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魔法屋の恋愛相談事件簿  作者: 高遠 泉
13/16

潜入 7


「ルー。おいで」

優しい、母様の手が伸びてくる。

母様!

生きていらっしゃったのですね!

僕!僕!


「おいで、私の可愛い子。銀狼の名を継ぐ、私の可愛い子」


優しい、陽だまりの様な母様の微笑みが、逆光なのか、丁度母の顔の部分が眩しい光で見る事が出来ない。

私の、可愛い、銀狼の、子。


母の呟きが、夢の中でこだました。


************************



最近、妙に館で働く従業員や警備の者たちがキラキラしている気がする。


遠くの山々は未だ雪があるものの、麓のこの街や、館のあるこの場所ではちらほら春の息吹が感じられてきた。

山々に比べ、比較的雪が積もらないこの街だが冬の間は枯れ木も目立つし、何より晴れている日が多いとはいえ、寒さが堪える。


警備の為に外を巡回する毎日は、それはもう、早く春をすっ飛ばして夏にならないだろうかと思ったくらいだ。

だが最近は、めっきり春めいて朝晩を除き、日中は薄手のコートもいらなくなっている。


「どうかしたんですか?レオン?」


ぼけーっと、いつもの別館の屋上から遠くの山を眺めていたらアルベルトが横から俺を覗き込んできた。


「!!」


今日も整った顔が眩しい。

しかも、かしげる様に下から俺を覗いている!!

今日の俺の心臓も、相変わらずオカシイ。


動悸、息切れ…何かの病か。


恋ではない、断じて、恋、ではない。

この動悸はきっとこの未だ何もするなという本部からのストレスの現れであって、断じてこの男が近くにいると発症する病ではない。


遠くに何かあるんですか?


と呟きながら、俺の見ていた方向にアルベルトが目を向ける。


…何もないんだが。


「とりあえず、休憩にしませんか?」


今日はフルーツティーをお持ちしてみました。と、柑橘の爽やかな香りが俺をくすぐる。

その、笑みを、やめてくれないか。


今日も、アルベルトの眩しさは衰える事を知らない。

俺は深い溜息を付いた。


「で?どうしたんです」

こくりと一口、自分で淹れてきた紅茶を飲み満足そうに目を細める。

「いや、何だか最近、季節の所為なのか周りの者がキラキラしているなぁと思っただけだ」


お前はいつも、季節を問わずキラキラしているが。という言葉を飲み込む。


「あぁ、それは、あれです」

「?」

「このアクセサリーの効果かもしれません」


ニコリと不適な笑みを浮かべながらアルベルトがほほ笑み、ポケットから青いブローチを取り出した。


うん、今日も、目が笑ってねぇ。


「なんだ、そのブローチ」

白い手袋の中には羽をモチーフにしたのであろう、中心に青く輝く石を抱いたブローチが収まっている。


「綺麗だな」

「有難うございます」

「?何でアルベルトがお礼を言うんだ」

「私の手作りですから」


…な?


「このアクセサリー、作ったの、私なんです」


悪戯を成功させたような、今度はきちんと目の奥が笑っている笑みを見せられ、俺はその場で固まるのだった。


「あ、この後レオンにお話しがあります」


そう告げると、悪戯をしでかす前の様な笑みを浮かべ、アルベルトは更に俺を固まらせるのだった。


中々進まなくてごめんねーごめんねー。


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