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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
もはや聖女を認めない私が頑固者みたいになっているのですがそれは

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安全ベルトは私の腕です


 ところでリーアンはどこからくるんだろう。あれだけ炎を出して飛んでいたらかなり目立つよね?

 いくらあの二人が囮になってくれているといっても、こちらに向かってくるのがバレたらあんまりよくない気がするんだけど、大丈夫かな?


「お、ま、た、せっ」

「ひゃぁっ、むぐっ!?」


 ドキドキしながら軍勢の方を睨むように見ていたら、背後から突然声をかけられて変な声が出た。そしてすぐに口を塞がれる。


「ちょっとー、エマチャンここで大声はまずいっしょー?」


 そう言ってケラケラ笑うのは、間違いなくリーアンだ。そのことにホッとしたような、ちょっとヒヤヒヤするような。

 と、とにかくもう騒がないから手を離してぇ! ペチペチと口を押さえる手を叩くと、ごめんごめーん、と言いつつ離してくれた。ふぅ。


「まったくー。エマチャンはまだ捕まるわけにはいかないんだから、騒いじゃダメだよ?」


 リーアンは八重歯を見せて笑いながら私の鼻をツンと突く。

 そんなことわかってるもん。驚かせるような声のかけ方をしたのはそっちでしょうに。つい恨みがましい目で見てしまったのは仕方ないと思う。

 リーアンはそんな私の反応を見ても、余計に楽しそうに笑っているから間違いなく確信犯だ。もうっ!


「はぁ。全く気付きませんでした。まさかもう来ていたなんて……」

「オレっち、結構やるっしょ? 気配を消すのもお手の物だよ?」


 私が鈍いっていうのもあるだろうけど、一応気を張っていたのに気付かなかったから、確かに気配を消すのも上手いのだろう。

 見つからないように気を付けて来てくれたとはいえ、もう少しなんとかならなかったものか。寿命が三年くらい縮んだよ、きっと。私はビビりでもあるのだから。


「さてと。オレっちがあいつらから聞いたのはー、エマチャンを連れてカノアっちの解放をしに行けってことだったんだけどー。あってる?」

「あ、あってます。あの鳥居にはいないみたいで……それであの二人は囮に」

「ん、オッケー、オッケー。大体わかっちゃったかもー。……ふぅん、カノアっちって変なヤツだとは思っていたけど、まさか封印場所まで変な場所にするとはねー」


 そりゃあ、あんな場所にいたら飛べないと無理だねー、とリーアンは顎に手を当てながら楽しそうに首を傾げた。それによって水色から朱色に変わる襟足の長い髪が揺れる。

 それから目線だけでこちらを見て、妖艶に微笑んだ。


「じゃ。命令しちゃってよ、聖女サマ?」


 命令、ですか。なんだか含みを持たせた言い方だなぁ。

 リーアンの事情を聞いた後だと、それも仕方ないかなって思えるけど。これ、聞いてなかったらムッとしていたところだよ。

 まぁ、ムッとしたところで何も変わらないけど。人と言い合うのはものすごく苦手だもの。そもそも、すぐ諦めちゃうから言い合いにもならないんだけどね。


 さて、このまま黙っているわけにもいかない。私をあの位置まで運んでもらわないと、囮になった二人が危ないもの。


「え、えっと。リーアン、私をドラゴンの封印場所まで連れて行って……もらえますか?」

「あははっ、惜しい! なにそれぇ? 命令になってなーい!」


 途中までは良い感じに言えていたと思うんだけど、いざリーアンの目を見たらダメだった! しかも一瞬で逸らしちゃったし。

 人の目を見るのも苦手だぁ……。どーせ、ダメなヤツですよぅ。


「わ、私は、たぶんこれまでも人に命令なんてしたことがないから……。どうしてもうまく言えないんですよ」

「たぶん?」


 リーアンが首を傾げる。ああ、彼は知らないんだっけ。でも自分が記憶喪失だとか言うのはなんとなく気恥ずかしいな。もじもじと両手をギュッと組みながら目を彷徨わせる私。


「えっと、過去のことをあんまり覚えていないので……。だからハッキリとは言えないんですけど、今は間違いなくこれが限界なんです。ダメ、ですかね?」


 なんだか痛い子みたいだな。記憶もない、自信もない、私には足りないものだらけだ。凹む。


「エマチャンって……もしかするとオレっちと同じような目に遭ってんのかもね」

「え?」

「んーん、なんでもなーい。じゃ、お願いもされたことだし、囮も長くは持たないだろうし! オレっちたちも行っちゃおうか!」


 お願い、か。うん、その方が私には合っている気がする。命令よりずっとハードルが下がるというか。

 でも、お願いだと聞いてもらえないこともありそうだよね。強く言えないのだから仕方ないか。


 一人で納得していると、グンッと勢いよく身体が持ち上げられるのを感じた。そして何がどうなってこうなったのか、今私はリーアンの背中におんぶされている状態となっている。なんで!?


「オレっち、飛ぶ時は腕が使えないからさ、自力で掴まってて? 首とかギュッと締まっても問題ないから。とにかく落ちないように気を付けてねー」

「嘘でしょう!?」


 慌てる私のことは知らんふりで、リーアンは腕に炎の翼を纏い始めた。熱っ……くない。不思議な炎だ。

 というか、待って。え、本当に? 本当にこの状態で飛ぶの!?

 慌ててギュッと首に回した腕の力を強める。


「よっわ。力よっわ! そんなんで大丈夫かなー?」

「あ、あのっ! あんまりスピードは出さないでくださ……ひゃあっ!!」

「え? 何ー? 聞こえナーイ!」


 絶対にわざとでしょー!?

 全てのムーブが突然過ぎて、もはや叫んでいられないと思った私は、とにかく必死でリーアンにしがみつく。安全ベルトは自分の腕のみ! アンドリューの飛行よりやばいー!! ぎゃあああああ!!


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