第1話 ようこそランドワース王国軍へ/1から始める国軍生活マニュアル
「おめでとうございます! 皆様は映えある戦士として、我々ランドワース王国に迎え入れられました!! これからは我々王国軍と共に戦い、富と名声を手に入れましょう!!」
軍服の女性はステージの上に立ち、張り付いたような笑顔で高らかにそう宣言した。
一方でステージ前の広場に集められた俺たちは困惑を隠すことができない。
「どういうことだ……さっきまで俺は確かに、帰りの道を歩いていたはずなのに」
俺は周りを見渡しながら、自身に起きたことを思い返していた。
学校が終わり、帰宅路の途上にある人通りのない裏路地。
そこを歩いていたときに、急に俺の周囲を光が包み込み、困惑する暇もなく意識を失い……
気がつけばこんな、見覚えのない場所で立ち尽くしていた。
「お、おい! ここはどこだ!!」「早く家に返せよ!」「誘拐のつもり!?」
周辺には俺と同じような格好をした人々が、困惑の表情とともに非難の声を上げている。
見たところ白人も黒人も入り混じっているが、流暢な日本語として認識できている。
「はいはい皆さん落ち着いてくださ―い。質問のお時間はあとにとってありますので、そのときに!
早速ですが、ここまでの経緯を皆さんにご説明いたします! 説明は僭越ながら私、レアニが担当いたしますね♪」
レアニと名乗った女性がパンパンと手をたたきながらそう言うと、空中にパネルのようなものが浮かび上がった。
周囲の人たちは所在なさげにそのパネルを見上げる。
俺もそれにならって見上げると、コミカルなイラストとともに説明書きが書いてあった。
(イラストにメッセージの一枚説明書き。まるでパワポだな)
と思いながらもそれを読み上げるレアニの声を慎重に聞く。
(ここで説明を聞きそびれば、状況を把握する機会が失われる。今は聞き逃しをしないようにしよう)
イラストを省略すれば、説明は概ね以下の通りだった。
【歓迎・ランドワース軍! 1から始める王国軍 ~スキルを生かして英雄になろう!~】
・ここはあなた方の世界とは違う世界にある国、ランドワース王国です。
・みなさんは私達の王国軍の一員に参加していただきたく、この世界に転移魔法でお呼びいたしました。
・皆さんを読んだ年代も国もバラバラですが、我々の魔術によって言語疎通は問題なく行えます。
・この世界に呼出したときに、「スキル」と呼ばれる固有能力が皆様に付与されています。
・その他、身体能力はこの世界の一般人を遥かに超える力を手にしています。
・その力を我々の王国軍のために生かしてください。
・戦績次第では、富も名声も思いのままです。
「――と、説明は以上です!
なにか質問がございましたら、手を上げて教えてくださ―い!」
「ふざけんな! 家に返せ!」「勝手に呼び寄せて何いってんだ!」
レアニが言うやいなや、非難轟々の声がステージに向かって飛んできた。
正直俺も同じ気持ちだ。
勝手に呼び寄せて戦えなんて、見返りがあるにしてもひどすぎる話だろう。
「おい嬢ちゃん……ドッキリでやってんなら大怪我する前にネタバラシしたほうがいいぜ?」
特に血気盛んそうな男が、ステージ上にのぼりレアニに詰め寄る。
今にも食って掛かりそうな気配だ。
「おやおや、ドッキリなんかじゃないですよ! ええと貴方は……レックス・スミスさんですね?
確か貴方は1995年のアメリカから来られた方ですよね?
周囲を見てくださいよ。どう見てもアメリカには見えないでしょ?
本当に異世界に呼ばれたんですよ、貴方は」
レアニは至って冷静な様子でレックスと呼ばれた男にそう返す。
俺は改めて周囲を見渡すが、石畳で覆われた床に広間を囲む中世ヨーロッパのような建物。
確かに日本にもアメリカにも見えない。番組のセットとかでなければの話だが。
「……はっ! わざわざセットを用意したようだが、俺は騙せねぇぞ!
それにスキルに異世界だぁ? ハッ! 嘘を吐くにしてももうちょっとうまく吐くんだな!」
レックスはそう言うと、レアニの軍服の首元を掴み上げた。
一瞬即発、そんな雰囲気である。
レアニは困ったように眉尻を下げながら、あらあらと首を振る。
「うーん、やっぱり毎回の転移でこういう人は一人はデてきてしまうんですよねぇ。
でしたら、実際にお見せいたしますよ」
「あぁん!? 何を見せるっていうんだ!」
食って掛かるレックスに向けて、レアニは酷薄な笑みを浮かべ
「私の言っていることが、嘘偽りのない100%の真実ってことをですよ」
パチン、と指を鳴らした瞬間。
レックスの四肢が弾け飛んだ。
両足を失って、床に転がるレックス。
自身に何が起きているか、全くわからない表情を浮かべている。
「なんだ……俺、一体どうなって……?」
「どうです、本当だったでしょ? 私のスキル……任意の物体を爆破・消失させる能力なんですけど、見た目が派手で説明するときの説得力があるので、ケッコーお気に入りなんです♪」
朗らかな笑みを浮かべながら、臥したレックスを見下ろすレアニ。
周りの人間は、絶句する者と悲鳴を上げる者、助けを求める者と様々だった。
その様子を確認したレアニは、今度はなにか合図を送るかのように手を挙げる。
その瞬間、先程まで確かになかったはずのレックスの四肢が復活した。
床に転がり臥しながら、彼は自身の手足を触りながら確認している。
「もちろん、この場ではちゃあんと治してあげますよ! レックスさんも既に大切な我々の仲間ですからね!
さぁ、続いてはお待ちかねのスキル鑑定のお時間ですよ~♪」
そう言うと、周囲に立っていた衛兵らしき連中が俺たちを誘導し始める。
既に周りの人々はレアニに主導権を完全に握られていた。
(とりあえず、今は情報の収集に務めるか……)
そう判断した俺もその列に続く。
そんな俺達のことを、レアニが張り付いたような笑みを浮かべ見つめていることを確かに感じ取りながら。
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