[完] エピローグにはまだ早い
元の世界に戻った後、ぼくは長い間無気力な毎日を送っていた。学校に行く必要も、働く必要もない。おそらく異世界を救った謝礼だろう、(株)メガミという送金元からかなりのお金がぼくの銀行口座に振り込まれていたのだ。
そんなある日、だらだらと動画サイトを見ていたら、「TAS動画」というものを発見した。ツールをつかって何度もプレイ中のゲームを巻き戻し、最短最速でのクリアを目指す動画らしい。
ぼくは、そういうことに挑戦している人たちに親近感を覚えて、自分もやってみることにした。事前の情報の収集が大事だったり、作業感が強いところに懐かしさを感じて楽しかった。
正直、異世界で魔導書図書館を超える数のノートを残すような戦いをしてきたぼくにとっては、その作業はそんなに苦痛ではなかったのだ。むしろ楽だったと言って良い。
ぼくは、瞬く間に有名ゲームの最速記録を塗り替えて界隈の有名人になった。
人々はぼくを「ミラクルミッちゃん」と呼ぶ。
今までで一番マシな呼び名に、がぜんやる気がみなぎっている。
「さて新しいゲームの最速記録に挑戦するか」
ディスプレイにはゲームのタイトル画面が表示されている。
ぼくの戦いはまだ終わらない。
最後までお読みいただきありがとうございました。
異世界転移ものではありますが、テンポの良い短編コメディを目指して書いてみました。
一般的な流れとは異なるので少し来たいとずれた作品になっていたら申し訳ありません。
ラストは、主人公が異世界で手に入れた(手に入れさせられた)根気を武器に、現実世界でも名を馳せることになるという前向きなエンディングにしました。
あなたが見たことのあるTAS動画も、彼――ミラクルミッちゃんのものかもしれませんよ(笑)