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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
ちゃんと頑張りますよ? でも聖女と崇めるのはやめてください!
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前聖女について聞かせてもらいました


「前の聖女様のことですか? それならオレが話してあげますって前にも言ったじゃないですか! 酷いです、エマ様!」

「えっ、あの、ごめんなさい! シルヴィオからも、もちろん聞きたいですよ!」


 二人分の朝食を作ったことで、シルヴィオの機嫌も少し戻ってくれた。けど、何の話をしていたのかを聞いたことでまたしても機嫌が急降下。くっ、シルヴィオは難しいっ!

 必死でシルヴィオの話が聞きたいな、と告げるとようやくわかりましたよ、と言ってくれたけど、まだ頬は膨らませたままだ。ご、ごめんって……。


「前の聖女様のお名前は、マリエ様とおっしゃいましたよ」

「そう、マリエ。いつも無駄に動き回ってた」

「カノアは黙っていてくださいっ! 今はオレが! エマ様とお話しているんですからね!」


 カノアは相槌ついでに話しただけだのに、ジャッジが厳しい。リーアンがケラケラ笑いながらシルヴィー面倒くせー! と言っているけどちょっとだけ同意します。

 いや、子どもっぽい独占欲みたいなものを感じて可愛いなって思ったりもするけれど、機嫌が戻るようにあれこれ気を遣うから大変だよー。


 ちなみにカノアは口を手で塞いでシルヴィオの言葉を忠実に守ろうとしている。本当に素直だな……。


 さて、気を取り直して。

 前聖女の名前はマリエ、かぁ。アクセントが頭にあるけど、日本人っぽい名前と言えなくもない。まぁ昨今は色んな名前があるからなんとも言えないけれど。


「この世界の人々は基本的に髪色は単色なんですけど、歴代聖女様は今のエマ様のようにところどころで色が違うのですよ」

「そ、そうなんですか? 世界を渡ったことで何か変化があるのかなって思ったんですけど」


 肩下まで伸びる自分の髪を一房手に取る。……うん。お洒落なハイライトカラーを入れたかのように部分的に銀髪だ。これもまだ慣れないな。


「そうかもしれませんね。でも、世界を渡ってここに来るのは聖女様くらいですので、同じことかと」


 くっ、でも私は聖女とは呼ばせませんよ! 見合わないもの!


 それから、シルヴィオたちのように髪色が毛先に向かうにつれて変わっているのは幻獣人の特徴なんだって。

 これはたとえ髪を切ったとしても、魔力の影響からかすぐに毛先だけ色が変わっていくのだという。なんて神秘的な。


「右手の甲に紋章があるのも特徴だよねー。おかげでエマチャンを一目見た瞬間から、新たな聖女サマだ! って思ったんだー」


 だ、だから三人とも私のことを受け入れるのが早かったんだ……!?

 見知らぬ女がいるというのに、どこか慣れているというか平然としているから不思議だったんだよね。幻獣人は肝が据わっているからかと思っていたけど、違ったんだ。いや、肝も据わっていると思うけど。


「ね、そういえばエマは僕に聞きたいことがあるって言ってなかったっけ? それってマリエの話だったの?」


 あ、そうだった。前聖女の話が興味深くてうっかり忘れるところだったよ。


「黙っていてと言ったでしょう、カノア」

「んー、飽きた。ね、エマ。聞きたいことって何?」


 ムッとするシルヴィオをカノアは華麗にスルーして私だけを見つめている。飽きた、って。自由だなぁ。そのメンタルの強さもすごい。

 シルヴィオが不機嫌になるのは困るけど、聞きたいことがあったのは事実だ。シルヴィオにちょっとだけごめんね、と告げてからカノアに問いかける。


「えっと。私、一度教会に戻りたくて……。その、ここから教会への扉を開けてもらうことって、出来ますか?」


 出来ることはわかっている。だって、渓谷ではちゃんと国王軍を安全な場所へと避難させていたから。

 なのでどちらかというと、行ってもいいですか? というニュアンスが強い。


「出来る」

「そ、そっか」


 ただし、相手は素直なカノア。私の質問には言葉通りに答えてくれた。出来るかどうかを聞いた私が悪いよね。知ってた。


「あまりお勧めは出来ませんね。特に今は国王軍も警戒しているでしょうから。何せ、目の前でドラゴンの解放をしたのです。聖女がいること、そしてオレたちがこの館にいることも知られているでしょう」

「教会で保護されてたってのも調べはついてると思うよ? なんせ、マリエチャンも最初は教会で保護してもらっていたしねー!」


 そうなの? 驚いて目を丸くしていると、聖女はいつも時告げの塔近くの泉で姿を現すからだそう。あの場所と教会は近いもんね……。


 泉が異世界と繋がる場所、みたいな感じなのかな。どうやら一方通行らしいけれど、仕組みは誰もわかっていないという。あの泉に飛び込んだからって元の世界に帰れるわけじゃないってことだね。


 とにかく、今教会に戻るのは危険だからやめた方がいいのはわかった。でも、出来るだけはやくシスターやカラ、子どもたちにも無事なことを伝えたいなぁ。


「そうそう、オレが封印場所を時告げの塔にしたのもそれが理由なのですよ。解放されるには次の聖女様を待つしかありませんでしたから。現れた時、最初に開放してもらえるでしょう?」

「シルヴィーは絶対に時告げの塔にするって譲らなかったよねー! マジ笑える!」


 聖女様には誰よりも早く会いたいじゃないですか、とシルヴィオは当たり前のように言う。そんな経緯があったんだ……?

 いや、今はそれよりも気になることがある。


「あの、前聖女が封印したのなら、解くのも彼女だったんじゃないんですか?」

「いえ、彼女の力は『錠』ですから。封印することは出来ても解くことは出来ません」


 そうなの!? え、じゃあ前聖女が彼らを封印したのは本当に苦肉の策だったんだ。それもこれも、彼らを生かすため。

 でも、幻獣人は代替わりをするんだから、いつ来るかもわからない封印を解く聖女を待つより、世界のためにはリスクが低そうなものだけど。


 ……ううん。そんなの考えなくてもわかることだ。前聖女はきっと、彼らを死なせたくなかったんだ。私でもそう思う気がする。だから、彼らを見捨てるよりも封印の道を選んだんだと思う。


 ただ、とにかくハイリスクだよね? このまま私が現れなかったら、この世界が禍獣に呑み込まれてしまうのに。

 なんで彼女はこの選択をしたんだろう。そこにどんな葛藤があって、どんなやり取りを経て、封印という決断を下したんだろうか。


 それって、聞いてもいいことなのかな。嫌な言い方になるけれど正直、私にはなんの関係もないよね? 彼らと前聖女との関係や思い出について踏み込むのは、なんだか図々しい気がした。


 でも、二十年前に十七歳だったというのなら、まだ前聖女が生きている可能性はあるよね? 何かが起きていない限り。

 会ったばかりのアンドリューの様子から察するに、何かが起きたのは確実っぽいけれど……。亡くなったとか、そういう訃報は聞いていないし。


 ……もしもまだこの世界にいるというのなら、会って話を聞いてみたいな。そう思った。


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