今後の方針を話し合いました
アンドリューも増えたところで、再びみんなで話し合うことに。内容は今後のことだ。
でもその前に、城に戻った後、アンドリューは大丈夫だったのか、という辺りも聞いておかないと。自分たちを妨害してきた現国王派もいるのだから。
「結果的に命を救ったからな。こちらの味方になってくれるとまではいかないが、キツイ当たりなどはない。心なしか大人しくなってくれたな」
普段はすれ違いざまに嫌味を言われたり、鼻で笑われたりするのだそう。わかりやすい嫌がらせも日常茶飯事であるため、かなり過ごしやすかった、と余裕の笑みを浮かべるアンドリュー。
そ、想像以上に魔窟で過ごしていたんだね? でも考えてみればそれも当然だよね。同じ城内で派閥が分かれているんだもの。見えないところでドロドロした足の引っ張り合いをしていてもおかしくない。
「対処法もあるし、私には心強い味方もいる。それに、幻獣人様が解放されたことで風向きが変わってきた。こちらのことは心配しなくていい」
「そ、そうかもしれませんが……」
それでも、多数の人から敵視されながら過ごすのはかなり精神力を削られそうだもの。いくら味方がいても嫌な思いをするのは変わらないだろうから、やっぱり心配にもなるってものだ。
「……ああ、そうか。エマは優しいな。ここはそうではなく、お礼を伝えるべきだった。心配してくれて感謝する、エマ」
「い、いえっ、そんな!」
でも、アンドリューはこちらを気遣う様子まで見せてくれる。器の大きさに驚かされるよ。カノアに待たされたというのに笑って許してしまうし、一体どんな風に育ったらここまで心の広い人になれるのだろうか。私だったらすぐ内心で怒って表ではウジウジしちゃうよ。
アンドリューは私の淹れたお茶を一口飲むと、早速だがと話を切り出した。うーん、仕事も早い。今のところ彼に悪い点を見付けられないな。
「今後のことだが、幻獣人様方にはやってもらいたいことが大きく分けて三つある」
アンドリューが告げてくれたことをまとめるとこうだ。
やってもらいたいことの一つは、残る幻獣人を解放しに行く付き添い。要は、私の道案内と護衛である。
二つ目は魔石への魔力補充。魔石を国民に行き渡らせることが、アンドリューの味方を増やすことに繋がり、さらには対禍獣の王へ備えることの第一歩になるものね。
そして三つ目。それは増えている禍獣を討伐すること。うん、これもとても大事だ。少しでも減らしておかないと、それこそ禍獣の王が目覚めた時に甚大な被害が出てしまう。
優先順位なんてつけられない。どれもこれも大事だよね。しいていうなら、幻獣人の解放が急務かな? 人数が増えればその分、残る二つも捗るもの。
「というわけで、ここからは手分けして行動をしてもらいたいのだが……振り分けはエマ、貴女に頼みたい」
「えっ、私ですか!?」
自分が指示を出しても彼らは動いてくれないだろうからと、アンドリューが苦笑を浮かべている。
え、でも禍獣によって世界を滅ぼされるのは彼らだって嫌なはず。そんなに嫌がるなんてことは……。そう思って幻獣人に目を向けて見る。
「え? オレっち、暇なのは嫌だけどー、面倒な仕事を押し付けられるのはもっと嫌だしー?」
「オレはエマ様のご指示にだけ従いますよ」
「僕は気分が乗ったらやってあげてもいい」
ええぇ……。こう、積極的に動こうという人はいないの? 私も人のことはまったく言えないけれど。
というか、シルヴィオ以外は私の指示があったとしても動いてもらえないんじゃ……。思わず顔が引きつってしまう。
でも、アンドリューより私の言うことの方を聞いてくれるっていうのが確かなのはわかる。いざとなったら命令するしかないんだけど、出来ればしたくないんだよね。
と、とりあえずもう少しだけ情報がほしいところだ。私は気になる点をいくつかアンドリューに質問することにした。
「えっと、次に開放する幻獣人は決まっていますか? 出来ればどんな人なのかと、封印されている場所、あとは危険がないかなどを聞かせてもらいたいのですが……」
「ああ、それはそうだな。だが、カノアが解放されたから順番に関してはこれといって決まっていない。扉があればどの都市にもすぐに向かうことが出来るからな」
そっか。この館に来るためにはどうしてもカノアの存在が必要だったから真っ先に開放を、って感じだったけど、残る幻獣人に優先順位はないってことだね。
ただ、誰からでもいいと言われても、選べるほど情報が少ないからそれはそれで難しいな。
「ガウナは? あの子がいると退屈しなくていい」
「えーっ!? あんなイタズラ小僧がいたら仕事を進めるどころじゃなくなるじゃーん。せめてお世話役が解放されてからにしないとー。あ、ジーノっちは? 彼、隠密行動が得意じゃん! 国王派の調査とかしてもらえそー!」
私が悩んでいると、カノアとリーアンがそれぞれ名前をあげていく。ガウナといういたずらっ子と、ジーノっていう隠密が得意な人、か。
すると、出来ればこれ以上の男は増やしたくないんですけどね、とため息を吐きながらシルヴィオが口を挟む。
「まずは戦力の強化が必須でしょう。エマ様をお守りするためにも、禍獣を減らすためにも、戦闘が得意な者の解放が先決では? 今のところ、戦闘を得意とするのは鳥野郎しかいないのですから」
シルヴィオからはごもっともな意見が飛び出した。確かに、禍獣の討伐を進めることを考えたら戦える人がいてくれた方がいいかもしれない。
「それならあの双子が適任じゃね?」
「マティアスとジュニアスですか。いいかもしれませんね」
ふ、双子? 幻獣人って二人といない種族なのにそんなことがあるの?
聞けばこの二種の幻獣人はどうも密接な繋がりがあるらしく、世代交代をしても毎回必ずそっくりな二人が生まれてくるのだそう。
だから双子と呼ばれているだけらしいけど、当人同士も互いを兄弟と認識しているみたい。不思議だなぁ……。
「ただ、この二人が封印されている地はバラバラだぞ」
「それならマティアスを先に解放しましょう。ジュニアスは兄である彼にしか興味がありませんから、マティアスがいた方がスムーズになるかと」
「おー! マティーなら怒らせなきゃいい奴だし、良い人選じゃーん?」
何やら話がまとまってきたみたい。どうやらそのマティアスという幻獣人はセイの都市に封印されているという。
私にはそれがどんな幻獣人でどんな人かはわからないから、その方向で話を進めていこう!




