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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
もはや聖女を認めない私が頑固者みたいになっているのですがそれは
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なんだか警戒されている気がします


 彼はフェニックスの幻獣人だった。つまり、不死鳥ってやつだ。

 なので、寿命により何度か代替わりをしたことのある他の幻獣人とは違い、何度でも蘇るので代替わりというものをしたことがない。つまり、この世界の歴史を全て知っているのだ。

 なんか、壮大すぎて頭が追い付かないや。


 で、なんで私がそんなことを知っているのかというと。


「あ、オレっちのことはリーアンでもリーくんでも好きに呼んで? 君、ここにいるってことはー、新しい聖女チャンなんでしょ? めっちゃ可愛いんですけどー! アガるーっ!! ねーねー、名前教えてよー! 仲良くしよーっ!」


 聞いてもいないのに、ずっとこのリーアンが喋り続けているからである。マシンガントーク過ぎて目が回りそう!


「だから離れろっつってんだろ殺すぞああっ!?」

「シルヴィー相変わらずこっわーい! 別にいいよー殺してもー! 蘇るし!」

「蹴る」


 シルヴィオの華麗なる回し蹴りによってリーアンが吹っ飛んでいく。ちなみに今のやり取りも、このほんの数分間でもう五回目だ。

 初回はかなり驚いたけど、ケロッとした様子で戻ってくるのでもう苦笑するしかない。むしろリーアンはこのやり取りさえも楽しんでいるように見える。


「でもさー、前の聖女チャンとはまたタイプが違うよねー! ちょっと強気で一直線に進むあの子も好きだったなー。今ここにいないってことは……もういないんでしょ?」


 ……え、急に真面目なトーンになった。アンドリューに流し目を向けているその姿は、妙に色気が漂っているというか、曲者感があるというか。


「……ああ、そうだ。そしてこのエマが新たな聖女様であり、封印された幻獣人様を唯一解放することが出来る」


 いや、あの。だから私はまだ聖女を受け入れたわけではないのですけど。

 そう伝えているはずなのに、どうもアンドリューたちは私を聖女として扱っている気がするんだよね。なし崩し的に聖女として祭り上げられる気がする。嫌だなぁ……。


「へー? エマチャンっていうんだ! ふーん、へぇぇ!」

「は、な、れ、ろ! ごらぁ!!」


 リーアンは隙あらば私に近付いて話しかけてくるので、シルヴィオが終始オラオラモードである。いや、そ、そこまで気にしなくても大丈夫だよ? 言い出せないけど。


 でも、そんな余裕は吹き飛んだ。リーアンがまたしても隙をついて私に近付き、耳元でこう囁いたからだ。


「ね、エマチャンはさ。……聖女だからってチヤホヤされるのが当たり前、とか思っちゃうカンジ?」

「え……」


 これまでの陽気な明るい声ではなく、低く、こちらを試すような声色にゾッとした。

 すぐさまシルヴィオによって私から引き離されたリーアンは、すでに陽気モードに戻っていたけど……。今のは、どういう意味? アンドリューやシルヴィオとは違って、ものすごく警戒されている気がする。


「何か失礼なことを言われませんでしたか?」

「え、いえ。あの」


 シルヴィオに優しくされて、思わず口籠る。さっきの言葉を聞いた後にこうも甲斐甲斐しくされると、リーアンにはこの光景がそう見えているのかなって。気になって落ち着かない。


「ね、どうなの? エマチャン」


 少し離れた位置で、面白そうに朱色の目を細めてリーアンが言う。

 この人、ただチャラいだけじゃない。逆らったらまずいような、そんな凄みがある。正直、すごく怖い。


 でも、誤解はされたくないって思った。だってそれは、親切にしてくれるシルヴィオやアンドリューにも失礼なことだと思うから。


「……思っていません」

「そ? まーぶっちゃけー、どっちでもいーんだけどねー!」


 私が自分の中の勇気を全部振り絞って答えたというのに、リーアンの返事はこちらが拍子抜けするほど軽いものだった。な、なんなのぉ……?


「はぁ、まったく。あとで問い詰めますからね、リーアン。とにかく、ここでのんびりお喋りしている場合ではありません。アンドリュー、先に進みましょう」

「ああ、そうだな」

「えー、なになに? どっか行くの?」


 そうだ、今回の目的はドラゴンの幻獣人を解放すること。も、もちろん、リーアンも解放する予定だったけど! でも、ドラゴンを解放しないと、朝露の館って場所に辿り着けないものね。


「あまり時間がない。あとは移動しながら説明する」


 アンドリューがそう言いながら再び羽を広げた。ようやくこの火山から離れられるんだね。魔道具を信頼していないわけじゃないけど、気持ち的に危険な場所にい続けるのは怖かったからホッとする。


「オッケー! 訳ありってカンジね? オレっち空気読めるタイプだから任せてよー!」


 リーアンがそれを受けて陽気に笑いながら腕を広げると、腕全体が先ほどのフェニックスの羽に変化した。アンドリューみたいに背中から羽が生えるわけじゃなかったんだ!? 


 でも、よく見ると普通の鳥の羽とは違うみたい。先端に行くほど水色から朱色に変化していく不思議なその羽は、ゆらゆらと炎のように揺らめいていた。

 あ、腕に炎を纏っていると言った方がしっくりくるかも。それが鳥の羽のように見えていたんだ。うん、ちょっと怖い人だけど、やっぱり綺麗……。


「空気が読めるのならもう少し黙ってくれてもいいんですけどね」


 そんなリーアンにどこまでも冷めた視線と言葉を投げかけたシルヴィオは、流れるような自然さで私を横抱きにすると、再びユニコーンへと姿を変える。

 ナチュラルすぎて反応も出来なかったよ。このスキンシップに慣れつつある自分が怖い……!


 走りますよー、という穏やかモードなシルヴィオの声が聞こえたかと思うと、すぐにまた景色が流れ始めた。わわっ、やっぱりめちゃくちゃ速い!!


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