第2話 スキルの開示/神威合一
レアニが俺たち一人ひとりに手渡したのは一枚のカードだった。
無地の白の非常にシンプルな代物だった。
「こちらでスキルを開示できますよ!
ちなみにこのカード、皆さんの身分を証明するものにもなりますのでなくさないでくださいねー」
周りの鎮痛な空気には似つかわしくない、ハキハキとした口調で配って回っている。
「それではスキル開示を行いましょう! 私の言葉に続いて言ってくださいね♪
せーの……スキル・オープン!」
皆が口々に「スキル・オープン」とつぶやくが、何も起きない。
レアニがあらあらといった様子で首を振る。
「あれれ~そんな小さな声じゃ発動しませんよ~?
もう一度、今度はもっと大きな声で言ってみましょう! せーの、スキル・オープン!!」
(ヒーローショーのお姉さんかよ)
そう思いながら、俺もさきほどよりはやや大きい声で「スキル・オープン」と言う。
すると、ピロン♪ というリズミカルな音と共に目の前にウィンドウが開かれる。
* * * *
アスマ・オリハネ
肉体:E
精神:B++
魔術:E
速度:C
根源:A+
* * * *
表示されているのはパラメーターのようなものだろうか、それぞれの意味は何となく分かる。
肉体は自身の身体的な力のことだろう。もともと強くはない自覚はあったがEと表示されているのは泣けてくる。
精神と魔術それぞれは正直違いが良くわからない。精神が精神攻撃への適正で魔術が魔法に対する適正といったところだろうか?
速度が思考や行動に対するものとして……
(根源、って一体何だ?)
と思った矢先、レアニの近くにいた女性がちょうど同じところに気づいたらしい。
「あの……ここに書いてある根源ってステータスはどういう意味なんですか?」
「あぁ、これですか? 正直私達もよくわかっていないんですよねぇ。
この召喚魔術を編んだ魔術師が独自設定した値だとは思うんですが、まぁ幸運っぽい感じですかね
統計で根源が高い人はそうじゃない人と比べて1.1倍くらい生存率が高いとかなんとか」
(ほとんど死にステータスじゃないか……!)
レアニの言葉を聞きながら、俺は一人ごちた。
1.1倍程度の倍率じゃ、あってもなくてもほとんど変わらない。
せっかくA++という高めのランクが付いたのに……
「まぁ、パラメーターも重要ですが、一番の花形はスキルですよ、スキル!
表示されているところの下の部分を見てください! そこに皆さん固有のスキルが記載されていますので♪」
そう言われて、俺も気を取り直してスキル欄を見に行く。
せめて……せめてスキルが良ければ!
そんな願いはあっけなく砕け散ることになる。
* * * *
スキル;《合一》
強度:E
効果:周囲を漂うマナを身にまとうことで、任意のステータス1つを1段階上げることができる。
* * * *
(しょ、しょぼい……!)
簡単に言えば自身にかけるバフスキル……ということなのだろうか。
それにしたって任意のステータス1つを1段階というのはしょっぱすぎる。
もともとのステータスもほとんどが低パラメーターだから、意味がないだろう。
と、他の連中が次々と歓喜の声を挙げ始めた
「おい! この《剛柔鉄体》ってスキルすげーぞ! 全身が鋼鉄に覆うことができるらしい! 肉体ステータスもB+だから、組み合わせたらかなり強いんじゃないか!?」
「俺の《火燐》もやばいな、周囲15メートルに複数の火柱を上げることができるみたいだ。へへ、呼ばれたときはやばいと思ったが、こういうのが実際にできるならなかなか楽しそうじゃないか」
エトセトラエトセトラ……
反応はほとんどが楽しそうだ。
さっきまで四肢を失ったはずのレックスも自身のスキルを見ながらにやけている始末である。
どうやら他の連中に俺と同じようなスキルを持っている奴らはいないらしい。
と、そんなふうに考えていると目の前にレアニがやってきた。
「あらあら、アスマさんでしたか……? 顔色悪いようですが大丈夫ですか?」
何やら悪意を孕んだ笑みを浮かべ、俺の開いたステータスを覗き込んできた。
(やばい……!)
と止める暇もなく、気づいたときにはすべてが手遅れだった。
「強度:E。任意のステータス一つを1段階上昇……ですかぁ。
もともとのステータスも低いようですし、申し訳ないけどなんか残念な感じですねぇ」
ちっとも申し訳なく感じていなさそうな口ぶりで、レアニはそう言い放つ。
「あ、でも大丈夫ですよ! 死にスキルの人でも我々ランドワースは歓迎いたします!
荷物の運搬とか色々仕事はありますし、衣食住は保証いたしますよ!」
荷物の運搬……有り体に言えばただの雑用である。
勝手に召喚しておいてこの口ぶりはあまりにもあんまりなのではないか。
と、いつの間にか周囲の視線が俺に集まっていることに気がついた。
「Eランクってマジかよ、あの子……俺のステータスにEなんて一つもなかったぞ」
「荷物の運搬程度じゃ、軍の中で成り上がりも無理だよね……」
「ひでーな……ランクAの俺みたいなスキルなら、活躍できたかもしれないのに」
聞こえてくるのは侮蔑と憐憫の言葉、声。
内容はおおむね、俺の低ランクスキルに対する嘲りと、自身のスキルランクに対する自負と安堵であった。
(おいおい、どうなってる……
いつからお前たちは軍で働くことに前向きになってんだよ!)
先程までいきなり召喚されたことに困惑していたはずなのに、いつの間にかレアニに同調して俺を嘲るポジションに回っている。
(簡単に言えば、俺は連中のポジショニングのための生贄にされたのか……
先程のレックスに対する見せしめをあたえ、スキル開示という飴を与える。
そして俺という低ランクスキルの人間をスケープゴートにすることで、ポジショニングを行わせる。
無意識のうちに自身が軍に属することを肯定的に捉えてしまったのか……!)
ここにいる全員が、俺を除いていつの間にかレアニの掌中に収められてしまったのだ。
「さて! 早速ですが明日の夜明けから皆様には出陣をしていただきます!
ここで功績を上げれば早速、富も名声も切り取り次第で得られますよ♪」
止めとばかりに、レアニは先程まで布に覆われていた膨らみから布を取り去る。
そこには……
「あ、あれって本物の金か!?」「マジかよ……あんなの前いた国じゃ見たこともないぞ!」
色とりどりの宝物が山盛りに置かれていた。
見ると周囲の人間たちは完全に目の前の宝に眼を奪われている。
(そして最後に、餌を眼前に突きつける……か
ステータスを表示させることで、ゲーム感覚に捉えさせているのも効果的に作用しているな)
だが流石にズブの素人を実戦投入は看過できない。
「いきなりの実戦なんて大丈夫なのか? 少なくとも訓練を……」
「ご心配しなくても、アスマさんと違って皆さんのステータスは平均でC+以上です。
これだけで一般的な兵士の3倍以上の強さがあるんですよ。――貴方と違ってね?」
俺の心配も意に介すことなく、レアニは皮肉を返してきた。
同調するように周囲から嘲笑がこぼれてくる。
「……これがあんたたちのやり方か」
「さぁて、なんのことですか?」
俺の言葉に、レアニは唇をいびつに歪ませた。
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