしまって慌てて縮こまって椅子に座る。

 でも、久しぶりにみんなに会えるんだもの。嬉しい気持ちが堪えられないよー! シスターにカラ、子どもたちは元気かな?


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