不安しかありませんがやるしかなさそうです
「それでは、次はセイの都市に向かう、ってことでいいですか?」
話が少し途切れたところで私が聞くと、みんなからはそれでいいと返ってくる。
意外とあっさり決まってくれて助かったけれど、私にはセイがどんな場所なのかとか、解放をしようとしているマティアスという人がどんな人物なのかがわからないので曖昧に笑って誤魔化した。
「もう一つ。セイの都市にはギディオンも封印されている。同じ都市にいるのだから、その、彼も解放してもらえないか」
もう少し詳しく話を聞いてみよう、としたところでアンドリューがやや言い難そうにそう告げた。彼の言葉を聞いた幻獣人のみんなは揃ってウッと嫌そうに言葉を詰まらせる。……な、何?
こっそりとアンドリューに説明を求めると、少々性格に難があるのだ、と言われてしまう。すでにここにいる三人がそれなりにアレなんですけどそれは。
「ねー、それってどーしても解放しなきゃダメなのー?」
「いずれは幻獣人様を皆、解放しなくては禍獣の王に太刀打ち出来ないだろう。マティアスの解放のためセイに向かうのだから、二度手間になるよりいいと思うのだが」
「二度手間になってもいい気がするよ、僕は」
リーアンが心から嫌そうにブーブー文句を言っている。カノアに至っては二度手間になった方がマシとさえ言うのだから、かなり不安になってきた。そんなにか。
「絶対にエマ様に失礼な物言いをするじゃないですか。オレも反対ですよ」
「それは……否定出来ないが。ギディオンの能力はかなり重宝するだろう。そこまで嫌がらなくてもいいのではないか?」
シルヴィオでさえ断固拒否の姿勢である。失礼な物言いは覚悟しておかなければならなそうだ……。
「だってギディー、性格めっちゃ悪いじゃーん」
「ずっと目元を隠していて何考えてるのかわからないし、ボソボソ喋るから聞き取りにくい」
「おどおどしている割に頑固で、ズケズケ物を言いますからね」
す、すごい言われようだ……。
でも、おどおどしている割に頑固って辺りに親近感を覚えるよ。ボソボソ喋る、とかも。私にもザックザク刺さる言葉の数々ですよ、皆さん? ズケズケ物を言うかどうかの差だ、私との違いは。
「性格の悪さでいったらシルヴィーといい勝負だよねー」
「失礼ですね。オレのどこが性格悪いというのですか。一緒にしないでください」
さらに幻獣人たちの愚痴は続く。間に入ることも出来ないので黙って聞いていたけど、おかげでギディオンに関してだけ、どんな人なのかが少しずつ見えてきた気がする。
どうやら彼は、正論でザクッと突き刺してくるタイプなようだ。しかも、相手が嫌がるような言葉をわざわざ選んで言ってくるという。
正論なだけに反論もしにくいため、人から嫌われやすい、って感じなのかな。私とはまたタイプの違う根暗さんっぽい。……不安になってきた。でも根暗仲間として興味はある。
「えーっと。セイの都市、というか彼らが封印されている場所はどんなところなんでしょう? 危険があったりは……?」
自分はヤツにこんなことを言われた、などの愚痴大会が開催され始めたので、私はそっとアンドリューの隣に移動して質問をすることに。だって、終わらなさそうなんだもの。
「セイの都市は他の都市に比べてかなり平和だ。特にマティアスが封印されている水の峠は結界がなくとも禍獣が寄り付くことがあまりなかった地になる」
カノアが扉を出せる雲海の街からも徒歩で行けるし、付き添いは誰か一人で十分だろう、とのこと。
へぇ、カノアの扉を出せる場所には決まりがあったんだね。今初めて知った。
「マティアスの解放が済めば、護衛としてこれ以上の適任はいない。問題なくギディオンの封印場所にも行けるだろう」
「……あの。先ほどから薄々、そうじゃないかなー、とは思っていたんですけど。もしかして、今回アンドリューは一緒に来られないんですか?」
しかも話の流れから察するに、今回は幻獣人を一人だけ連れて二人で行け、って言っているように聞こえるんだよね。直接は言われていないんだけど。たぶん、私は人の顔色を読むのが得意なんだ思う。
まぁ、魔石のこともあるし、禍獣の討伐もあるし、人手が足りないのだろうな、って考えればわかるけど!
「ああ、そうだ。近頃は城を離れてばかりだったからな……。だが、マティアスは強いだけでなく頭もいい。少なくともここの三人よりずっと話が通じるヤツだ。一見、変わり者のように見えるかもしれないが……あー、実際も少し変わってはいるが、心配しなくていい」
いや、心配だよ、その言い方じゃ。けど、幻獣人というだけで変わっているだろうことは覚悟していた。話が通じるというだけで安心していいのかもしれない。たぶん。
さて、大体の情報は聞くことが出来た。そろそろ振り分けを決めないと、なんだよね。
まず、禍獣の討伐は間違いなくリーアンだよね。戦闘が得意なのは今のところ彼だけだし。
そうなると、魔石への魔力補充は……シルヴィオ、かなぁ? だってカノアだったら途中で飽きた、って言って他のことを始めそうだもの。うん、目に浮かぶ。
つまり、セイの都市に一緒に来てもらうのは自動的にカノアってことになる。戦う力はないって言っていたけど、いざとなったら扉に逃げ込めるし、危険から逃れる点についてはなんの心配もいらないもんね。
問題は、カノアと二人でちゃんと任務が遂行出来るかってところである。不安しかない。それともう一つ。
「ええええええええ!? なんで付き添いがオレじゃないんですかぁ!? エマ様ぁぁぁ!!」
「ふふん、久しぶりのセイだ。楽しみ。あ、ついでに雲海の街も見て回ろうよ。面白いよ?」
「しれっとデートに誘ってんじゃねぇ黒トカゲ野郎がああんっ!?」
シルヴィオの説得、かなぁ……? あはは、あー、もー、どうしようかなぁ?