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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
ちゃんと頑張りますよ? でも聖女と崇めるのはやめてください!

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館の案内をしてもらいました


 昼食を食べ終えると、アンドリューはすぐに城へと戻って行った。

 去り際に、急いではもらいたいけれど、今日の所はのんびり過ごして明日からセイに向かってくれって言っていたな。彼なりに私のことを気遣ってくれたのかもしれない。


 色々と心や頭の整理をする時間がほしかったからホッとした。本当にバタバタと色んなことが起きすぎていたもの。そろそろパンクしそうで……。


 教会でも家事や子どもたちのお世話で忙しかったけれど、平和でのんびりとした暮らしがすでに懐かしい。

 でも昼食の片付けをしている間に、シルヴィオ以外はそれぞれの部屋に戻っていったから、ようやく静かな時間が戻って来た、という感じだ。


「で、エマ様? 今ならオレしかいませんよ? なにかしてほしいことを言うなら今のうちです」


 うっ、またそれかぁ。さっき言われてから何度か同じことを聞かれているんだよね。これはアレだ。シルヴィオが何かをしたくて仕方ないんだと思う。

 もちろん、悪い気はしないよ? 貴女のために役立ちたいんです、って美形さんに言われたらそりゃあ嬉しいもの。ただ、してほしいことがないから困っているだけで。


 たぶん、何か言わないとずっと聞かれそうだな。うーん。……あ、それなら。


「あの、それなら館の案内をしてもらえますか? 広すぎてまだ全部を見て回れていませんし……」


 そう、広すぎるんだよね、ここ。私が見たのは二階の自室と三人の部屋の場所、それからリビングにキッチンや洗面所など、普段使う場所だけ。それ以上を教えられても覚えられない気がしていたから後回しにしていたんだ。


 今日は他にもうやることもない。これから幻獣人もさらに増えることだし、今のうちにどこに何があるかくらいは見ておきたい。


「お安い御用です! そうだ、庭も見て回りましょう。広くて色んな花が咲いていて綺麗ですよ! 外の景色もきっと、エマ様は気に入ってくださると思いますから!」


 私の頼みを聞いたシルヴィオは、パァッと花が咲いたかのような笑顔を見せてくれた。うっ、眩しい! 本当に整った顔立ちだから、浄化されるんじゃないかって思うよ。

 ウキウキとどこからご案内しましょう、とあれこれ考えるシルヴィオに癒される。なんだか私も少しだけ楽しみになってきたかも。私は片付けの手を速めた。


 片付けを終えたところで、お待たせしましたと声をかけると、シルヴィオはにっこり微笑んで自然な動作でスッと手を差し出す。


「お手をどうぞ、エマ様」

「うっ、あ、ありがとう……」


 王子様かな? っていうくらい違和感のない所作だ。実際の王子様であるアンドリューよりもこういう仕草は様になっているかもしれない。

 いやぁ、アンドリューもかなりの男前さんだけど、目つきが鋭くて体格もいいからどちらかというと騎士様っぽさがあるんだよね。


 ドギマギしながら差し出された手に自分の手を乗せると、シルヴィオはそれを割れ物でも扱うかのようにそっと握る。


「では、参りましょう。まずは館の二階から。エマ様の自室から回れば、覚えやすいでしょう?」


 それはとてもありがたい配慮だ。道を覚えるのはあまり得意な方ではないから、自室から出た時の感覚が覚えられるのはすごく助かります。


 というわけで、私たちはまず二階の私の部屋へと向かう。その間に通る部屋はひとまずスルーだ。


 こうしてスタート地点につき、ようやく案内が始まった。廊下の突き当りにある私の部屋を背に歩き始めると、右手に窓、左手側に部屋の扉が並んでいる。

 部屋を出て十歩ほど進んだ先に最初に見えてきた部屋。そこがシルヴィオの部屋らしい。


「聖女様の一番近くにいる権利は、誰にも譲らないと決めているのです」


 理由も大体、予想していた通りだ。ブレないなぁ。


 さらに歩きながら、扉が見えてくる度にそこが誰の部屋かを教えてくれるシルヴィオ。まだ会ったことのない幻獣人の名前もあるから、覚えていられるかなぁ?


「オレの隣の部屋はエトワルです。彼は幻獣人の中でもそこそこ無害ですので。まだ聖女様のお部屋に近いですからね。そして階段を挟んで最初に見えてくる部屋は、次に開放予定のマティアスで、その隣が双子のジュニアスです。その向かい側に図書室がありますよ。本がお好きでしたら見てみてはいかがでしょう?」

「ちょ、ちょっと待って? その言い方だと、部屋割りはシルヴィオが決めたみたいに聞こえるんですけど」

「オレが決めましたよ? 皆がどこでも良い、というのでしっかり考えて決めさせてもらいました。あ、カノアだけは館の持ち主ですので、彼だけの自室がありますけどね」


 やっぱりそうだったんだ。他の人たちも決めてもらえるならその方が楽だったのかも。


 そしてやはり、この館の主はカノアだったんだね。考えてみれば当然か。この空間に来られるのもカノアだけだし。この館がどうやって建てられたのかは謎だけれど。


 さらに探索は続く。階段の反対側にはさきほど教えてもらった双子の部屋があり、向かい側の広い部屋が図書室。それから空室がいくつか。本当に広い……。


 それから突き当りにカノアの部屋。館の主なだけあって、広い特別室なのがよくわかった。


「二階はエマ様と同じフロアになるのです。厄介なヤツらは全員一階の部屋に割り当てましたから、エマ様は安心してお休みいただけますよ!」

「あ、ありがとうございます……?」


 シルヴィオがたくさん考えて部屋を割り振ってくれたのはわかったし、信用はしてるよ?

 ただ、その厄介だという一階に割り当てられた人たちがリーアン以外まだいないんだよねぇ。そのあたりにものすごい不安を覚えた。や、やっていけるかなぁ……?


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