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お茶の間にお話しました


 シルヴィオが用意してくれたのは二種類の焼き菓子とお茶だった。余った時間で作っていたのだそう。本当に多才ですね……。

 しっとりとしたパウンドケーキにはドライフルーツが入っているし、シンプルなクッキーはサクサクとした歯応えで紅茶によく合う。疲れた後の甘味というのもあって美味しすぎるぅ。


「……」

「カノアも食べます?」

「……いいの? エマ、優しい」


 クリームのたくさん乗ったホールケーキを抱えるように食べていたカノアがこちらをずっと見ていたので思わず声をかけちゃった。本当に甘いものが好きなんだなぁ。

 でも、そんなに大きなケーキを一人で食べ切るなんて私には無理だ。途中で胸焼けしそう。美味しそうだけれど。


「……エマも、ケーキ、食べ、る……?」


 別のお皿にパウンドケーキとクッキーを取り分けていると、カノアがぐぬぬと唸りながらそんなことを言ってくれた。本当は分けたくないのだろう。

 それでも自分だけもらうのはどうかと思ってくれたのが伝わって笑ってしまった。


「ううん、気持ちだけもらっておきますね。ありがとうございます、カノア」

「そう? ……じゃあ、今度別の形で借りを返すね」


 私が断ると、明らかにホッとしたように息を吐いたカノア。それでも、借りは今度返すだなんて意外と律儀だな。


「エマ様は優しすぎますよ。見返りもなく分け与えるなんて。カノアはまだマシな方ですが、他の者なら搾取するだけしていきますから」

「それは本当にそう。エマは色んな意味で危なっかしい」


 そんなにだろうか。危機感がないのは、私が平和な国で育ってきたからだよね、きっと。それに、見返りを求めずに親切にするのは教会のみんなだって当てはまる。

 確かに搾取され続けるのはさすがにどうかと思うけど、焼き菓子の一つや二つでそこまで大ごとにしなくても。


「やはりオレがしっかりと目を光らせておかないと」

「あ、僕はもう付き添いとかやらないからね。エマの護衛はすごく神経使ったんだから。こんなに疲れるなら魔石作業の方がマシ。ただなー、人型だと魔力補充もすっごく疲れるんだよねー」


 すごく気遣ってくれたものね……。時々、危なかったけど。放り投げられたし。

 魔力補充、カノアは苦手なのかぁ。そういえばマティアスも、カノアは力加減が苦手だって言っていたっけ。


「カノアは人型になると、力が大きすぎるか少なすぎになってしまう、って聞いたんですけど……大きすぎるとやっぱり不都合が多いんですか?」

「ちょっと違う。少なすぎる方の選択肢しか取れないんだよ」


 あれ、そうなの? 聞いた話だと、仕方なく魔力をかなり封じられる方をとった、みたいなニュアンスだったけど。


「元の力のまま人型になるか、かなり制限されるかしか出来ないっていうのは確かに事実だけど、人型に力が収まりきらなくて姿を保てない。周辺の土地もろとも爆発する」

「ば、爆発!?」

「そう。あれはかなり痛かった。もうやらない」

「あー、あの時のカノアは確かに瀕死でしたよね。治すのにも時間が少しかかりました」


 いや、その話を聞く限りだとかなり痛いとかいうレベルで済む話じゃない気がするのですが。そっか、その時はシルヴィオが助けてくれたんだね。

 チラッと視線でさらなる説明を求めると、目の合ったシルヴィオが心得たとばかりに微笑みながら頷く。


「それほど、カノアの力は膨大すぎるんですよ。我々、幻獣人の目から見てもカノアの力は規格外ですから。オレも人型ですと本来の力を発揮出来ませんが、ある意味、暴発を防ぐ一種の防衛機能みたいなものが勝手に作動しているのだと思います。カノアの場合、そのリミッターもろとも吹き飛ばす勢いになってしまうのかもしれません。仮定ですが」

「ほーんと不便だよねー。この姿のまま力を解放出来たらいいのに」

「本来の姿だと細かな制御が出来ませんしね。真の力をこの姿の制御力で扱えたら完璧なのですけれど」


 へぇ、万能に思える幻獣人にもそんな悩みがあったんだね。力があればいいってわけじゃないのか。

 でも、確かに制御出来ない力は持て余しそう。


「それが出来たら、ギディオンの魔の手からエマ様をお守りするのも容易なのですがね」

「ギディオンが相手だったら、シルヴィオは能力的にも圧倒的に有利じゃない」

「より万全でいたいのですよ」


 有利なのか。確かギディオンは毒を扱うんだっけ。それなら癒しの力を使うシルヴィオは無効化してしまえるのかもしれないな。

 少し気になって訊ねると、そうだという肯定がカノアから返ってくる。


「ギディオンはその目を見てしまうだけで毒を浴びるんだけどさ、毒の種類も自由自在に扱えるみたいなんだよね。当然、触れるのもダメ。なんなら近付くのもやめた方がいいよ。気化した毒でさっきはぼんやりしていたじゃない? それで、触れられそうになった」


 さっき変な感覚が襲ったのはギディオンの毒だったんだ!?

 わぁ、本当に油断も隙もないなぁ。その気になれば本当に誰でも毒にやられてしまうのでは……?


「オレは毒、というか怪我や死の予感には敏感なので、絶対にエマ様をお守り出来ますよ。いいですか? 絶対にオレから離れないでくださいね?」

「あ、側にいるのはマティアスでもいいよ。あの人、なんだかんだいって弱者を放って置けないタチだから」

「カノア? オレ以外の男の名を上げるの、やめてもらえます?」


 目の前では二人がまだあれこれと言い合いをしているけれど、おかげでよくわかりました。

 ギディオンがどういう人なのかがもっとわかるまで、出来るだけシルヴィオとマティアスの側にいるようにします!


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