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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
私だってちょっとは頑張ります! しつこいようですが聖女ではないです。
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希望の光に見えました


「エマ、さっきみたいに僕にしがみついて。マティアスの尻尾に掴まるから」

「え? あ、わかりました!」


 おそらく、泳いで浮上するよりも掴まっていった方が速いと判断したのだろう。確かに私もそう思う。言われるがまま、すぐにカノアの背にしがみつく。


 カノアは思い切りサンゴ礁を足で蹴ると、一気にリヴァイアサンの尻尾に掴まった。その瞬間、グンッと引っ張られる感覚が全身を襲う。うっ、ここで離したらやばい。私はさらにギュッと首に回した腕の力を強めた。


 数十秒ほどゴボゴボという激しい水の音を聞き、あっという間に視界が明るくなる。まるでクジラが水上ジャンプを決めたかのように波が立って、尻尾にしがみついていた私たちも一気に空へと打ち上げられた。


「あっ」

「へっ?」


 その瞬間、手が滑ったのかカノアが尻尾から手を離してしまう。ここは水面からかなり高い空中だ。ああああ、落ちたら死んじゃうっ!


「よっと」

「きゃあっ!?」


 そんな時、カノアはあろうことか背中にしがみついていた私の腕を離し、軽く放り投げた。そしてそのまま両腕で私を横抱きにキャッチすると、背中からバサッと黒い翼を出す。

 そ、そうだった。カノアは飛べるんだ。でも心臓に悪いよ!? 器用だけど! 助かったけどぉ!


 そのまま地面にそっと降り立ったことで、ようやく私の心も落ち着いた。もう水中も空中も行きたくないです。この先の封印場所は安全な陸地でお願いします……。淡い期待ですよね、わかってます。


「久しぶり、マティアス。待ってた?」


 カノアがそう声をかけたことでハッと顔を上げる。見ると、大きなリヴァイアサンから人型へと変化している最中だった。

 何度見ても不思議な光景だな。光が少しずつ収まっていく様子は神秘的だ。今回は藍色と水色の光だったね。ということは、髪の色もそんな感じかな?


 そんな私の予想は大当たり。完全な人型になったマティアスは緩やかなパーマがかかっているような藍色の髪をしていた。前髪も含めて全体的に顎下くらいの長さで、毛先の色は明るい水色。前髪を掻き上げる様子は色っぽく、切れ長の瞳も相まってとてもシャープなカッコよさがあった。

 身長も高いし、スタイルもいいし、海外のモデルさんみたい。そんな彼が最初に放った一言がこれだ。


「……随分と地味な女ね?」


 だ、第一声がそれ? 私は脱力した。


 歯に衣着せない感じは驚いたけど、ショックなのではなく意外とホッとしている自分がいる。

 たぶん、その通りだからだ。私は本来、地味な女なんですよ。それなのに最近はずっと褒められ続けていたんだもの。ずっと居た堪れなかったんだ。

 それを一目で指摘し、ハッキリ物を言ってくれた。それだけで信用度が上がったよ。


「ああ、カノア。挨拶が遅れたわ。久しぶりね? そろそろ飽きてきたところだったから確かに待っていたわ」

「そっか。なら解放を急いで良かったよ。ね、エマ」

「えっ、は、はい。そうですね……」


 突然話を振られて、声が上擦る。そんな私に再び目を向けたマティアスは、数歩こちらに歩み寄って顔を近付けてきた。まるで値踏みをしているかのようだ。


「カノアが一緒にいて、アタシを解放したってことはこの女が新しい聖女ね? 名前は?」

「え、あ、エマ、です」


 聖女ではないです、というのはひとまず黙っておいた。ややこしくなりそうだし、なんとなく、雰囲気で言い出せなかったんだよね。

 目を細めて一度私から距離を取り、全身をジロジロ見ているから事実、値踏みしているのかもしれない。なんだか下手なことは言えない気がした。


 それにしても、目覚めてすぐにこの状況判断。頭がいいというのは本当のようだ。少々上から目線でズケズケ物を言うタイプな気はするけど、なんというか……ちゃんとしてるって思った。頭の悪い感想だけど。


「ふぅん。素材は悪くないわ。ただ髪がキシキシじゃない。なんで手入れしないのよ。せっかくいいモン持っているのに信じられない! それに姿勢が悪い。もっと胸を張って、顎を引いて!」


 そして、口調が独特だ。オネエ属性? とも思ったけど、女性に見られたいという雰囲気はないし、とても美人さんだけど声からも体格からも男性だと一目でわかる。

 たぶん、こういう人なのだろう。話し方にも違和感がないから気にしないでおこう。


「マティアスが磨いてあげたら?」

「チッ、なんでアタシが地味な女を磨かなきゃなんないのよ。……と言いたいところだけど、聖女なんだものね。やってあげなくもないわ」


 ほら、シャンとしなさい! と言われてビシッと背筋が伸びる。え、磨かれるの? あの、別に私はこのままでもいいのですが。そうは思うものの、とても口が挟めるような雰囲気じゃない。

 グイグイ来られると言われるがままになってしまうんだよね。ど、どうしよう。


「マティアス。とりあえずそれは館に帰ってからにして。この後、ギディオンも解放しに行かなきゃいけないんだよ。面倒臭いから行かなくてもいいかなって僕は思うんだけど」

「あら、そう。はぁ、アタシも気は進まないけど、解放しないわけにはいかないわ」


 す、すごい。聞き分けがいいなんて……! シルヴィオも、リーアンも、カノアも、あわよくばギディオンは解放せずに帰りたい、っていう気持ちが透けて見えたのにそれがないもの。うっ、感動する!


「……アンタ、何をそんなに感動しているのよ」

「い、いえ。とても理性的で、ありがたくて……!」

「あー……。察したわ。苦労したのね。地味な割に根性あるじゃないの」


 しかも苦労を察してくれる。もうそれだけで私はマティアスという人が大好きになりそうだった。うぅ、ありがとう。今後も何卒よろしくお願いします!!


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[一言] マティアス株、急上昇です
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