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不思議と怖くはないことに気付きました


 とてつもない速さで景色が変わっていく。さっきは水中だったなぁ。マティアスったら陸上を走るのもとんでもなく速いんだね。驚いた。


 走り出した時はビックリしたのもあって怖かったけど、意外にも走っている間はあまり怖くなかった。というのも、マティアスの運び方がとても上手だから。

 突然の方向転換もないし、こんなに速く走っているのに振動もほとんどない。とても片腕で抱えているとは思えないな。


「シルヴィオみたい」

「は? 何? アタシがシルヴィオみたいですって?」


 うっかり思っていることが口に出ていたみたいだ。キュッと美しい眉間にシワが寄ったマティアスを見て一瞬ビクッと肩を震わせ、慌てて言葉を選ぶ。


「あの、気を悪くしたのならごめんなさい。その、運び方がとても丁寧だから、つい」


 片腕抱っこ状態なので逃げることも出来ず、ヒヤヒヤしながら告げるとマティアスはチラッとこちらに目を向けて軽くため息を吐いた。すみません。


「あんな女好きと一緒にされちゃたまんないわ。まぁ、紳士的なのは確かだけれど、女とみれば誰彼構わず特別扱いするのはちょっとねぇ。聖女命なとこあるし、ちょっと変態っぽいじゃない」


 結構、言うー! でも間違いではない。いや、女好きっていうよりはフェミニストって感じだけど、マティアスにしてみれば同じなのかもしれなぁ。


「単純に体幹の鍛え方が違うだけよ。この程度でブレるようなやわな鍛え方はしてないの」

「そ、そうなんですね……」

「アンタは抱えているだけでわかるけど、本っ当に肉がないわね。筋肉はおろか贅肉もないなんて、骨と皮なんじゃないの」

「す、すみません」


 さすがに骨と皮は言い過ぎだと思うんだけどな。マティアスの首に回す右の二の腕を左手で摘まむ。あ、うん。筋肉がないのは確かだ。

 そんなことをしている私に、マティアスはついでに言ってしまうけど、と言葉を続けた。


「いちいち謝ってくるの、やめてもらえない?」

「えっ」


 そのままの勢いですみません、と言ってしまいそうになるのをグッと堪える。危ない、言われた側から言うところだった。

 でもジトッとした目で睨まれたからそれもお見通しなのだろう。……すみません。


「アンタ、アタシが怖いの?」


 それから、前を向いてポツリと呟く。マティアスが怖いか、って? 改めて聞かれると、どうなんだろう。

 そもそも、この世界の人たちは人間である私より遥かに強い。教会に住むカラやシスター、もしかすると子どもたち相手でも下手したら大怪我を負う可能性があるくらい。そもそも、種族柄人間とは膂力が違うから。


 ましてや幻獣人ともなると、もはや異次元の強さ。ちょっと手首を捻っただけで私は死ぬ。それはわかっているんだけど……。


「……いえ、怖いとかは、ないですね。あまり考えたこともなかった」


 死ぬことが怖くないわけじゃない。むしろ怖い。リーアンと飛んだ時も怖かったし、カノアと水中を移動するのも怖かった。

 禍獣を見てその恐ろしさにも震えたし、そう感じるってことは死ぬのは怖いって思っているってことだ。


 でも、不思議とこの世界の人たちを見て怖いと思うことはない。そりゃあ最初は怖かったけど、改めてそう考えた時に恐怖を感じないというか。それは、敵対している国王派の人たちを見てもそうだ。

 平和ボケしているんだろうな。危機感が足りないのかもしれない。


「危なっかしすぎるわ……」

「すみま……あ、えっと」

「そこは反省すべきところだからいいけど、アタシに謝られてもね」


 危機感を持て、ということですね。気を付けます……。でも、幻獣人の皆さんも今のところなんだかんだで優しいから、怖がる要素がないんだよね。


 だけど、それを言ったらまた怒られる気がしたので私は黙って、勢いよく通り過ぎていく景色を眺めることにした。




「着いたわ。あ、でもアタシの腕を掴んでいなさい。魔道具の効果が切れるから」

「は、はい。ありがとうございました」


 開けた場所に到着すると、マティアスはそっと私を地面に下ろす。なるほど、この魔道具の効果は触れた相手にも有効なんだものね。

 身体を離して腕に掴まるだけにしようと思ったのだけど、マティアスはそれを許さずグイッと私の身体を引き寄せる。


「離れるなと言ったでしょう。雨や泥で汚れるじゃない。もっと密着しないと効果は発揮されないのよ」

「あ、そうなんですね」


 ただ掴んでいればいいというわけではなかったようだ。私は言われた通り、マティアスのうでに抱きつく形でしがみつく。ちょっと恥ずかしいし歩きにくいです。身長差ぁ。


 気にしたらキリがない。諦めて先に進もう。

 さて、到着した雨の谷はさっきほどの鬱蒼とした雰囲気はないけれど、相変わらずジメジメした場所だ。

 木々は少ないけど芝生が広がっていて、当然水溜まりだらけなので歩くたびに水と泥が跳ねる。これはマティアスじゃなくても歩くのに気を遣うよ。魔道具がなかったらドロドロだ。


 それにしても、次の封印場所はどこになるんだろう。見渡す限り湿地帯でこれといって目印になる物は見当たらない。

 マティアスの時みたいに泉の中かな? とも思うけど、ここは水溜まりだらけで泉どころか池も見えない。


「あと少し進めば着くわ。ほら、さっさと歩きなさいな」

「は、はいっ」


 だけど、どうもマティアスは目的地がわかっているみたいだ。それならあれこれ考えてないで黙って付いて行こう。

 私たちは二人、バシャバシャと音を立てて歩きながらギディオンの封印場所へと向かった。


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[一言] シルヴィオ、知らないとこでディスされる 『くしゅんっ!…はっ!エマ様が噂している…!?』
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