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8月某日の昼下がり、アスファルトは日差しを受けうんざりするほどの熱を放っている。
そんな猛暑の中、公園の木陰で項垂れ座り込んでいる青年がいる。
中肉中背、黒い髪を短く刈り上げ、白いヨレたTシャツに紺のジーンズ、至る所に身に付けているシルバーアクセサリー。
普通に見れば不良にしか見えない粧いの青年は、しかし全くと言って良いほど覇気が無かった。
「暑い…。消し飛べよ太陽……。」
理不尽にも暴言を吐かれた太陽は容赦無くその日差しで照りつける。
座り込む青年の手には丸められた求人広告とスマートフォンが握られている。
「くっそぉ……また面接落ちちまったよ…。見た目直してから来いってなんなんだよぉ…カッコいいだろこれ…。」
青年の嘆きのなか、目の前に少しすり減ったボールが転がってくる。小学生くらいの少年が走り寄ってきて拾う。
少年の日に焼けた肌は充実した夏休みを感じさせ、少年は遠くから友人の声に元気よく返し、走り去っていく。
そんな様子を死んだ魚のような目で見送った青年がふと昔を思い出した。
「あれぐらいの頃は、勉強以外は何でも楽しかったし、働いてる大人も無意味にすげぇカッコよく見えたんだよなぁ……。」
昔を思い出し、今の自分の姿を考え、青年は苦笑いを溢す。
「それに比べて何なんだろなぁ今の俺は……。見た目ばっかり気にして、たいした努力もしてなくて。挙句現在無職って……はぁ……カッコわりぃ…。」
昔の自分が思っていた未来の自分はこんな情けない奴だったか、もっと格好良い大人になると思っていなかったか。
青年はぼんやりとキャッチボールをする少年達を眺めながら思い悩む。
自分の思い描いていた将来はどんな風だったか、どんな大人になりたかったのか。
しかし、青年のそんな悩みのもいざ知らず少年たちの声が聞こえてくる。
「おーいー!またかよー!!」
「ごめーん!」
明後日の方向へ投げられ公園から出で道路まで転がって行くボールとそれを追いかける少年を見て青年の顔色が変わる。
少年が道路の前で止まるそぶりすら無かったからだ。
そして走り出した青年の目の前でボールを拾って走ってくる少年と、少年に気付いていないワンボックスカーが見えた。
「危ねぇ!早くこっち来い!!!」
青年の声と形相に驚いた少年が立ち止まり、そこに至ってようやくアスファルトを削るタイヤの悲鳴が響き渡る。
極度の緊張でかスロー映像のように遅くなる視界の中、何とか伸ばした手が少年の服の端に届いた。
青年は全力の力を込めて少年を後方に投げ飛ばしたが、自分の走った勢いを殺すことが出来ず道路に飛び出してしまう。
青年は前のめりに突っ込んだ姿勢のまま道路に飛び出してしまう。
(あ、死ん)
衝撃が青年を貫き、その体を宙へと押しやる。
突如訪れたそれは、青年の意識も未来も刈り取った。