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魔法屋の恋愛相談事件簿  作者: 高遠 泉
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10

時は遡り、随分と前の事。


「ねぇ、アル。銀狼って知ってる?」


シルベスターが「お風呂、行ってきまーす。グランも一緒に入る?」と言いながら、くふくふ出て行ったドアを見つめながら何気ない事のようにグランが呟く。


「行かないわよ、風邪ひく前に早く入りなさいよ」と言ったその口で。


「…知っていますよ?」

「そうよね。…アルは知っているわよね」

「大丈夫ですか?お嬢様」

「…大丈夫よ…。ところで、明日、ロザリー嬢の相談が舞い込むはずよ」

「おや、少しばかり早かったですね」

「大丈夫かしら?」

「準備は着々と整っていますから、御安心ください」

「じゃあ、よろしく頼むわね」


泣きそうな顔をしているグランにアルベルトが優しく大丈夫ですよ。と囁いた。



**********************************


人が怒ってる時、自分が冷静になれるのは何故だろう。


「あーのー、クソ親父!!!」


グランの可愛いさくらんぼ色のぷるんとした美味しそうな唇から、可愛くない言葉がどんどん飛び出る。

俺のグランは今、最高潮にご立腹だ。

俺は、そんなグランを俺が容れた最高に美味しいベリーソーダで慰めている所だ。


ありがと、と優しい笑みを浮かべて俺からキンキンに冷えたソーダを受け取る。

カランと冷えた氷が澄んだ音色で俺のグランをいやしてくれるに違いない。


「あの下衆野郎……殺す!」


ダメだった。

目がマジだった。

これは、俺でも止められないやつだった。

いや、分かる。気持ちは分かる。

俺も殴りたいとは思う。

最初は俺の方が成敗してくれる!とか殴るとか殺すとか言っていたのをグランが理論で止めていたじゃない。

思い出して、グラン!

と、ほら、チョコレートだよ。

と、言ってみたがダメだった。

ごめん、これ無理なやつだった。

俺はグランの怒りを横目に空を見上げる。

今日の空は晴天だったのにと思いながら。


ドン!と強い音をたてて机に以前俺に見せてくれたピンク色の透き通った最高級のアルベルト自家製魔鉱石が入ったピンクのベロアの袋を置く。


「もー。グラン、そんな強くしたら机に傷がつきますよー」

もう、俺はあきらめた。


「いいのよ!こんな机!どうせあの性悪親父の机でしょ!」

「まぁ、そうですけど」

「あーもー!こっちが正攻法で許してやるって言ってるのに!あの親父、死ぬほどの恐怖を味あわせてやる…」

「まぁまぁ、グラン、可愛い顔が台無しだよ?」

「ふん!」


先ほど、グランが大好きなお気に入りのブランドのチョコレートを差し出すも、未だ怒りは最高潮だ。

空を見上げながら、嵐よ来い!などと叫んでいる。


まぁ、分からなくもないし実際俺はあいつは痛い目にあえばいいと最初から言っていた。

言っていたのだが、俺は雷が怖い。

グランは怒ると周辺の天候でさえも変えてしまう。

その証拠に雲一つなかった青空が、今では真っ黒な雲に覆われている。

空が一瞬光ったかと思ったら、まるで神の怒りの如く雷鳴が轟くと一瞬で滝の様な雨が空から降ってくる。

再度言うが、俺は雷が怖い。


雷鳴は更にひどくなり、更に空が黒い雲に覆われていく。


「グラーン!!」

「何よ」

「俺、雷苦手なの知ってるくせにー!!やめてー!!」

「ふん!」


グランの怒りは俺がなだめても収まらず、その証拠に屋敷周辺を嵐が包込んだのだった。


*****************************


「最高だったな、あの女の顔!」

下衆びた男の声が暗雲立ち込める部屋の中、響き渡る。

下品な笑い声をあげる度、男の醜い脂肪の付いた腹が笑い声に合わせて揺れる。


「俺を丸め込もうなどと100年早い!」

「…そうですね」


銀色の髪の、その男の執事としては珍しい顔の否に整った男がグラスに赤い濁った血の様なワインを注ぎながら相槌を打つ。


「何が、この石を借金の代わりに俺に買えだ!小賢しい!」

「でも、いいんですか?」

「何がだ」

「あれほど透き通った石はそうそう市場に出回りませんよ?」

「はっ!お前は何年俺の元で働いているんだ」

「と、申しますと?」

「もちろん、あの石も頂くさ。どうやると思う?」

「…」

「俺と婚姻を結べば、あの娘の全ては俺の物になるわけだろう。だったら婚姻して奴を思う存分楽しんだ後、殺してあの娘の親父の土地も、あの娘が持ってきた石も全て奪えばいい。そうだ、殺す前に俺があの親父にしたことを全て話してしまうのもいい。そうすれば、それこそ見た事も無いような価値のある石になるに違いない!いや、いたぶる前に女に話すという手もある。どちらがあの女が絶望を味わう様を楽しむ事が出来るか・・・くっ、これは見ものだ!そう思うだろう?」


下衆びた笑いが部屋中に響き渡る。

笑う度に揺れる腹も、にやける顔も全て吐き気がする様を雷雲で薄暗くなった部屋を更に薄暗くさせる。


「勿論、お前にも楽しみを分けてやるからな」

「旦那様、しかしながら奥様が許さないのではないのですか?」

「あぁ?なんだ、俺の花嫁なんだぞ?いたぶって何が悪い。お前に言われた通り、今までは石にするだけで我慢してきたんだ。多少の楽しみを味わって何が悪い。あいつだって沢山お前と楽しんでいるんだ。俺にも楽しみは必要だ」

「なるほど」

「俺は、さんざんあいつの為に女をいたぶる事を我慢してきたんだ。今回はたっぷり楽しませてもらう」

「奥様が悲しまれるかもしれませんよ?」

「なんだ今更。あいつだってお前がいれば十分だろう。あいつも今回の件は賛成している。大丈夫だ。あの女はお前にくれてやるから充分に楽しませてやれ」

「奥様を私にくださるのですか?」

「あぁ、くれてやるとも!あの花嫁さえ手に入れば、あいつだっていい思いが出来るんだ。お前があいつを楽しませてくれている間、俺は他の女を楽しませる事が出来る。あぁ、早速幾人か見繕っておいてくれ。待ちきれんな」



「なるほど、奥様を私にくださると…それは素晴らしい考えですね…」

「だろう?」


男はそういうとグラスに注がれたワインを一気に飲み干した。






コメディ要素がまるでない。

どうしよう。

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